事業者たちが「カーラッピング」の基礎を学ぶ…フィルムの特性やポストヒーティングの重要性を知る | CAR CARE PLUS

事業者たちが「カーラッピング」の基礎を学ぶ…フィルムの特性やポストヒーティングの重要性を知る

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事業者たちが「カーラッピング」の基礎を学ぶ…フィルムの特性やポストヒーティングの重要性を知る
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カーラッピング施工を学びたい事業者を対象にした「ORAFOL カーラッピングセミナー 初級編」が、6月17日に、新潟県三条市の株式会社えちごホールディングスで行われた。

同セミナーは、建築内外装飾フィルムやカーラッピング施工、サイン資機材の卸販売などを行うデコラ株式会社が主催したもので、新潟や山形、長野エリアでカーラッピング施工を行っている事業者や新規ビジネスとしてカーラッピング施工に取り組みたい事業者などが参加。カーラッピングフィルムの基礎知識と、基本的な施工方法を学ぶ実技講習が行われた。

カーラッピングとフリートマーキングに共通する特徴

セミナー前半の座学講習では、ドイツのフィルムメーカー「ORAFOL」日本法人オラフォルジャパン株式会社の杉崎雅信氏(グラフィックイノベーション部・課長)がカーラッピングフィルムの基礎知識などを解説。この際、オラフォルジャパン認定トレーナーとして、セミナー後半の実技講習で講師を務める株式会社サインアート ツカ/P.G.Dの大塚真氏(代表取締役・Wrap Expert)が施工者の立場から具体的な補足説明も行った。

杉崎氏はオラフォル社の紹介やカーラッピングの歴史・概要などを伝える中で、カーラッピングとフリートマーキングについて説明。カーラッピングは、個人オーナーがマイカーのボディにフィルムを貼ってカラーチェンジやデザイン表現などを楽しむものである一方、フリートマーキングは企業や広告主がバスや商用車などを“動く広告”として施工するものと伝えた。両方に共通するのは、塗装では表現が困難な複雑なデザインや写真などをインクジェットメディア専用フィルムに印刷して貼り付け施工でき、いつでも剥がせて塗装に比べて準備や施工時間が短いところが大きな特徴だと話した。

日本と海外のカーラッピング市場

杉崎氏は、カーラッピング市場についても触れた。日本のカーラッピング市場は20年ほど前から痛車やレーシングカー、東京都のバス広告を中心に発展し、ここ10年くらいはマイカーのフルラッピングが多い傾向。日本の市場規模としては150億円で、乗用車フルラッピング施工価格は1台50万~100万円、商用車フリートマーキング施工価格は1台7万~15万円(ミニバン・乗用車)ほどと伝えた。

一方、海外市場はアメリカなどを中心に40年ほど前から盛んで、全世界の市場規模は1700億円あり、乗用車フルラッピング施工価格は1台30万~70万円、商用車フリートマーキング施工価格は5万~10万円(ミニバン・乗用車)ほどと伝え、海外は日本に比べて台数が多く車種に関係なく施工価格も低い傾向だと説明。杉崎氏は、カラーラッピングは成長市場だと話し、フィルムや粘着剤、施工技術の進化や、リユースを見込んだ車両保護、ラッピングの定着が進んでいることを伝えた。

さらに杉崎氏は、カーラッピングフィルムの素材として使用されているポリ塩化ビニール(PVC)の構成や特性、製法、フィルム劣化の原因の説明のほか、セミナー後半の実技講習で使用するORAFOL社のカーラッピングフィルム「ORACAL 97シリーズ」とカーラッピングインクジェットメディア「ORAJET 3951RA+ ProSlide」も紹介した。

カーラッピング施工で重要な「ポストヒーティング」

杉崎氏は、施工の注意点やポイントも解説。施工前にボディ施工面やエッジをキレイに洗車してパーツごとに脱脂洗浄剤(IPAイソプロピルアルコール)で脱脂を行って10~30分ほど乾燥が必要で、施工時はPVCをコントロールする「ポストヒーティング」が重要だと断言。樹脂製品は固形と粘性状態の境界をガラス転移点(ガラス化)と言い、PVCは80℃前後がガラス転移点でそれ以上の熱をかけると冷えた時に物性が変異して柔軟性がなくなり硬くなると説明。この原理をカーラッピング用PVCフィルムに応用して、フィルムに熱風を当てて貼った場所に100℃前後の熱風を当てることでフィルムが変異しないように処理する必要があると話し、この処理を行わないと時間の経過でフィルムが浮き上がりクレームになる可能性が高いことを伝えた。

続けて、セミナー後半の実技講習で使用する「ORACAL 970シリーズ」についても説明。厚みが110μm(0.11mm)あるフィルムのためガラス転移点が110℃~120℃と高温設定であり、深さがある凹部分は2ステップに分けて施工(40~60℃:指で押さえる程度/60~80℃:スキージで圧着してエアチャンネルを潰していく/110~120℃:温度計を使用して確実にその温度に上げていく)する必要があると説明。また、テンション(引っ張る)をかけて貼った場合はポストヒーティング無しだと縮みが出るが、テンションをかけずに貼ったフィルムはポストヒーティングの有無に関わらず縮みは出ないと伝えた。

また、オラフォルジャパン認定トレーナーの大塚氏は施工者の立場として、カーラッピング施工時において、余る部分と足りない部分が出てくることが難しい点で、適当にフィルムに熱風を当てているのではなく、施工したいパーツの形状に合わせて最適なポストヒーティングを行う必要があることを伝えた。また大塚氏は、カーラッピング施工を希望するユーザーに対し、施工前にカーラッピングの弱点をきちんと伝えることが大切と言及。愛車のカスタムを楽しみたいユーザーが施工後に嫌な思いをしないように、カーラッピングフィルムに於けるメリットとデメリットをしっかりと伝えた上で、お客様に理解して頂き施工依頼を受けていると話していた。

PVCフィルムの特性を理解して施工する

約2時間ほどの座学講習が終わり、昼食休憩ののち実技講習会場へ移動。カーラッピング施工経験が豊富な大塚氏が講師を務め、まずはPVCフィルムの特性を説明。カーラッピング施工用のグローブを着用し、講習車両のドアガラスを開けた状態でカーラッピングフィルムを貼り、ヒートガンでフィルムに熱風を当てて柔らかくしたあとフィルムを凹ませ、しばらくするとフィルムが伸縮して凹みが戻る。熱風を当てて柔らかくなったフィルムを凹ませた直後しばらくの間、熱風を当て続け100℃以上の高温になるとガラス転移温度が限界値に達し、フィルムが変異しなくなることを実際に説明した。

このほか、カッターを使わずにカーラッピングフィルムをカットできるナイフレステープの使用方法や、施工者のカット圧力確認方法、フィルムの初期粘着性を軽減して貼り直しがしやすくなる粘着軽減剤の効果や、バンパー部分に貼り付ける際のポイントなどを丁寧に説明。一通りのレクチャーが終わった後、参加者たちはオラフォル社のフィルムを使用して講習車両に施工を行い、講師の大塚氏は参加者たちが苦戦している部分について、どのようなやり方で施工すれば美しく仕上げられるか丁寧にアドバイスしていた。

実技講習が約4時間ほど行われたのち、座学講習の会場へ移動。大塚氏は参加者たちに向けて「毎日短時間で良いのでフィルムに触れてほしい。フィルム施工の技術はとても繊細で時間が空いてしまうと忘れてしまい、技術力が落ちてしまいます。実技講習で覚えたことを毎日練習して感覚をつかんでほしい。その感覚をつかんだとき技術になります」と話し、カーラッピングフィルム施工は簡単に行えるものではなく、日々トレーニングを続けなければ技術力は身につかない専門性が高い作業であることを伝えていた。なお、オラフォルジャパンでは定期的に各地でカーラッピングセミナーを実施している。

《カーケアプラス編集部@金武あずみ》

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