【書籍】シトロエンDSから自動車デザインの本質と歴史がわかる…ベルトーニの軌跡 | CAR CARE PLUS

【書籍】シトロエンDSから自動車デザインの本質と歴史がわかる…ベルトーニの軌跡

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シトロエンDS(1956年撮影)
シトロエンDS(1956年撮影) 全 15 枚 拡大写真

シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー
ベルトーニのデザイン活動の軌跡
著者:大矢アキオ
発行:三樹書房
定価:3600円+税

その斬新なデザインで自動車の歴史に残るシトロエン『2CV』、『DS』。現在でも多くの人に支持されているモデルだ。当時のシトロエンの開発部門でデザインをまとめたのが、本書が紹介するフラミニオ・ベルトーニだ。

彼がデザインした車はいずれも独創的で、自動車ファンだけでなく、クリエーターや知識人など世界中にファンがいて、評価されている。美術家でもあったベルトーニは彫刻の技術を自動車デザインに生かし、DSにおいては美術界からも絶賛された。しかし芸術家が作品として自動車デザインに参加した、とか、自動車デザイナーが手遊びに彫刻でいい作品を残した、とかの話ではなく、いずれもひとかどの実績を残している。

「本書は、ベルトールニのデザイナー活動と美術制作の双方を可能なかぎり平等に記した。そして両者の間には互いに影響を与えたものが存在する、というのがその内容である」(序より)。シトロエンDSのデザインを解説しようとするとデザイナーのベルトーニを紹介することになるのは当然で、彼の美術作品の解説も避けては通れない。本書は自動車デザインと美術作品の双方を見ながら、互いの影響を解き明かしていく。

著者は当時を知る人々に取材を重ね、対象には当然自動車デザイナーも多い。その膨大かつ綿密な取材で、本書は工業デザインと純粋美術が不可分であるということを証明し、さらには自動車デザインの通史としても読めるようになっている。例えば、女体のカーデザインへの引用の仕方。GMスクールとベルトーニとではその精神が明らかに異なる。あるいは自然の形のカーデザインへの反映。ジャケットにも抜粋されているが、ベルトーニは魚をカーデザインに落とし込もうとしていた。本書を読むとシトロエンDSはもう水棲動物にしか見えない。

2CVの造形が実は合理性の塊だというのは知られた話だが、DSや、あるいは『アミ』なども合理性の裏打ちがあったのだ。とはいえ、ベルトーニの造形は自動車業界に普及(波及)せず、異端として輝き続けることになる。

その最大の理由を「後年世界の自動車デザインが、米国の潮流を意識したこと」と、著者は書評子の取材に別途答えている。「1967年に西ドイツを抜いて世界第2位の自動車生産国となった日本のカーデザインも、最大の輸出国である米国ユーザーの嗜好を意識せざるを得なかった。加えて、1970年代初頭になると、自動車の安全性が重視されるようになり、デザインの自由度は急速に狭まった。そうした流れのなかで、ベルトーニのデザインは、マクロ的デザイン史のなかで主流とはなれなかった」。デザインにおける作家性、工業製品としての要件、マーケティング、これら3者の関係を解き明かす好著でもある。

著者はイタリア在住のジャーナリスト。「ベルトーニの出身国イタリアで、その存在があまりにも知られていない事実に危惧を感じた」のが執筆のきっかけだという。

「イタリアは豊かな歴史に恵まれている。反面、過去の業績を評価するまでに時間がかかってきたことも事実だ。エトルリア美術を象徴する紀元前3世紀のブロンズ像『オンブラ・デッラ・セーラ』が、考古学者によって正しく価値を認められたのは18世紀後半でした。ルネサンス時代を代表するレオナルド・ダ・ヴィンチが高く評価されるようになったのも、19世紀以降なのだ。今日イタリアでは、未来派美術など一部を除き、20世紀の作品や産業の業績には評価が定まっていないものが多々ある。その解決にはエトルリア美術やダ・ヴィンチ同様、時間を要するだろう」

「自動車も20世紀を象徴する文化のひとつだ。同時にカーデザインを語る際、シトロエンDSは欠かせない1台。にもかかわらずそのデザイナー、ベルトーニの知名度と業績は、あまりにも知られていない。それは、なんと彼の故郷ヴァレーゼでも同じだ。そうした現状に、彼の仕事と作品を今記録しておかないと、ますます多様化・国際化する産業界の大海に埋没してしまうと考えた」

本書は、ベルトーニが残した貴重なデザインスケッチや写真の他、美術作品も多数収録した力作。年譜や参考文献リストも充実している。若い自動車ファンやデザイン学生には、記述が学術的なためとっつきにくいかもしれないが、どのページのどの文章も示唆に富んでいる。自動車研究者の書架には必須、工業デザイナーをめざす若者にとっては「私の1冊」となりうる本だ。

シトロエンDSから自動車デザインの本質と歴史がわかる…ベルトーニの軌跡

《高木啓》

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