今でこそ個性を発揮したSUVは珍しくはない。が、1989年5月に登場したいすゞ『mu(ミュー)』は、この時代に生まれた量産車としては奮った姿で注目を集めた。
車名の“mu”は“Mysterioous Utility”の意味が込められたもの。当時のピックアップトラックの『ロデオ』などをベースとし、ボディ前半、ドアまではロデオと共通。ただしブリスターフェンダーの膨らみが大きく、(トラックのロデオのフェンダーがブリスターだったのも改めて感心するが)ロデオが1690mmだったのに対してミューの全幅は1780mmだった。
さらに当初2シーターのみでスタートした点もユニークだった。ボディ形状はハードカバーとソフトトップの2種。遅れて1990年になると4名乗りのメタルトップを追加(この仕様が最後まで残ることに)。コチラは+2名分の後席を備え、ハードカバー&ソフトトップと共通の横ヒンジ式のドアにデフォッガー付きのガラスハッチが組み合わせられた。当時の筆者の取材メモには“スペアタイヤは支点側(ヒンジ寄り)にマウントされているからドアの開閉は軽い力で行なえる”とあった。
インテリアはこの時代のSUVらしく飾り気のないシンプルな仕上げ。それでもインパネのメーターナセルの左右にサテライトスイッチを並べたデザインで、右列にライト関係、左列にワイパー関係が並べられていた。
当初のエンジンは4気筒で2771ccのターボディーゼル4JB1型(110ps/23.0kgm・NET)と2559ccのガソリン4ZE1型(120ps/20.0kgm・同)の2機種。1991年8月には『ビッグホーン』にも搭載のパワー/ノーマルモード切り換え付きの電子制御4速ATが設定されている。マニュアル車のみだったが、オートマチックフリーホイールハブも用意された。
カタログの仕立てもポップなイラストを織り交ぜた遊び心をくすぐる構成。ホンダにOEM供給された『ジャズ』もあった。“RV”全盛の頃の懐かしい1台だ。