【岩貞るみこの人道車医】話題のドクターヘリは、ただの「速い救急車」じゃありません | CAR CARE PLUS

【岩貞るみこの人道車医】話題のドクターヘリは、ただの「速い救急車」じゃありません

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高速道路上にも着陸できるよう、訓練を行う
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【医】「ドクターヘリは、速い救急車じゃありません」
ドラマですっかりお馴染みの、ドクターヘリである。ネット時代と言われようと、やはり話題作りの巧みさは、圧倒的にテレビドラマにある。

日本でも、2000年には飛び回っていたドクターヘリだが、2008年7月にフジテレビが「コードブルー」のファーストシーズンを放映する前は、なんだそれ?のさみしい認知度であった。でも、ドラマの人気とともに一気に知名度を上げ、今ではすっかり市民権を得ている。ここで一応、書いておくと、私がドクターヘリに注目したのは「コードブルー」より前で、ファーストシーズンが放映開始したときには「命をつなげ!ドクターヘリ」(講談社青い鳥文庫)という書籍を出版している(ちょっと自慢)。

ただ、知名度は上がったものの、ドクターヘリの本当の役割を理解していない人も多い。「速い救急車でしょ」「テレビほど活躍していないでしょ」などと言われることもしばしばで、非常に歯痒い。いや、ドラマよりだんぜん活躍しているんだってば(ふつうはドラマの方が都合よく活躍する)。それに、交通事故の被害者救済でもどれだけドクターヘリが活躍していることか。事故による死者数減少は、「人道車」に加えて、医療体制の充実があってこそなのである。

ドクターのデリバリーシステム

救急車とドクターヘリの決定的な違いは、救急車が患者を病院まで運んでいくのに対し、ドクターが現場まで向かうこと。つまり、ドクターヘリは、ドクターのデリバリーシステムといっていい。救急車では、患者を運んでくるあいだに容体がどんどん悪くなり、手遅れになる確率が高くなる。しかしながら、ドクターがいち早く患者のもとに向かえば、それだけ治療を早く始められて救える可能性はもちろん、後遺障害も減らすことができる。ついでに、交通事故で車両内にはさまれたときも、救助作業中でも治療の数々ができるし、痛み止めも使ってもらえるし、負傷者にとってはまさに空から神様が舞い降りた気分になる(らしい)。

よく、救命救急系の医療ドラマで、ひとりのスーパードクターが、脳から内臓から骨からすべて対応するシーンがあるけれど、そんなことはありえない。「ドクターコトー」のモデルになった離島の先生は、かなりご自身で対応されたそうだが、「今は時代が違う」とおっしゃっている。現代の治療は、あらゆる機器を駆使して専門医と呼ばれる人たちが、専門分野の治療に当たる。例えば、交通事故で内臓損傷と骨盤骨折の患者が運ばれてきたら、内臓は腹部外科の先生が担当し、治療して安定したら、整形外科の先生が骨折を診るということになる。ちなみに、腹部外科は、胸から下だそうで、胸から上の心臓は、胸部外科という別の先生の登場になるらしい。

これに加えて、内臓の状況や骨折を確認するためのレントゲンやCTをとるなら、レントゲン技師が必要だし、さらに緊急オペにでもなろうものなら、麻酔科の先生がいなくてはどうにもならない。つまり、救命救急はチーム医療であり、24時間365日、それだけのスタッフを揃えられるのは、本当に限られた病院しかない。いかにそうした病院に患者を運ぶのかが勝負になる。

ドクターヘリ出動の5分の1は交通事故

ところが、東京23区内のようにいくつもの大病院がひしめいているならともかく、日本の多くの道県では、重症に対応できる設備(物的&人的)を備えている病院は少ない。じゃ、あちこちに病院作って、先生を待機させればいいじゃん。そんな声も聞こえてくるけれど、それだけの体制を整えるとなれば、それ相応の予算が必要になる。そしてもうひとつ言えることは、いくつもの症例をこなすことで医師や看護師のスキルは上がり、チームワークも磨かれるということ。たくさんの病院をわらわら作って、月に数人しか運ばれてこないような状況では、逆に助かる命も助かりかねないのである。

過疎化の進んだ地域では、広いエリアを数台の救急車で対応しているけれど、遠くの病院まで患者を運ぶとなると、その間、その救急車はほかの救急要請に対応できなくなる。その点、ドクターヘリが迎えにきてくれれば、すぐに患者を移して、次の有事に備えられるため、面積に対して救急車が少ないという地域の事情にもドクターヘリは有効だというわけだ。

ドクターヘリは、現在、全国で51機飛んでおり(2017年3月末)、多い時は、1日の出動回数は8回を超える。2016年度の年間出動件数は2万2545件で、そのうち5分の1は、交通事故である。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。

《岩貞るみこ》

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