交通事故で緊急手術になったら?今すぐ準備すべき3つの項目【岩貞るみこの人道車医】
特集記事
コラム
新型コロナウイルスの感染者数を確認するたびに、自分もいつ感染して突然入院するかもしれないと考える。そして、思う。私たちにとって突然の入院といえば、交通事故だ。だけど、もし意識不明の状態で病院に運ばれたら、家族への連絡はどうするのだろう?
いや、もし自分に既往症があって、なにかしらの薬を飲んでいるのなら、すぐに医師に伝えなければ。でも、意識不明の状態で、どうすればいいのだろう?
そう考えながら、救命救急センターを取材中に見たある光景を思い出した。患者が運ばれてくると救命救急センターの看護師たちが、すごい勢いで患者の所持品を確認しはじめるのである。そう彼らは医師が治療を的確に進められるように、こうした「患者情報」を探すのだ。
そこで、群馬県ドクターヘリの基地病院である前橋赤十字病院高度救命救急センター看護係長で、フライトナースとしてドクターを支える、救急看護認定看護師の小池伸享(こいけ・のぶゆき)さんに聞いてみた。
◆まずはスマホの「メディカルID」を
家族への連絡先は、どこを探すんですか?
小池看護師(以下、小池)「持ち物にスマホがあれば、ロックをはずさずに確認できるメディカルIDを見ます。緊急連絡先の名前部分に、続柄(妻、娘、実姉など)が入っていると助かります」
メディカルIDのないガラケーなら電話帳で同じ苗字の人(続柄記載があるとなおよし)を探したり、通話履歴(頻繁にかける=家族か会社関係者)も参考にしているとのこと。
携帯電話がなくても、ドライバーなら免許証は常時携帯なので、いっしょに緊急連絡先のメモを入れておくと役に立つ。では、所持品から緊急連絡先がわからない場合は?
小池「救急隊や警察、自治会、市役所などあらゆる機関に連絡して探します」
救急隊によると車検証から割り出すこともあるそうで、これでは時間も手間もかかる。私たちはメディカルIDの活用、そして、免許証とともに緊急連絡先のメモを用意しよう。
次に、既往症、服薬中の薬はどう伝えればいいでしょう。
小池「薬や診察券、お薬手帳を探します。また、免許証、保険証などといっしょに、既往症などを書いたメモのほか、キーパーソンとしている方の緊急連絡先を用意してもらえると、スムーズに関係者に連絡することができます」
診察券やお薬手帳には診察した病院と医師の名前もあるため、病院間の連携もとりやすいそうだ。では、これらがまったくない場合はどうするんですか?
小池「全身を観察し、所見や身体的特徴などから既往歴を推測します。ご本人に意識がある場合は、状況に応じてオープン・クエスチョン(自由に返事ができる)とクローズド・クエスチョン(イエスノーで答える。声が出しにくくてもわずかな首振りで対応可能)を使い分けて聞いていきます」
やはり、一刻も早く情報を伝えて治療を開始してもらうためには、メモなどを用意しておいたほうが絶対にいい。
◆自分の体の情報をメモに書いて伝えられるように
では、すぐに知りたい既往症にはどんなものがありますか。
小池「アレルギーに関する情報は絶対に必要です。食物アレルギー、薬剤アレルギー、皮膚粘膜アレルギーなどです。糖尿病や、女性の場合は妊娠の有無、もしくはその可能性。心疾患や脳疾患で、血液がさらさらになる薬を飲んでいる場合。また、血友病など血液凝固因子の異常に関する疾患の情報も重要です」
病名などを聞くたびに、なるほどとうなずくばかりだ。
小池「そのほか、癌は全身の免疫抑制状態となっていることもあるため、抗がん剤治療、放射線治療の情報は必要ですし、自己免疫疾患や先天性の疾患なども重要です。あと、ぜんそく、C型肝炎、エイズなどですね」
自分の体の情報は、とにかくメモに書いて伝えられるようにしておいたほうがいい。さらに大切なのは、血液型だ。
小池「緊急輸血(病院で血液を調べる前に行う)を実施することがありますが、ABO血液型とRh血液型などがあらかじめ分かれば、ここで異形輸血をしないですみます」
交通事故の場合、輸血はつきもの。とても大切なポイントである。しっかりメモして用意しておこう。
◆今すぐ「入院セット」を!
ところで私は、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、入院セットを作った。突然、入院してもこれさえ持っていけばすべてコトが足り、まわりに迷惑をかけないですむからだ。
とくに新型コロナウィルスで緊急入院になれば、家族であっても面会は不可。もちろん自分で病院のコンビニまで行くことができない(そう、病室の外には出られない!)。必要なものはすべて看護師さんに頼るしかないのだ。このご時世に、看護師さんの手間を増やしている場合ではないのである。
入院のときに必要なものは、保険証、パジャマ(前開きがマスト。レンタルしている病院あり)、ボールペン+メモ帳、下着(T字帯だと便利)、靴下、スリッパ、タオル(レンタルしている病院あり)、歯ブラシセット、コップ。
そのほか、印鑑、スマホや充電器、ティッシュペーパーや耳栓、目の悪い人はメガネ(交通事故で割れちゃうかもしれないし)など怪我や病気の状態やその人に応じて必要なものは異なるので、確認してまとめておくといいと思う。ちなみに、新型コロナウイルスでホテル療養になったときは、差し入れ買い出し不可なところが多いため、甘党の私が必需品を詰め込んだ入院セットはこちら!
最後に、小池看護師から。
「患者さんや家族は救急外来での待ち時間に『(患者の)身体機能に対する心配』『患者の入院生活に対する心配』『経済的な面で心配』などの心配を感じているとされています。われわれ看護師はそのニーズを充足できるよう正確な情報提供、的確な時間の提供、丁寧な説明などを心掛け、患者さん、家族の安心につながるよう支援しております。」
そう。医師は病気やケガを治すけれど、看護師さんは、患者や家族の心によりそい生活を守る手助けをしてくれる。私はこれまで病院の取材を続けているけれど、その献身的な姿勢には頭が下がる思いだ。
なので、彼らの思いに応え、少しでも治療~入院がスムーズに行くように、できることをしましょう。まずは、メディカルIDの活用と、必要事項を書いたメモを準備。
そして、今すぐ入院セットを作りましょう!
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
取材協力:前橋赤十字病院 朝日航洋
《岩貞るみこ》
この記事の写真
/