実は「ポルシェ」が作った、メルセデスベンツの名車『500E』デビュー30周年
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メルセデスベンツ500Eは、当時の「ミディアムクラス」(W124型、現在の『Eクラス』のルーツ)の高性能グレードとして、1990年のパリモーターショーで初公開された。500Eは 1991年春に発売され、ツーリングサルーンの快適性とスポーツカーのパフォーマンスを兼ね備えたモデルとして、現在でも高く評価されている。
◆ポルシェの経営危機の最中にプロジェクト立ち上げ
1980年代後半、当時のダイムラーベンツ社は、ドイツ・ジンデルフィンゲン工場の W124 型の生産能力が不足していたことを理由に、ポルシェに500Eの開発と生産を委託した。ポルシェは1988年、ダイムラーベンツとの間で500Eの開発契約を締結した。
ドイツ・シュトゥットガルトを拠点とする自動車メーカー2社の協力のタイミングは、これ以上ないほど良いものだったという。当時のポルシェは、輸出事業からの収益の減少、生産の落ち込み、ほぼすべてがマイナスの主要業績評価指標により、経営危機に直面していた。500Eの開発契約は、当時のポルシェの経営危機を救うプロジェクトのひとつになった。
500Eには、当時の『500SL』 の 5.0リットル V型8気筒ガソリン自然吸気エンジンが搭載された。そのため500Eはベース車よりも 56mmワイドで、23mm背が低い。とくにワイドフェンダーは、他のW124型と500Eを識別する特長のひとつだ。
500Eはベースモデルに対して、ワイドボディをはじめ多くの専用装備を備えており、500Eのためにジンデルフィンゲン工場の製造ラインを改修するのは、当時のダイムラーベンツには非効率との判断だった。ポルシェは、500E の開発に「プロジェクト 2758」という呼称を与えた。高性能サルーンの新しい基準を打ち立てることが、開発のテーマに据えられた。
◆複雑な生産工程によって組み立てられた500E
500Eの組み立ては1990年から、ドイツ・ツッフェンハウゼンの旧ロイター社の工場で開始された。1955年末にアメリカ軍からポルシェのメイン工場の使用許可が下りるまでは、ポルシェは主にロイター社の敷地を一部間借りした状態で、ポルシェ『356』のボディ製造と組み立てを行っていた。1964年、ポルシェはロイター社を吸収合併。1990年当時、旧ロイターの工場は休止中で、500Eの車体を組み立てるラインを設置するのに、充分なスペースがあった。
500Eの生産の手順は明確に決められていた。メルセデスベンツは、ジンデルフィンゲンから、ポルシェのツッフェンハウゼンにボディパーツを供給した。ポルシェはこれらのコンポーネントと、専用のフロントフェンダーなど、社内で製造された部品を使用して、500Eのボディを組み立てた。その後、車体はメルセデスベンツのジンデルフィンゲンに送られ、そこで塗装が行われた。
その後、車両は再びツッフェンハウゼンに戻り、最終的な組み立てとエンジンの取り付けが、ポルシェによって行われた。1台の製造プロセスには18日かかり、それぞれの500Eはツッフェンハウゼンからジンデルフィンゲンまで、2回移動した。
◆通常モデルとは別モノだった500E
500Eでは前後重量配分を改善するために、バッテリーはエンジンルームから、トランク内に移設された。ブレーキと排気システムは大幅に変更され、前後のフェンダーとバンパーも専用デザインとした。 V型8気筒エンジンは、左右のヘッドライトを囲む隙間からも空気を取り入れる設計とした。500Eの開発の 90%を手がけたポルシェは、駆動系と車両のコンポーネントの組み付けに必要なほぼすべての作業を担当した。
500Eのスペックは、モデルイヤーによって異なるが、最大出力は326ps、最大トルクは48.9kgmを発生。標準の 4 速ATとの組み合わせで、0~100km/h 加速を6.1 秒で駆け抜けた。最高速はリミッターにより、250km/hに制限されていた。
500Eはモデルライフの途中の改良を機に、『E500』に改名され、1995年4月までに1万0479台が生産された。すべて後席が2名がけで、乗車定員は4名。これは、ディファレンシャルが非常に大きく、後席の中央にシートを配置するスペースがなかったことに起因する。
◆ポルシェミュージアムが保有するE500を30年ぶりに試乗
ポルシェは今回、このメルセデスベンツ500Eがデビューから30周年を迎えたと発表した。デビュー30周年を記念して、そして現在では名車として認知されているという事実を記念して、ポルシェミュージアムは500Eの製造に携わった 2人を、ポルシェミュージアムが保有するE500に試乗してもらう機会を設けた。
当時の500Eのミハエル・ヘルシャー開発プロジェクトマネージャーと、ミハエル・ムーニッヒ プロトタイプマネージャーがE500をドライブするのは、およそ 30年ぶり。2人はツッフェンハウゼン、ヴァイザッハ、ジンデルフィンゲンへと、およそ100kmをE500でドライブした。
ポルシェミュージアムが保有するE500は、サファイアブラックメタリックで仕上げられ、内装はレザー、ウッド、カラフルなドアトリム、電動調整式スポーツシート、カセットラジオを装備している。
◆優れたツーリングカーを物語る500Eのエピソード
2人は今でも、500E での懐かしい時間を記憶している。「30年前、3 人の同僚とボーデン湖まで500Eでドライブした。ある時1人が、スピードメーターが250km/hを指していることに気付き、衝撃を受けた。シャシー、ブレーキ、エンジンは完璧にチューニングされており、素晴らしいドライビング体験だった」とヘルシャー氏は振り返る。
ポルシェで35年以上働き、500Eのプロトタイプの製造を担当したムーニッヒ氏は、「500Eの加速は素晴らしく、ブレーキは際立っており、ダイナミックなキャラクターの500Eを運転することは喜び。8気筒エンジンの美しく控えめなサウンドを満喫した」と語った。
ヴァイザッハの開発センターに到着した二人は、かつてデザインエンジニアリングオフィスだった六角形の建物の前に、E500を駐車した。「ここにいると、家に帰ってきたような気分になる」と、ヘルシャー氏は話した。 2人はツフェンハウゼンに戻る途中、窓を開けてV8サウンドを楽しんだ、としている。
ポルシェが作ったメルセデスベンツ、『500E』がデビュー30周年
《森脇稔》
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