ポルシェが本気で“993型ターボS”をレストアしたワケ…ポルシェ・クラシック | CAR CARE PLUS

ポルシェが本気で“993型ターボS”をレストアしたワケ…ポルシェ・クラシック

レストア コラム
ポルシェは「プロジェクト・ゴールド」で993型991ターボSを「新車」として蘇らせた
ポルシェは「プロジェクト・ゴールド」で993型991ターボSを「新車」として蘇らせた 全 47 枚 拡大写真

残されていた1台の「993」


そもそもコトの始まりは、今からおよそ2年前に遡るらしい。

ポルシェの特別オーダーを引き受ける「ポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥール」と、そこに近接するクラシック専門の「ポルシェ・クラシック」の両陣営のスタッフが、1台ぶんだけファクトリーに残されていた993型ポルシェ『911ターボ』ボディの活用方法を巡り、互いにいろんなアイデアを出し合ったという。

どうせなら、そのスペアボディを使って70周年の年に発表できるような特別なモデルを創ることはできないだろうか。ちょうど特注部門では、現行型『911ターボS』の限定モデルの計画があった。のちに、「911ターボSエクスクルーシブ」として登場する、世界限定500台の“スーパー”ポルシェターボだ。それとイメージを共有するというのは、どうだろう?

一方、ポルシェ本体は本体で、70周年を盛大に祝うべく、『タイカン』という名の“未来のポルシェ”をカタチにしつつあった。けれども、ポルシェにはこれまでも、そしてこの先も、ヘリテージを守りぬくブランドであり続けるという、強い意志もまたあった。自らの歴史を顧みないブランドに未来はないことを知っているのだ。

過去を盛り上げながら、未来を率先して切り開くブランドになる。それがポルシェの理想というわけだ。

明かされた「プロジェクト・ゴールド」


残されていた993ターボのスペアボディは、その姿勢を示す、ひとつの手段として活用されることになった。よく知られているように、ポルシェ911の現存率は驚くほど高い。一説ではこれまでに生産された911の実に7割以上が現在もまだ存命で走行可能なコンディションにあるという。

ポルシェは、そんなクラシックモデルのオーナーたちが困らないように、純正パーツのストックに熱心に取り組んできた。否、熱心だからこそ、それだけの911が生き残っているのかもしれない。

そんなポルシェの、クラシックモデルへの取組みをアピールする絶好のチャンスとばかりに企画されたのが、謎の「プロジェクト・ゴールド」だった。

ポルシェファンなら先刻承知のことだろう。8月までの数週間に渡り、「プロジェクト・ゴールド」の内容は、公式サイトにて少しずつ明らかにされてきた。そして、その成果は、「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」や「ラグナセカ・モータースポーツ・リユニオン」といった名だたるビッグイベントが開催されるモントレーカーウィークにおいて、ポルシェのロイヤルカスタマーたちの前で披露される、ともアナウンスされていた。

「新車」として作られた993ターボS


翌日からいよいよビッグイベントが目白押しとなる木曜夜、モントレー半島にある最も標高の高いゴルフコースのひとつ、テハマ・ゴルフクラブで、そのプレミアは行なわれた。

ゴールデン・イエロー・メタリックにペイントされた911ターボSエクスクルーシブの横に、同じ色にペイントされて鎮座していたのは、懐かしい993型の911ターボS、だった(実は筆者も993ターボに乗っていた)。

もっとも、懐かしく見えるのは、見た目だけだった。実はこの個体、残されていたホワイトボディをベースに、改めて組み立てた、と言ったほうが正しい。

5万2000点もの豊富な在庫を誇る純正パーツのなかから、993シリーズ用をかき集めて、450psを発揮するターボS用3.6リットル空冷水平対向エンジンはもとより、6速マニュアルトランスミッションや4WDシステムなども、新品が組み込まれているのだ。

つまり、この金色に輝く993ターボSは、単なるレストレーションではなく、またプリザベーションでもなく、ポルシェが2018年に改めて造り上げた、993ターボSの“新車”というわけだった。

そのため、モントレー半島で発表された個体には、98年にロールオフした最後の993ターボの続きの車体番号が刻印されることになったという。ちなみに、993ターボSそのものの生産台数は、わずかに345台である。

詳細は写真をご覧いただきたい。前述したように、このプロジェクトはエクスクルーシブ部門との共同企画である。ゴールデン・イエロー・メタリックのボディカラーは500台限定の911ターボSエクスクルーシブのテーマカラーだ。ホイールにはブラックのトップコートをレーザーでリング状にキレイに剥がし、中からゴールドを浮き上がらせるという凝った処理が施されている。インテリアにもゴールドが随所に映えていた。実際、その質感は非常に高く、クラフツマンシップに溢れていた。

手に入れるチャンスは誰にでもある


ひとつだけ、残念な点を挙げておくと、このクルマを公式に登録することはできないという。この個体を手にした幸運なカスタマーは、ガレージに収めて眺めるか、クローズドな場所で乗って楽しむほかない。

ポルシェが造った最新かつ最後の993ターボS。993ターボSそのものの価値が驚くほど上昇した今、その価値は計り知れない。ナンバーが付かないからといって、安くなることはないだろう。たった一台かぎりの存在なのだから。

さぁ、どなたかこの個体を手に入れたいと思った人はいないだろうか?実を言うと、このクルマを手に入れるチャンスは誰にでもあるのだ。希望者は、10月、アトランタのポルシェ・エクスペリエンス・センターで開催されるRMオークションに出席することを検討されたい。ゴールドの993ターボSは、そこで、チャリティオークションに掛けられるという。

なぜポルシェが993型ターボSをレストアし、金ピカの「新車」を作ったのか

《西川淳》

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