知っていますか? インドネシア「自動車オークション」のいま
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◆査定を強化し、新たなオークションのステージへ
「業界で失敗をたくさんしてきたから、だからここインドネシアでいろいろとチャレンジしていきたい」。このように語るのは、インドネシアの自動車オークションビジネスを展開する日本企業のインドネシア代表、小林氏だ。
日本で自動車オークションを展開する株式会社ベイオークがインドネシアに進出。現地で自動車販売、及び部品の製造・販売やファイナンス、リースなどを行うナスモコグループと合弁会社を設立し、自動車オークションをジャカルタで開催している。これまで約80回開催した経験を基に、新しいステージへの挑戦を考えている。小林氏は「今後はインスペクション(自動車の査定)に更に力をいれていく」と語る。
ベイオーク(インドネシア)のオークション会場は、空調設備が整った300人が収容できる立派な施設だ。会場では、インドネシア人女性MCによって手競りオークションが行われている。出品される中古車のリストがバイヤーたちに配られる。スタッフが運転して商品の中古車を順番に建物の前に移動する。すると女性MCの掛け声に合わせて競りが始まる。
威勢の良い声で、インドネジア人バイヤーたちを競わせる。入札は50万ルピア(約5000円)ずつ競りあがる。番号が書かれた札がバイヤーからあがる。競り値があがり、競合者がいなくなると中古車の落札が決定だ。1年前は出品される乗用車の平均落札価格は85から90万円であったが、現在は100万円近くになってきている。「インドネシアの中古車市場は拡大してますが、また供給量がそれほど多くないです。(中古車の)価格は高値で安定しています」(小林氏)。
会場の目の前にある大きなスクリーンには、入札中の中古車の出品車両情報が映し出される。ベイオークが独自に車両状態を評価した車両検査シート情報も掲示されている。バイヤーは会場で配られる出品リストで自分が欲しい中古車の入札順番を知り、会場の前に来た現車とスクリーン情報を見ながら入札を行う。
出品車はファイナンス会社での引き揚げ車両が95%、残りがリース会社のリースアップ車両となる。1回の開催で180台ほどの出品台数であり、月間700から800台ほどの出品台数だ。落札スピードは1時間で50から60台、威勢の良い女性MCの声が3時間ほど続く。今までの成約率は62%、落札ができなかった場合は、翌週、翌々週とオークションのスタート価格を下げて再出品をするのが一般的。
出品される中古車はオークション開催の3日前から会場の裏にある中古車ストックヤードで見ることができる。「なかなか手に入らないから、欲しい車は高値でも買いたい」(インド人バイヤー)。バイヤーは事前に下見をして、欲しい車の目星をつける。オークション当日に目当ての中古車が競りにでた時、バイヤーの顔は真剣だ。小林氏は「中古車流通のボリュームは不明だが、まだ(インドネシアの)中古車市場では玉不足な状態。中古車価格は比較的高値安定のイメージがあります」と指摘する。バイヤーはジャカルタ近郊からだけでなく地方からも来ているという。
◆ブローカーが暗躍するインドネシアの中古車流通
一般的に日本の中古車ディーラーは自動車オークションから仕入れ中古車を仕入れる。しかし、インドネシアではブローカーから仕入れる。ブローカーネットワークの大きさと質が中古車ビジネスの強みとなる。
インドネシアのブローカーの重要な役割は、ジャカルタなどの都市から地方へ中古車を流通させていることだ。地方のエンドユーザーは買いたい中古車があると、近所の中古車ディーラーに行く。中古車ディーラーは地元の知り合いブローカーに条件を伝える。すると、地元のブローカーはジャカルタに住む顔なじみのブローカーに電話をする。電話を受けたジャカルタのブローカーは、仲間のブローカーにも情報を流してジャカルタ近郊の中古車ディーラーで希望の中古車を見つける。ジャカルタで仕入れた中古車は、ディーラー・ブローカーの中間マージンが加算されながら、最終的に地方のエンドユーザーの元に届く。
販売の場合も同じようにブローカーが関与する。販売したい中古車があった場合は信頼できるブローカーに情報を流す。顧客がディーラーに来なくてもブローカーが売ってくれる。昔の日本と全く一緒でインドネシアではブローカーが暗躍しやすい市場の構造となっているのだ。
◆新しい挑戦、インドネシア基準での評価システム
「インドネシアの中古車流通の品質や市場価格を公正化するためには、ブローカーを活用した流通から品質評価基準があるオークションを活用した流通へシフトする必要があります」(小林氏)。
インドネシアの自動車アフター市場はグレーな市場だ。ブローカーによる関与度合いが高いインドネシアの中古車流通の中では、車両状態に見合った価格での取引が難しい。ベイオークは独自の車両状態を評価する車両検査方式をインドネシアに導入。そうすることで市場の透明化を目指しオークションビジネスを行っている。
小林氏は「品質基準はエンドユーザーの視点で業界の流れを作っていく必要があります。日本からの検査基準をそのまま導入するのではなく、インドネシアのユーザーが求めている基準で情報提供していくことが大切なんです」と指摘する。
更に「中古車の買い手であるバイヤーに対しては、しっかりとした情報提供を。売り手であるセラーに対しては中古車の価値をあげていくことで両者がウィンウィンになります。ユーザーが求めているインドネシアに合わせた新しい基準はまだありません。そのためゼロベースでこれから考えていく必要があります。例えば、直感的にユーザーがわかるよう、インスペクションの展開図を3Dにします。今の平面図をユーザーが見てもわかりずらいです。また、車が360度見えるように、画像の活用も有効です。それだと内装も簡単に見ることが可能になりますね。どんどんガラス張りに、誰でもわかるシステムに変えていく、これまでの経験を基に新しい挑戦をこれからしていきます」。
◆インドネシアビジネスの魅力
インドネシアの魅力は「インドネシア人は親日的ですし、平均年齢も若いし、生き生きしていること。そして大きな市場であること」と小林氏は語る。
アセアン主要8か国の2017年の新車販売台数を見ると、トップはインドネシアで107万9534台(前年比2%増)。インドネシアは2014年にタイを抜き、アセアンでは4年連続首位を維持している。当時、購入された新車が、買い替えの時に中古車市場にでて流通量が増加するだろう。
また、地方における中古車流通も活性化することが見込まれている。インドネシア全体の新車販売台数はジャカルタ特別州が最大の市場となってはいるが、隣接する西ジャワ州、東ジャワ州などでも市場規模は大きい。スラバヤ(ジャワ島)、メダン(スマトラ島)、マカッサル(スラウェシ島)など人口100万人以上の都市が10か所ある。
地方都市もインドネシアの経済発展に大きく貢献しており、更なる自動車需要が見込まれる。ジャカルタで発展してきたオークション流通が地方へ横展開していく可能性は高い。
現在、インドネシア国内の1000人あたり保有台数は日本の約600台に対して約80台前後だ。自動車普及率がまだ低くこれから更に拡大する余地は大きい。インドネシアの自動車アフター市場は黎明期だ。
<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。
【川崎大輔の流通大陸】新しいステージへ、インドネシアオークションでの挑戦
《川崎 大輔》
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