「ただただ悔しい」トーヨータイヤ開発グループ長…ニュル24時間リタイア | CAR CARE PLUS

「ただただ悔しい」トーヨータイヤ開発グループ長…ニュル24時間リタイア

イベント イベントレポート
2023年ニュルブルクリンク24時間耐久レース
2023年ニュルブルクリンク24時間耐久レース 全 15 枚 拡大写真

毎年5月下旬から6月初旬に開催される“世界一過酷な耐久レース”ニュルブルクリンク24時間耐久レース。51回目の開催となった今年は、5月18~21日に開催され、ドイツ時間20日16時から決勝レースが行われた。

ニュル24時間には、長年日本の自動車メーカーや部品メーカー、そしてドライバーが参戦し続けている。今年もいくつもの日本企業やドライバーがエントリーリストに名を連ねたが、今回はタイヤメーカーとして挑戦を続けるトーヨータイヤに注目してみた。

◆2020年に復帰参戦、大きかったブランク

トーヨータイヤは、過去にも参戦していたことがあるが、2010年を最後に一度撤退。2020年に復帰した。その経緯からモータスポーツ用タイヤの開発を仕切る同社技術開発本部OEタイヤ開発部MS商品開発グループの富高祐グループ長に聞いた。

「復帰から今年で4年目です。元々は欧州でのプレゼンス向上というプロモーション側の理由です。もうひとつはタイヤの技術力を向上させていこうという目的で参戦を開始しました。そのうえで、評価ステージとしてサーキット、レースの場でやっていこうという目的でニュルブルクリンクに来ています。ニュルを選んだのは、世界で最も過酷なサーキットである北コースがあることが最大の理由です。コース自体も過酷なのですが、天候がコース上でも場所によって変化する。そういうところが世界一過酷と呼ばれる所以と考えています。そんなステージでタイヤの技術力を磨くことを目的にしています」

しかし、復帰当初はかなりショッキングな状況だったという。

「全てが足りないと感じていました。2010年の時から他社のレベルが格段に上っていて、レースに勝つとかいう以前のレベルでした。継続して技術力を積み上げていた他社とは勝負できないパフォーマンスレベルでした。10年のブランクは大きかったです。しかも近年は開発スピードが格段に上がっている。今回は一からやり直す勢いで作り直したものを持ってきています」

◆2022年はあらゆる面で進化、スープラGT4に合わせて開発

今年持ち込んだタイヤは、4年前と比較すると、あらゆる面で進化しているという。操縦安定性も、ステアリングフィールも、グリップ性能も、車両の挙動も、耐久性も、すべて根本から見直した。特に耐久性については、アップダウンが激しくて、路面のアンジュレーションが大きく、かなり負荷が大きい北コースでは決して疎かにできない。そのうえで操縦安定性を高め、他社と戦えるレベルとすることを目標に開発してきたという。

「今回はかなり良いところに来ていると思います。タイヤはSP10クラスに参戦する『スープラGT4』に合わせこんで開発しました。2スティント(16周)は確実に持つように、マージンを持った設計になっています。予選は、GT4 EVO仕様の71号車がクラス3位、GT4の70号車は12位でした。ここまでは狙ったパフォーマンスは出ています」

経験豊富なリング・レーシングとタッグを組んで走らせる2台のスープラは、スタート後も順調に周回を重ね、徐々に順位を上げてゆく。一時は71号車がGRスープラGT4 EVO勢でトップ走ってもいた。だが2台にダブルエントリーしていた木下隆之選手がドライブしていた70号車のGRスープラGT4が、残り6時間になろうとする現地時間21日午前10時直前、7.7km地点のメッツゲスフェルトでコースアウトし、ガードレールに激突。リタイアとなる。EVO仕様の71号車はその後も走り続けたが、最終的にSP10クラスは、86号車のBMW「M4 GT4」に優勝を許し、KCMGが走らせた同じGRスープラGT4 EVOの47号車にも先行され、71号車はクラス5位、総合27位という結果に終わった。

◆全開プッシュでタイヤのポテンシャルを使い切る

70号車のリタイアは、チームのポリシーから起きたものだった。なぜならトーヨータイヤチームは、開発のためのデータやドライバーのフィードバックを集めるために、タイヤのポテンシャルを使い切る走り方をドライバーに要求していたからだ。チーム監督もドライバーズミーティングで「常に全開でプッシュし続けろ!」とドライバーに檄を飛ばしたという。ただ“全開で勝つ!”のが理想であることはもちろんである。

それだけに、決勝レース終了後の富高氏の表情からは悔しさが溢れていた。

「正直クラス優勝を目指していたので、悔しい結果です。ミシュランを履いていた47号車が速かった。帰って分析してみて、クルマは同じなのでタイヤで上げられる部分についてはなんとかしたいと思っています。タイヤ以外の部分はリング・レーシングの協力を得ながら分析して、来年こそは必ずクラス優勝したいです。新しいM4 GT4も早いので、スープラでM4にも勝てるタイヤを開発する必要があります。今年は期待していただけに、5位という結果は非常に悔しいです。アストンにも抜かれてしまった。ただただ悔しい」

◆GT3マシンでSP9クラスに挑戦したい

今年はGRスープラGT4と同EVOの2台でエントリーしたトーヨータイヤだが、将来的にはステップアップを考えている。具体的なスケジュールは未定だが、長期的に参戦し続けて、最終的には現在GT3マシンが火花を散らすSP9クラスに挑戦し、さらに技術力に磨きをかけて総合優勝も目指しているという。

その背景にはタイヤを取り巻く社会状況の変化がある。環境問題への対応や電動化車両の普及拡大は、市販タイヤに一層の低燃費性能やグリップ性能、耐荷重性能、耐摩耗性が求められる状況となることは確実だ。それぞれの要素は他の要素とトレードオフだが、トーヨータイヤは、それらをすべて満足させつつ、操縦安定性の部分については、ニュルで得た知見や技術を市販タイヤにフィードバックさせていくことを考えている。

「要求パフォーマンスレベルが高い世界を見ておけば、そこより下の世界は応用が効きます。そういう流れを作ることが、我々のニュル24時間レース参戦活動の意義だと考えています」

企業にとってモータースポーツへの参戦は様々な意味を持つ。場合によっては不必要とされることもあるが、トーヨータイヤにとってニュルブルクリンク24時間レースは、クルマがタイヤを装着して地上を走り続けるかぎり、ラボとして必要な場なのである。いつかトーヨータイヤのロゴが表彰台の頂点に舞う日が来ることを期待したい。

《竹花寿実》

この記事の写真

/

特集