近年、トヨタを中心として日本のクルマにもEN規格のバッテリーが搭載されはじめている。そんな中、GSユアサがEN規格のバッテリーであるENJシリーズをリニューアルして新発売され、時代のニーズに合わせたバッテリーの進化を込めた新シリーズに注目した。
◆欧州で統一されている『EN規格』とは何なのか
そもそもEN規格とは欧州統一規格のことで、日本国内の規格ではJIS規格やISS(アイドリングストップ)専用の規格があるが、トヨタでの部品の共通化の取組みトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)によりEN規格の採用が進み、日産、ホンダなどの国産メーカーでもEN規格のバッテリーを標準採用した車種が展開されているのだ。
そんな中、GSユアサが新技術を採用しニューアルしたのがENJシリーズだ(EN規格のバッテリーとしてENJシリーズは2016年から発売中)。欧州統一規格であるEN規格をベースにしつつ、日本での使用環境に配慮した仕様を施したいわゆる日本仕様のEN規格バッテリーとして登場したシリーズだ。例えば日本よりも寒冷地の多い欧州は低温下での始動性を重視してバッテリーの仕様も設計されている。対して欧州に比べ高温多湿な日本での使用環境では液減りの対策を重視する必要がある。そこでバッテリー液と極板の高さなどの設計の最適化を行うことで日本ならではの仕様にチューニングしているのだ。
◆バッテリーのロングライフ化で重要になる『液減り』対策に注目
今回のリニューアルでGSユアサの開発陣が特に力を注いだのがこの液減りを低減させる改良だった。バッテリー液は使用していると徐々に減っていくが、これは熱などによってバッテリー液の水分が蒸発するケースに加えて、充電時にバッテリー液から発生する水素、酸素がバッテリーの外に出て行くことで結果的にバッテリーの液が減ってしまっていたのだ。ここであらためて液減りが起きると何が問題になるのかを紹介しておこう。バッテリー液が一定以上減ることを専門的には「液減り、液枯れ」と呼ぶのだが、こうなると本来はバッテリー液中にあるべき極板が空気中に露出してしまう。その状態でバッテリーを使い続けていると極板の劣化が引き起こされ、バッテリー内部でスパークなどが発生することもあるのだ。最悪の場合には内部に溜まった水素ガスに引火して爆発を起こしかねない。事実バッテリーの爆発事故の原因はこのような液減りが引き金になっているケースが多数を占めている(電池工業界調べではバッテリー爆発事故の63%は液枯れが原因とする2021年度の調査もある)。
もちろん、日常点検でバッテリーを目視してバッテリー液がローワーレベル(最低液面線)を下回るようならば補充して常に正常な状態で利用していればトラブルは未然に回避できる。しかし、うっかりメンテナンスを怠ってしまうと意外なほどバッテリー液は減ってしまうことがある。さらに近年はハイブリッド車などの補機類用のバッテリーはエンジンルームでは無くシートの下やラゲッジの床下に設置され、簡単にはバッテリー液の状態を目視でチェックできないケースも増えている。そんな場合にもついついチェックがおろそかになってしまいがち。気が付いたときにはバッテリー液がかなり減ってしまっていたなんてことも少なくない。
◆液減りを大幅に低減させるGSユアサの新技術
そこで、注目されるのがGSユアサの新しいENJシリーズに採用した液減りを最小限に抑える新技術だ。バッテリー液の液減りを最小限に抑えるために「GRテック液栓」と呼ばれる新技術を採用。この液栓は液減りの原因のひとつになっているバッテリー内で発生する水素、酸素をバッテリーの外に出してしまう前に、特殊な触媒デバイスを使って水素と酸素をキャッチして水に戻すという働きを備えているのだ。
この技術はレインウェアなどに用いられる透湿・防水素材で有名なゴアテックスを開発したW.L.Gore&Association社とGSユアサが共同開発したもの。W.L.Gore&Association社は最先端の素材開発を得意とする企業であり、さまざまな性格を持った素材を持つ。その中からバッテリーの液栓に似つかわしい素材を組み合わせたのがGRテック液栓で用いられている触媒デバイスなのだ。その結果、水素、酸素の発生に起因する液減りを90%低減させることに成功したという画期的な新技術だ(同時にバッテリーの長寿命化も果たし、寿命指数と呼ばれる数値では従来モデル比で114%に向上している)。
さらにENJシリーズには二重蓋構造も採用。こちらではバッテリー内で発生した水蒸気を水滴に戻して再びバッテリー内に戻す構造になっているのも特徴。このGRテック液栓+二重蓋構造を兼ね備えたことでバッテリーの液減りを大幅に抑えることに成功したのが新しいENJシリーズの最大の特徴である。
バッテリーを使い続けているとこれまで避けられなかった液減り。特に走行距離が長ければ長いほどバッテリーは充放電を繰り返すことになり、バッテリー液の減りも顕著になりがちだ。また補機類用のバッテリーはメンテナンスがおろそかになることもあるため、安心して長く使い続けられるためには液減りの少ないバッテリーが注目されている。そんな現代の自動車の使用環境に合わせた安心・安全なバッテリーとして登場したのがGSユアサのENJシリーズだ。バッテリー交換時にはあらためてバッテリー性能とメンテナンス性に着目してモデルを選ぶと良いだろう。
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