【日産 セレナ 試乗】要改善点はあれど、王者の貫禄は健在か…中村孝仁 | CAR CARE PLUS

【日産 セレナ 試乗】要改善点はあれど、王者の貫禄は健在か…中村孝仁

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日産 セレナ
日産 セレナ 全 29 枚 拡大写真
日産『セレナ』の属するセグメントをMセミキャブ市場と呼ぶのだそうだ。このセグメントにおいて、セレナは先代C26の時代からトップを快走した。

売れる背景にはハイブリッドの投入、ライバルに比べて広く、安い購入価格などがあるという。そしてニューモデルでも広さ、使い勝手、それに楽しさをさらに追及したモデルに仕上げている。今回試乗したモデルはGというグレードに、オプションをてんこ盛りにしたもの。その価格は369万5824円である。これを聞いて多くの読者は高いなぁ…という印象を持つかもしれないが、車両価格は284万7960円であり、ほぼ85万円近いオプションが搭載された言わば豪華仕様であることをお断りしておく。

そのオプションの中でも外せなかったのが、プロパイロット。メーカーが謳う同一車線自動運転技術は、個人的には本来そう呼ぶべきではないと思うが、とりあえずそう名前が付けられたものだ。これ、簡単に言えばアダプティブクルーズコントロール(ACC)と、レーンキープアシストを組み合わせたもので、輸入車なら例えばVW『ゴルフ』にだって、上級モデルは標準設定されている装備だから、新鮮なものではない。まあ、ミニバンとしては世界初だそうだから大げさな表現となるのだろうが、断っておくが決して万能な自動運転が出来るものではない。

勿論ちゃんと車線を読み取れば、カーブに沿って自動的にステアリングを切ってくれるし、ちゃんと車間を保って前車に追従してくれる。万一前車が止まっても、リジュームボタンを押せば発進して、再び前車に追従する。ただし、である。再発進の際の加速が緩慢過ぎて、とてもじゃないが普通に走る前車に追従できず、大きく後れを取る。キャッチアップするまでの間に車間が空いてしまい、場合によってはそこに別の前車が進入することたびたび。とりあえず、機能としては成立しているが、まだまだ改善の余地ありだ。

訴求力の高い広さに関しては、本当に実感できる。5ナンバーサイズでありながら、見事な空間利用をしていて、3列とも身長180cm級が座っても大丈夫という。そしてシートの作りがとても良い。実は直前にこのシートを供給するジョンソンコントロールズのレクチャーを受けて、シートの良さについてはしっかりと話を聞いていたから、なるほどと思った。とにかくどの列に座っても、座面長がしっかりとあって快適だ。

もっとも評価すべきは2列目。このシート、シートベルトを内蔵したシートとなっている。この背景には、例え、チャイルドシートを装着した状態でも3列目の乗降に際し、それを外さないでも乗降できるという大きなメリットがある。ISOFIXなら関係ないじゃん?と思うかもしれないが、いえいえ、世の中には数多くのシートベルトによるチャイルドシート固定が存在し、たとえそれでも大丈夫、というのが売りになる。それだけではない、2列目は前後方向のみならず、車両の左右方向にもスライドし、それによって3列目のパッセンジャーの乗降性をよくしている。というわけで使い勝手が非常に良い。因みに内蔵シートベルトのシートは大きな負荷がかかるため、シートベルト別体と比較して遥かに丈夫な作りにする必要がある。

デュアルバックドアも使える。これはいわゆるウィンドウハッチを追加した形のもので、アメリカのSUVではよく見られた形状。小さなものを取り出す時は、大型のテールゲートを開けずに、ウィンドウハッチだけで対応できるもので、このハッチのフレームは樹脂製だから、軽く開閉できる上、下端の高さが104cmと低いので、背の低い人でも十分に使える寸法になっている。

もう一つ、視界の良さも売りだ。ピラーを細めることに始まり、ドアのフレームなども異様に細い。ウィンドウ面積を大きくとっているのが理解でき、さらにサンバイザーもパンチングの穴をあけて、そこから信号が覗けるようになっているという。実際試してみたが、信号待ちの最前列に停車し、さらにその信号が直近にある場合のみ有効のようで、ウィンドウが大きいため、たいていの場合はサンバイザーよりも下の位置に信号がくる。

エンジンはMR20DD。基本は先代と同じだが、あれやこれやと改善を加えているという。とりわけスロットルの開き方を一定にしたそうだが、これにより発進加速は少々かったるくなった。元々それほど力強い印象がないので、ガツンと行きたい時は一生懸命踏む必要がある。まあ、想定するドライバー像を考えればこのパフォーマンスで十分だ。一応「S-ハイブリッド」と称するが、アイドリングストップに回生ブレーキ、それに加速のアシスト程度で、本格的なハイブリッドを期待してはダメ。

また、国産では珍しいブレーキホールドモードを装備する。これは信号待ちなどの停車の際に、ブレーキペダルを踏んでいる必要のない機構で、大変ありがたいのだが、セレナは何故かアイドリングストップした時にブレーキを離すと、エンジンが再始動してしまう。エンジニアはそのような設定にはなっていないというが、アイドリングストップ中にブレーキを離すと100%の確率でエンジンが再始動してしまうので、正直意味がなかった。

楽しさというのは、室内でワイワイガヤガヤという前提条件を付ければクリア。広さと、使い勝手の良さに関しては文句なし。革新装備のプロパイロットやホールドモードなどは要改善だが、出来としてはライバルをケチらせる王者の貫禄を示してくれた気がする。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★★
インテリア居住性 ★★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来38年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

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