「スタッドレスタイヤ」の実力を体感するちょっと“変わった”試乗会とは…ヨコハマ
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日本は世界的に見ても降雪地域の中で特殊な環境を有しているそうだ。それは溶けたり凍ったりを繰り返すアイスバーンが多く、タイヤにとって過酷な環境なのだという。確かに東京だって、降った翌日は間違いなくアイスバーンだ。だから、日本のタイヤメーカーは氷上性能を重視する。ただ、そこに対するアプローチはまちまち。
横浜ゴムの場合、低温でもゴムにしなやかさを持たせることが出来るシリカ配合にその特徴があるそうだ。その抜群の性能に関しては他の人のレポートに譲るとして、何がこの試乗会を楽しく、そして興味あるものにさせていたかというと、少なくとも僕にとっては人生初体験が満載だったことである。
僕は過去に1回しかスタッドレスタイヤを購入して装着した経験がない。それは首都圏に住んで雪が降ると、仮に自分のクルマが走れても、絶望的な交通マヒで道路そのものが機能しなくなり、結果として走れない、あるいは地獄のような渋滞にはまるからである。でも今、うちのクルマはいわゆるオールシーズンタイヤを履いている。これを履いていると、外出の途中で雪が降り出しても、とりあえずクルマを放棄することなく家に帰れるということがわかったから。でも、今もって都会では本当にスタッドレスが必要だとは感じていない。オールシーズンで十分だ。
そんなわけで、スタッドレスタイヤがどのように機能し、どこがどう違うかなどは本格的に勉強したことが正直なかったし、通り一遍の説明を聞いてもわかったようなわからないようなという始末。ところが今回は、パターンだけが違うとどうなるのか。あるいはそもそもコンパウンドが違うとどうなるのかといった、経験したことの無い比較テストが出来たことで、だいぶ奥の深い知識が得られた気がする。
横浜ゴムは昨年まで『アイスガード5プラス』というスタッドレスタイヤを販売していて、今シーズンそれを進化させたアイスガード6というタイヤを上梓した。単純にこの二つのタイヤの乗り比べだったら、ほぉ~なるほどね…で済んでしまう。ところがこのメーカー、我々のためにというわけではないだろうが、もっとわかり易くするために、同じコンパウンドでトレッドパターンだけを変えたタイヤや、そもそもトレッドパターンの無いスリックタイヤでコンパウンドだけを最新のアイスガード6用と普通のウィンタータイヤで作ったものを持ち出して我々に乗せてくれた。
パターンだけが違っても、あるいはコンパウンドだけが違っても、明確にIG6の性能が良好なことが体験でき、それとは別に、海外に出しているウィンタータイヤやオールシーズンタイヤとの比較も行った。
やはり一番驚いたのは、アイスガード6のコンパウンドで作ったスリックタイヤの性能である。これは氷盤路面と雪上路面の両方を試した。比較対象としてウィンタータイヤのコンパウンドで作ったスリックも試したが、氷上の制動性能は話にならんというほどの差。雪上においても8の字コースを周回してみたが、ウィンターコンパウンドの場合、スピードが20km/hを超えると全く制御不能に陥るのに対し、アイスガード6コンパウンドの場合加速も旋回も20km/hを超えて可能であった。なにより、ドライバーが制御できると感じるタイヤと制御不能と感じるタイヤの違いがある。シリカという素材はしなやかさを出すだけでなく、吸水性能が高いのだそうだ。
というわけで新しいアイスガード6は先代となったアイスガード5プラスに対し、特に氷上の制動性能が15%向上し、ウエット路面における制動性能も5%向上しているのだという。
氷上性能を重視しているのは業界ナンバー1のブリヂストンも同じ。横浜ゴムではそこに追いつけ追い越せとばかりに、最適な氷上試験を実現すべく、屋内試験路を作り上げた。これによって積雪の心配がない、ツルンツルンの氷上試験路が完成した。それが今回のアイスガード6に活かされている、というわけだ。
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
冬タイヤのコンパウンドで「スリックタイヤ」? 横浜ゴムの“あの手この手”…アイスガード6 試乗会
《中村 孝仁》
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