ホンダ BEAT あの頃の「全力で楽しい」走りを未来へ繋げたい…BEATparts ビート純正部品再販 | CAR CARE PLUS

ホンダ BEAT あの頃の「全力で楽しい」走りを未来へ繋げたい…BEATparts ビート純正部品再販

特集記事 インタビュー
ホンダ BEAT あの頃の「全力で楽しい」走りを未来へ繋げたい…BEATparts ビート純正部品再販
ホンダ BEAT あの頃の「全力で楽しい」走りを未来へ繋げたい…BEATparts ビート純正部品再販 全 29 枚 拡大写真
いまから28年前の1991年5月。全国紙の一面中央に、ドンっと、ポップに現れたカーニバルイエローの小ぶりなオープン・カー。

遠近法で紙面を立体的に見せながら黄色い個体で埋め尽くされたデザインは、爽快で元気なはっちゃけ感があり、左下には「全力で楽しい」の文字があった。あの頃、ホンダ BEATの新聞ジャック広告を目にして、そのワクワク感に心を動かされた人は多かったのではないだろうか。1991年という時代の空気感を思い起こさせる、BEATのTVCMも懐かしい。サザンオールスターズの原由子が歌う『じんじん』がCMソングとして流されていた。


◆走りの楽しさを追求した「ミッドシップ・アミューズメント」


軽自動車でありながら、ミッドシップ・フルオープンモノコックボディを採用し、エンジンは、水冷直列3気筒横置(無鉛レギュラーガソリン使用)。さらに、軽自動車で初めてSRSエアバッグシステムが搭載され、爽快な走りだけでなく、安全性能にもこわだりがあったBEATは、1991年から1996年まで販売され、総生産台数は33,892台といわれている。
















◆「2030年ビジョン」と「BEATparts」


Hondaを愛するカーオーナー、バイクオーナーであれば、2017年6月にHondaが発表した「2030年ビジョン」をご存知の方も多いのではないだろうか。同社は、すべての人に「生活の可能性が拡がる喜び」を提供する - 世界中の一人ひとりの「移動」と「暮らし」の進化をリードする - を掲げ、2030年に向けた想いや戦略、ガバナンスなどを表明している。

ホンダ「2030年ビジョン」
この想いを具体化するプロジェクトのひとつとして、同社日本本部 部品事業部が2017年8月10日から展開している「BEATparts」がある。愛車を大切にするカーオーナーに向けて情報を届ける当編集部として「BEATparts」の全貌を、ぜひ読者にお届けしたく、Hondaの広報部へ取材打診のメールを送ったところ、すぐに取材を受け入れて頂けた。


◆熱い想いで邁進する、部品事業部メンバーたち


取材当日、埼玉県和光市にあるHonda和光ビルへ伺い、会議室の扉を開けた瞬間、思わず圧倒されて言葉を失ってしまった。会議室のテーブルには、再販が開始されている貴重なBEATpartsが並べられ、プロジェクトに携わられている、6名もの主要メンバーの皆さん(部品販売企画課 課長 麻生真二氏、部品販売企画課 主任 遠藤勝行氏、部品調達保証課 主任 神田勇一氏、部品事業部 主任 井上和幸氏、部品販売企画課 三笠大輔氏、部品販売企画課 雨宮広実氏)が勢揃いされていたのだ。

BEATpartsメンバーの熱意を感じながら、さっそく取材を開始。今年、入社された三笠大輔氏から、BEATpartsプロジェクトの展開や経緯などをご説明頂いた。

Hondaの想いとして、生産が終了した車種でも一定の需要がある場合は、継続的に補修部品を販売している。しかし、部品製造を行う協力会社(サプライヤーなど)の生産設備や金型の有無などの理由で、すべての部品を生産できない状況があるという。加えて、BEATの補修部品提供は、2015年時点で継続販売率約30%で、販売中止は約70%という、ショッキングな事実を告げられた。

車両の販売・生産終了後も、多くのファンから愛され続け、総生産台数33,892台のうち半数以上が廃車にならず、19,759台の残存数があることも把握されているのに、BEATを生み出したメーカーであるHondaの補修部品提供状況がこのようなかたちでは、いくらBEATオーナーが大切に乗り続けたいと思っても、無理がある。

補修部品の市販品がほぼなく、限られた純正部品だけで対応しなければならない状況がこれ以上続けば、BEATオーナーはますます減り、個体そのものも消えていくのは目に見えている…。


この厳しい実情を知ったHondaの部品事業部は、2015年よりBEATオーナーやディーラー、自動車整備工場へ、BEATの補修部品に関するニーズのヒアリングを開始。その後、サプライヤー約90社に打診し、金型や生産ライン、治具の有無などを踏まえた結果、約100部品の再販に挑むことが決まったという。

晴れて、公に「BEATparts」プロジェクトの開始がアナウンスされたのは、2017年8月10日。以下のようなリリース文が公表された。

『ビートは、1991年5月に誕生し、今も多くのお客様に愛され続けています。Hondaとしても「ビートをより長く楽しんでいただきたい」という想いで、この度、一部純正部品の生産を再開することを決定しました。生産再開が決定した部品から順次公開致します。また、供給中の部品も当ホームページでご確認いただけます。ぜひ、Honda純正部品をご使用ください』

このとき再販が開始されたのは、タイヤ/ホイールディスク(ホイールディスク 14X5J、ホイールディスク 13X4 1/2 J)、シートベルト(R.シートベルトアウタータング(NH178L)エクセルチャコール)、ヒーターブロアー(モーターASSY)、テールライト/ライセンスライト(ライセンスライト用レンズ)の4部品だった。

2017年8月10日から始動している「BEATparts」



◆部品事業部メンバーたちの本気の想い


ここからは「BEATparts」プロジェクトに携わっているメンバーたちの生の声をお届けしたい。

「BEATには強い思い入れがあります。1991年、ちょうど就活中だった私は、全国紙の一面に黄色のぶちぬきで掲載されていたBEATのジャック広告を目にしました。そのインパクトがあまりにも衝撃的だったので、Hondaに入社したんです。

それほど強い思いを抱かせたBEATというモデルを、いま展開できることが何より嬉しい。また若い世代にとっては、かつて弊社で販売していた名車の現車を見る機会が少ないからこそ、BEATの補修部品を再販することに、大きな意味がある。

BEATオーナー様はもちろんですが、弊社内部のモチベーション向上も含めて、これからも積極的に力を入れていきたい考えです。できるとこまで、どこまでもガンガン、やっていこうと思っています」

▼部品事業部 部品販売企画課 課長 麻生真二氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品事業部 部品販売企画課 課長 主幹 麻生真二氏


▼通称「たこ焼きホイール」
BEATの象徴ともいえるホイールディスクで2017年6月より再販開始
ホイールディスク(たこ焼きホイール)

▼「フロントブレーキ キャリパー」(井上氏が担当)
金型を再手配して頂き、専門のサプライヤー様が毎月こつこつ組み上げてくれている。2023年までは供給予定の貴重な代物。サプライヤー様の協力があるから再販が実現している
フロントブレーキ キャリパー



「BEATは96年まで生産されていたわけですが、そのとき私は、当社の鈴鹿工場に務めており、BEATの部品をラインまで届けていたんです。それをいま振り返ってみると、あれからずいぶんと時間が経ったんだなあと改めて感じています。

とにかく、BEATオーナー様に喜んで頂けるように、私たちの部門では日々業務を行っております。しかし旧い部品に対しては、再度の生産をお願いすることしかできません。課題解決はすべてサプライヤー様あってのこと。だからこそ、一度販売が終了した補修部品の再生産を、サプライヤー様にお願いするのがとても心苦しい気持ちがあります。

そういった思いを抱えながらも、サプライヤー様の負担を軽減できるように、様々なことを調整しながら、BEATpartsを盛り上げていきたいです」


▼部品事業部 部品調達保証課 主任 神田勇一氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品事業部 部品調達保証課 主任 神田勇一氏


▼「R.リヤーダンパーユニット」(神田氏が担当)
12部品で構成され、1つの部品が欠けても作ることができません。協力会社も複数に渡り、調査開始から完成まで1年半を要し、今年2019年5月に発売開始
R.リヤーダンパーユニット

「2018年6月29日に販売が開始された、フロントボンネットワイヤーCOMPについてお話させてください。この部品は、協力企業のサプライヤー様から再生産を頂いた部品なのですが、初めて先方と打ち合わせを行う日の朝、たまたまBEATが自宅の前のコンビニに止まっていたんです。

何かのサインかもしれないと思いました。実は、我々メーカーの人間でも現物に部品がセットされている状態をしっかり見たことがないまま、再販に着手しなければならないケースもあるので、オーナー様の車についている部品を見たい欲望に駆られてしまいました。

BEATオーナー様に『ちょっとすみません…。私、怪しいものではありません! ホンダのものです!』と声をかけたら、快くフロントボンネットワイヤーを見せて頂けて、勉強させて頂きました。

弊社には「三現主義」という考え方があります。机上の空論ではなく、実際に「現場」に赴き「現物」を確認し「現実」を直視した上で問題解決を図る。私はその考えに乗っ取るべきだと思っているんです。この想いを大切にもちながら、今後もBEATpartsプロジェクトに真剣に取り組んでいきます」

▼部品事業部 主任 井上和幸氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品事業部 主任 井上和幸氏


▼「フロントボンネットワイヤーCOMP」
井上氏の思い出の部品は、その後なんの問題もなくスムーズに再販計画が進行した
フロントボンネットワイヤーCOMP


「オーナー様が補修部品を求める時というのは、ドキドキやワクワク感はありません。だからこそ、我々はオーナー様が必要な時に補修部品をお渡しできるようにするのが当然なので、ご手配できないとオーナー様からお叱りの声を頂くことになってしまいます。

特にBEATは、継続販売部品率が低く、メーカーの立場なのに補修部品をご用意できないことがとても悔しく、オーナー様に申し訳ない気持ちがずっとあります。

2017年から始動して、まだまだ道半ばですが、BEATpartsの再販でオーナー様から喜びの声を頂けるのが本当に嬉しいです。オーナー様の声は、我々内部のモチベーションに直結し、大きなパワーになります。今後もBEATparts活動を継続いたしますので、よろしくお願いいたします」


▼部品事業部 部品販売企画課 主任 遠藤勝行氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品事業部 部品販売企画課 グループリーダー 主任 遠藤勝行氏


▼「ライセンスライト用レンズ」
ナンバープレートを照らす部品であり、経年劣化で割れやすく購入ニーズが多い
ライセンスライト用レンズ


▼「プレッシャーレギュレーターASSY」
燃料漏れに大きく関わる重要な部品
プレッシャーレギュレーターASSY


「私は、BEATの販売終了後の1997年生まれなのですが、ホンダの22年前のバイクに乗っていて、とても旧車が好きです。現在の部署に配属されて、より旧い車への思いが強くなっていっています。若手だからこそ気付ける目線で、BEATparts再販プロジェクトをもっと広げていきたいです」


▼部品販売企画課 三笠大輔氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品販売企画課 三笠大輔氏

▼「ハイテンションコードCOMP」
ハイテンションコードCOMP.

▼「イグニッションセンターコードCOMP」
イグニッションセンターコードCOMP.

▼「フューエルジョイントホースCOMP」
フューエルジョイントホースCOMP.


「私に『乗る楽しさ』を教えてくれたのが、BEATでした。BEATparts担当になった当初、まずはBEATを理解しなければと、AT限定だった免許を解除し、BEATに乗ってみたんです。BEATの鼓動が自分を包み込み、自分の想いと一体化する軽快なハンドリングに、私自身、BEATに魅了されました。今も多くのオーナー様に愛されているBEATを支えているのが『部品』ですので、より多くのオーナー様に喜んでもらえるよう、BEATpartsの活動を進めていきます」


▼部品販売企画課 雨宮広実氏
本田技研工業株式会社 日本本部 部品販売企画課 雨宮広実氏



▼「トランクマット」
一度は再販NGになったが、協力会社(サプライヤー)の担当者がBEATオーナーで、その強い想いがあったからこそ再販が実現した
トランクマット


▼雨宮氏が企画した「旧車部品による特製キーホルダー」
2019年に各地で開催された「エンジョイホンダ」にて、部品事業部として初出展。<特別なキーホルダーを作ろう!>をキャッチフレーズに掲げ、実際にBEATやS2000、CB750FOURで使われている部品を使ったオリジナル・キーホルダーのワークショップを行い大盛況だった

2019年に日本各地で開催された「エンジョイホンダ」イベントに部品事業部が初出展。BEAT、S2000、CB750FOURで使われている部品を使ったオリジナルのキーホルダーを制作できる企画を展開し、大盛況に


◆来年2月、3アイテムをリリース予定


2017年8月以降、再販部品がリリースされ、現在では92部品を販売中だ。来年2月には、3点(ラックエンドセット、フューエルリターンチューブ、パージーレギュレーターリターンホース)の発売予定があるという。

今後も継続的な再販部品リリースをしたい想いは強いようだが、2015年の検討開始から今日に至るまで時間を要しているものもあり、一部の部品に関しては、簡単に再販できない実情があることを教えて頂けた。


◆「S2000」の補修部品提供にも注力!


今後、部品事業部は、BEATをはじめとする、自社スポーツカーオーナーの「乗り続ける喜びを最大化する」ために、積極的なアプローチを行っていくという。


具体的には、1999年4月に登場し2009年に販売終了となった「S2000」の部品供給に力を入れていくことが決定している。S2000は、現在でも多くのホンダファンから愛され、残存台数が多いこともあり、現在においても継続販売部品率が非常に高いのだが、それを知らないオーナーも多いようだ。

来年2020年は、S2000発売から20周年となる節目にあたる。この機会にS2000の魅力をアピールし、高い部品供給率があり、それを下げないように積極的に展開していくことを、S2000オーナーやホンダファンに周知していく考えがあることを教えて頂けた。

S2000


BEATpartsプロジェクトメンバーの熱い想いが結実し、BEATやS2000の補修部品提供が継続的に展開されていくことを期待したい。

テクノロジーの進化によって、クルマは所有から利用するものへと変わりゆき、「MaaS(Mobility as a Service)」などの新しい動きもある一方で、BEATのように30年近く前に登場した旧車を、長く楽しむ文化の醸成も意義があるのではないだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<BEAT 補修部品再販「協力販売店」について>

現在、以下のHonda Cars店舗が協力販売店となっているが、Honda Carsの看板を掲げている販売店が希望すれば、BEATの協力店に参加できるようだ。詳しくは、今回取材にご協力頂いた部品事業部 雨宮氏(048-452-0420)へ問い合わせてほしい。


<BEATparts 協力店>
茨城県 Honda Cars 千波 千波店
栃木県 Honda Cars 野崎 野崎店
東京都 Honda Cars 東京中央 高野台店
山梨県 Honda Cars 山梨東 塩山店
愛知県 Honda Cars 尾張 小牧原店
    Honda Cars 尾張 西春店
    Honda Cars 尾張 鷹来店
    Honda Cars 尾張 弥生店
    Honda Cars 尾張 守山志段味
    Honda Cars 尾張 オートテラス羽黒店
三重県 Honda Cars 四日市南 小古曽店【本店】
滋賀県 Honda Cars 甲賀西 水口西店


▼「MEET THE BEAT! 2019」時の垂れ幕
BEATオーナーが集まる同イベントに部品事業部が出展したときの垂れ幕には、BEATを愛するオーナーたちの熱いコメントがびっしり書き込まれていた

ビートオーナーが集まるイベント「MEET THE BEAT!  2019」の垂れ幕には、たくさんのコメントが

《カーケアプラス編集部@金武あずみ》

この記事の写真

/

特集