【トレンド予測】3~5年先の自動車のカラートレンドとは?…BASF
ニュース
ビジネス
BASFでは同社のカラーデザイナーたちが世の中の動きや政治、経済の変化を見据え、カラーにどのような変化が起こるかを分析。その分析結果を踏まえ、BASFのクライアントである自動車メーカー各社に向けて3年から5年先のカラートレンドというテーマで同社の塗料の紹介を行っている。
◇最新のトレンドのテーマは“透明と半透明の間”、グレーゾーン
トランスルーシッドを直訳すると半透明だ。「日本人的な感覚ではグレーゾーンというイメージ。白でも黒でもない、グレーな感覚や概念が、この半透明の意味合いの背景だ」とは、BASFジャパンコーティングス事業部カラーデザインセンターアジア・パシフィックチーフデザイナーの松原千春さんの弁。
現在我々は携帯電話やパソコンなどを通じ、情報を得たり買い物をしたり、あるいは、自分たちからも情報を発信している。この情報発信には2種類あり、ひとつは意識的にSNSなどを通じて行うもの。そしてもうひとつは、無意識のうちに個人情報が集められてしまうものだ。具体的にはネットサーフィンなどにより、「この人は何に興味があって、どんな買い物をしているのかを、誰かがどこかで情報を収集。その後ネットを見ると我々が興味を持ったものが広告として出て来たりするように、無意識に自分の情報を発信してしまっている」と松原さん。
その一方で、我々がインターネットを介し手に入れた情報も、あるいは我々が発信する情報も、真実かどうかは分からない、不透明な部分もある。例えば、「我々の個人情報を誰かが突き止めて、何を買ったかは分かっても、本当に興味があるものがコレクト出来ているかどうかは分からない。また、SNSなどで自分から情報を出しても、時にはすごく幸せな生活をしているような、ちょっと”盛った”ような情報を流している場合もあるかもしれない」と話す。このような状況を、「透明と半透明の間、グレーゾーンの様なコンセプトとして解釈した」と述べる。
そして、「このような不透明でちょっと危うい環境にいる我々は、バーチャルなものに囲まれているがゆえに、実物を見たい、ものを手にしてみたい、触ってみたいなど、実感を欲するようになる。コミュニケーションでも、face to face で、実際に会って話をしたいというような、リアルな世界への願望というものが現れてきている。そこが今年のトレンドのテーマだ」と説明した。
では全てが透明になればいいのか。松原さんは「今、国家間で様々な問題がある。自分の国のためを第一に考えるという行動があるが、将来を考えたり、長い目で見れば他の国とも協調し、一緒に環境配慮に取り組む活動も大事だ」とし、「そこは大人の感覚で白か黒かではなく、あえてグレーとし、自分たちの利益も守りながら、将来のために一緒に投資していくなど、ケースバイケースで柔軟に対応することも重要だ」と話す。
このように、「良し悪しは抜きにしても、今我々は不透明性が概念になる環境にいるので、これを大きなテーマとして、今年のトレンドを半透明、透明と不透明の間にした」と述べた。
さて、昨年発表されたテーマはパララックス。ひとつのものを2つの異なる視点から見た時の、見え方の違いを表している。その例がデジタルとリアルな経験だ。デジタルは仮想現実、リアルはまさに現実に置き換えると、「昨年から今年の変化は、割と似ている」という。その中で、「よりアナログに振れている。実体のあるもの、触れるもののイメージだ。アメリカの状況や世の中の状況を考えると、不安要素が増えて、やはりデジタルから距離を置いてもう少し実態をつかみたい、真実を知りたいという方向だ」と昨年からの傾向が強まっていることを語った。
◇グローバルのテーマその1:コレクティブボディ、身体へのテクノロジーの最適活用
このテーマをもとに、グローバルなテーマが2つ挙げられた。そのひとつはコレクティブボディ(Collective Body)、身体へのテクノロジーの最適活用だ。
我々の日常生活においてデジタル技術は欠かせないものになっている。これは身体においても同様で、「健康状態のモニターのみならず、行動や感情まで測定し、最適なコミュニケーション方法をアドバイスするなど、コミュニケーションのサポート域にまでデジタル技術が入ってきている」と松原さん。また、「身体は一人一人違っており、また自分自身でもあるので、アイデンティティの根本だ」という。
しかし、「デジタル技術をどんどん取り込んでいくと、我々の生活自身が技術に支配されたり、人造人間のようにパーフェクトなボディだが、原点にあった“自分の身体”というアイデンティティがなくなり、作られたものになってしまう」と述べる。
松原さんは、「我々はそういったことは望んでいない。デジタル技術を駆使した完璧な身体を求めるのではなく、今ある我々のボディ、つまり私たち自身そのものをすごく大切にした上で、より良いコミュニケーション、我々の生活のために部分的に技術の良いところを取り込んでいく。そこから、身体へのテクノロジーの最適活用というグローバルのトレンドにつながった」と説明。
また、「人間の感情は身体の中から来るもの。身体の中から生まれてくる喜怒哀楽を慈しみ楽しむことで、身体、自分自身の価値、実態を再認識していくというトレンドになっている」とした。
このテーマを踏まえカラートレンドは、「繊細で複雑な人間の体といったイメージから、滑らかな質感や、やわらかな肌のような色調や温かみのある色のほか、優しいグレーのゾーンなどで表現している」と松原さん。
また、「豊かな我々の感情を表現するように、光の反射で色が変わって見える、表情が変わって見えるカラーなど、強い意志や情熱などを表現する高い透明性のある色なども出て来ている」。そして、「ブルー味を帯びたグレーやキラキラ輝く色などは、デジタル技術と人間との最適なバランスを表現しており、必ずしも皮膚の様なイメージだけではなく、少しデジタルの要素を取り込んだような表現だ」。ここでも、「不安定な世の中で、安心感安定感を得たいという背景とともに、ブルーのトレンドが継続していることから、少しネイビー系のカラーや、自動車としてのベーシックなカラー系も注目を浴びている」とした。
一方でアジアパシフィックからは、ネイビー、ダークブルーといったカラーが出ている。松原さんは、「現在のグローバルのトレンドでは、それほどシェアとしても、設定としても多くはない」とした上で、「我々は今の不安な状況、先が見えない不透明な環境から、自動車のベーシックカラーとしてのダークブルーにも興味が集まってくるだろう」と説明。同様に「北米からも、ネイビーが出ている」とした。
そのネイビーについて松原さんは、「10年前のネイビーを持って来ても魅力がないので、アジアの場合は新しいパールマイカを使用し、ネイビーの中でもすごく深い透明性が表現出来るようなものを使用。一方北米は、粒子感が全く違っており、ものすごくシルキーで、肌の様な滑らかな感じを表現している」と地域での違いをコメントした。
◇グローバルのテーマその2:フルーイドグリッド、発展する流動的な概念
グローバルのテーマ2つ目は、Fluid Grid(フルーイドグリッド)、発展する流動的な概念だ。「今までの固定概念、既成概念にとらわれず、新しい柔軟な発想で都市のあり方、我々の生活のあり方、未来の生活といったものも十分に考えていく。良い意味での流動的なところがその背景だ」と松原さん。
例えば、「自動運転実現のためには、ありとあらゆるビッグデータを通信でつなげ、都市設計もあった上で実現が出来る。そういったデータの流動的なコレクション、制御のほかに、都市のあり方、人間と都市の関係、輸送と人間の関係なども根底から概念が変化していくだろう」という。
こういった目に見えない流動的なネットワークの転換によって、「我々が今考えている国や都市、街という概念すら変わっていくかもしれない。少し遠い未来かもしれないが、宇宙に我々が住める社会が出来るかもしれない。このように固定概念を取り外した基本的な考え方を柔軟に持ち、我々の生活をより良い方向に変えていく、あるいは、自動的にそういった方向に向かっている。そういったところが表現されているテーマだ」と述べた。
流動的な基軸の概念を反映し、「デジタルなイメージで無彩色からグレー味を帯びた色域や、流れる様な滑らかな緻密な質感なども特徴のひとつだ」。その一方で、「表情豊かで技術のスピード感や変化していく、動的なエネルギーを感じる力強い色も特徴だ」という。
また、「きらめくような立体的な輝きを持つダークカラーは、今のデジタル技術を踏襲したイメージでありながらも、未来に向けての期待と不安が入り混じった、ちょっと神秘的な輝きを表現している」とした。
そして松原さんは、「アジアパシフィックを含め、アクセントカラーになるような強めのカラーと、ベーシックといわれるようなグレー系、同様に、ヨーロッパや北米でもアクセントカラーになるような強い色と、少し大人しい繊細な感じの色など、各地域とも同様の方向性で解釈している」という。
アジアパシフィック全体のテーマカラーはブルーだ。「人間は真実を求めたい、透明性を求め、それを表現している」と述べる。また電気自動車が増え、自動運転など新しい概念のクルマが出てきた時に、「アクセントカラーとして使えるカラーだ」と説明。
また、強いカラーはそのまま使うだけではく、「ツートンカラーにした時も、配分さえ変えれば、モデルのデザインや、スタイリングに合わせて使えるだろう」とした。
◇アジアパシフィックのテーマ:Unbound(アンバウンド)、解放されたマインド
グローバルのテーマとは別に、それぞれの地域でのテーマが設けられた。アジアパシフィックのテーマはアンバウンド、解放されたマインドだ。「どちらかというと新興国が強くイメージされている」と松原さんはいい、「経済成長で新興国がどんどん伸び、目まぐるしく変化する環境の中、良い面と同時に、競争が激しくなり、家庭や、社会から大きなプレッシャーを受け、大変な部分がある」と述べる。
特に若い世代は、中国は一人っ子政策などもあり、いかに良い大学に入り、どれだけ良い会社に入って成功するかという期待を両親から求められている。社会でも競争が激しく、中国や韓国では大学を出たぐらいではとても職は見つからない、良い就職先を探すのは大変だというプレッシャーのある環境にいる。
「そうした環境の中、人々は鬱積されてストレスがたまり、こんな環境は嫌だ、もっと自由に自分の発想で豊かに暮らしたいという新しい世代が出て来ている」と分析。そして、「彼らはファッションやライフスタイルも、自分らしさに自信を持って表現している。そのスタイルは少し反抗的なデザインやメッセージを送るようなもので、若者の反抗的な精神みたいなものが現れている」と話す。しかし、「決して強い反抗で、問題になるようなものではなく、あくまでもファッションやライフスタイル。スマートに自分の主張を表現している」とした。
そして、「自由へと自らを解放させ、自由な自然体で、世界への存在感、自分たちのユニークなアイディアや、独自のサービスやプロダクト、経験値を表現しているところはアジアパシフィックでは共通している」とこの地域での特徴を述べる。
これらを踏まえ松原さんは、「高品質感と創造性が重要視されていく。これは新興国にとってはとても新しいことだが、日本では今に始まったことではなく、質にこだわる、クリエイティビティ、創造性にこだわることはますます求められられる」と話す。
カラーについても、「深い透明感、奥行きのあるカラーや、思慮深い知的さ、自信、自分なりの意思を表現していくようなカラーが重要になる」とし、「粗い粒子のガラスフレークなどを使用したちょっとディープなレッドやブラックは、若者のちょっと挑戦的な態度を表現。もうひとつはパールホワイト。このカラーはアジアを代表するカラーであるとともに、アジアのユニークな創造性を反映して、次世代のパールホワイトなども模索していくことが重要だ」と語った。
◇自動車メーカーと塗料メーカーの関係性
近年、自動車メーカーも積極的にカラー開発を行っており、新たな顔料を取り入れ、新規カラーが登場するなどカラーバリエーションが大きく変化してきている。そういった点について松原さんは、率直に「嬉しい」という。「我々からお勧めしたいカラーがあっても、自動車メーカーには顔料を含め多くの制限があり、更に、塗装工程においては我々がどんなに頑張っても自動車メーカーのラインの条件を変えてもらわないと出来ない」と振り返える。しかし、「自ら顔料を探し、塗装工程を変えてでも良い色を作りたいというメーカーが出て来たということは、その段階から一緒に協力して、良いものを作っていけるのだ」と語る。そして、「良い色を一緒に作り上げていける時代。カラーに対する価値、重みが変わって来た。自動車メーカーの目が変わって来たことはすごく嬉しい」とコメントした。
【BASFカラートレンド】ブルーは引き続き重要なカラー
《内田俊一》
この記事の写真
/