ジェイテクトは、電気自動車(BEV)向けの超小型デフを新開発し、8月31日に公開した。同社は自動車部品や工作機械、ベアリングなどの製造・販売を手掛ける。特に1988年に世界に先駆けて量産を開始した電動パワーステアリングでは、現在も世界ナンバーワンのシェアを持つ。
新開発の『JUCD』(JTEKT Ultra Compact Diff.)は、そのコンパクトなサイズと高出力化への対応でクルマの電動化に貢献するという。
●電気自動車の普及と高性能化
自動車事業本部 駆動CE室の西地誠室長によると、BEVの生産台数は増加を続け、2029年には世界で約3300万台に達するという。これはグローバル市場の34%にあたり、電気自動車がエンジン搭載車両に代わって最大シェアを占めると予測されている。高出力化も進み、二輪駆動の場合100~200kWが中心になると考えられている。前後にモーターを取り付ける全輪駆動では、出力は2倍になる計算だ。当然、搭載バッテリー容量の拡大も進むだろう。
●eアクスルの小型化に貢献するJUCD
BEVの駆動システムには、小型化と高出力への対応ニーズが高まるとジェイテクトはみている。同社が新たに開発したのはディファレンシャル、俗に "デフ" と呼ばれる “差動装置” で、旋回時などクルマの走行中に発生する左右輪の回転差を吸収しながら両輪に駆動力を伝達する役割を担う。BEVの駆動システムは、このデフを含む減速機とモーターおよびインバータを一体化したものでeアクスルと呼ばれる。
JUCDについて、「これまでのベベルギア式デフと同等の強度を保ったまま、容積を2分の1以下に小型化しています」と西地氏は説明する。新型のデフはeアクスルの小型化を可能にすることで、クルマ全体の設計に関する自由度の拡大にも貢献するだろう。また、各ギヤのかみ合い部分の負荷軽減が図られており、耐久性も強化されたという。さらにeアクスルの主力となるであろう100~200kWの出力に幅広く対応し、外径・軸径の異なる5種類のシリーズ展開が予定されている。
●安全性や電費の向上に期待
新開発のデフは、電気自動車の安全性能向上と電力消費量削減(電費低減)にも貢献するという。滑りやすい路面での発進や登坂時には、タイヤスリップが発生することがある。その際、これまでの摩擦ブレーキではなく回生ブレーキが介入することで、より効果的な制御が可能となると共に摩擦ブレーキによるエネルギーロス(バッテリー充電量の減り)が防止できる。減速や旋回走行時にも、クルマの挙動がより安定することで安全性能の強化につながるという。直進安定性も向上するため、ステアリングの微修正が減りドライバーの疲労軽減や乗り心地の改善も期待できると同社は説明する。
●電気自動車向けの提案力を強化
ジェイテクトグループは昨年11月、 「ギヤイノベーションセンター」を愛知県刈谷工場内に開所した。歯車事業部と自動車事業本部の両方を担当する牧泰希 副本部長は、「お客さまのニーズに対応する高性能歯車を、“超短期”でご提案できる体制を整えた」とその目的について説明した。JUCDの開発を担当した西地氏は、この体制を基に「BEV向け商品の競争力をさらに強化し、自動車の電動化と低炭素化社会の実現に貢献したい」と今後の展望を語った。
今後は、トヨタグループ以外も含め自動車やeアクスルメーカーに広く売り込んでいく計画だという。ベベルギア方式に比べ部品点数が多いため、JUCDの場合デフ単体としてのコストは増えたという。一方、小型化によってeアクスル全体の最適化につながるため、ジェイテクトでは価格競争力に不安はないようだ。