【6輪生活】バイクのエンジンをスマホでチューニング?…ヤマハ「パワーチューナー」開発秘話
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◆誰でも無料でダウンロードできる
FI(電子制御燃料噴射)と共に2010年モデルで採用された従来のパワーチューナーは専用端末を使用するものだったが、今回の新型パワーチューナーはスマートフォン(iPhoneもしくはAndroid)用のアプリケーションであり、つまりソフトウエア。スマホと車両はWi-Fi回線でつながる。このアプリは誰でも無料でダウンロード可能だ。
実際にAppストアやGooglePlayでアプリを検索し(英語でyamaha power tunerと検索するとすぐに見つかる)、自分のスマホにダウンロードしてみた。YZ450Fを買わなくても、無料で利用できるのが嬉しい。英語版のみだが、インターフェイスが分かりやすいので、英語が苦手な人でもすぐに使えそうだ。ちなみにダウンロード数は取材した11月末時点で、iTunesで約3000、GooglePlayで約1000とのこと。これは発売されたばかりの18年型YZ450Fの販売台数より当然ながら多い。
なぜスマホアプリなのか。開発のきっかけについて、商品企画を担当する田口晃広氏は、「今のようにスマホが世の中に普及し、いろいろなものがスマホにつながる中で、その利便性をバイクでも活かすのは自然な流れでした。また、お客様にバイクをより楽しんでもらえるアイテムになるだろうとも考えました」と語る。
◆市販車「YZF-R1」で採用された技術がベース
「ノウハウという面では、これを作る前に、市販スーパースポーツのYZF-R1/R1M用のシステムで経験を積んでいました」と語るのは、ヤマハの子会社ヤマハモーターエンジニアリングで制御システムの開発を担当する池谷昌彦氏。
YZF-R1(2015年発売)で採用されたシステムというのは、GPSと一体になった無線通信制御ユニット「CCU(Communication Control Unit)」と、スマホアプリ「Y-TRAC」によるデータロギングシステムのことだ。R1での一番の売りはデータロガー機能、つまりラップタイムの自動計測や記録などを行い、それをスマートフォンやタブレットに転送して専用アプリで分析できるというものだ。
一方、新しいYZ450FにはGPSは搭載されていないが、競技用車両ゆえに進角や燃調の変更など、より自由度の高いエンジンセッティングが可能になっている。初期状態では3種類のマップが用意されているが、さらにスマホの画面上で自分オリジナルのセッティングを指先一つで作ることも可能で、それを車両側にデータ転送すればセッティングは完了。マップデータは100種類まで保存可能だ。もちろん、レースログ機能や、消耗パーツの交換タイミングを管理するためのメンテナンスタイマー機能なども備える。
◆データの「シェア」も簡単に
基本性能も従来の専用端末タイプに比べて引き上げられた。燃料噴射量と点火時期のマップ(縦軸はスロットル開度、横軸はエンジン回転数)は、従来の3×3=9ブロックから4×4=16ブロックに細分化。また、マップを3Dグラフで表示して、ピンチアウトで拡大したり、360度ビューで確認したりしながらセッティングの変更もできる。この3Dグラフのグラフィックや操作感が秀逸だ。
しかもこのマップデータは、メール等の共有サービスで簡単に他の人と「シェア」もできる。ヤマハではトップライダーのセッティングデータを配信するといった企画も検討中とのことだ。
◆公道モデルでの採用は?
新型パワーチューナーの他車種への展開予定は、今のところ明らかにされていないが、今後は250ccモデルやエンデューロモデルへの採用が期待されるところ。そして多くのライダーにとっては公道用モデルへの展開があるかどうかも気になる部分だろう。
「MTシリーズのような市販車にもぜひ欲しい」という声は実際に上がっているという。公道用モデルの場合、環境性能に影響するようなセッティング変更はできないが、YZF-R1のような形での採用ならば可能性はあるそうだ。具体的な話は聞けなかったが、それは例えば車両設定をスマホで行ったり、ラップタイムやツーリングの記録などもスマホで簡単に行える、といったものなのかもしれない。
そしてもう一つ、新型パワーチューナーの面白いところは、車両データをスマホと一緒にいつも持ち歩けることだろう。つまりマシンと離れている間も、自分のマシンを常に身近に感じていられるわけだ。あるいは憧れのバイクを手に入れる前に、そのマシンのオーナーになったような疑似体験を味わうことができるようになるかもしれない。
バイクのエンジンをスマホでチューニングする…ヤマハの「パワーチューナー」開発秘話
《丹羽圭@DAYS》
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