江東区にある「東京タクシーセンター」において、盲導犬ユーザーが利用しやすい接客サービスを学ぶ研修がタクシードライバーを対象に行われた。
主催したのは、タクシーの安全性および利用者の利便性向上に取り組んでいる公益財団法人東京タクシーセンター。運転者の接遇向上を目的とした「自主ユニバーサル研修」の一環として実施した。
◆なくならない盲導犬の受入れ拒否
盲導犬の育成などを行う日本盲導犬協会は、盲導犬ユーザーへの聞き取り調査を毎年実施している。2022年の集計では、回答を寄せた218人のうち45%にあたる100名のユーザーが、飲食店や宿泊施設などで「受け入れ拒否にあった」と回答した。公共交通機関では、タクシーの乗車拒否が24件(全体の12%)あり、このうち4件が都内での事例だったという。
◆法律は補助犬の同伴拒否を禁止
2002年に施行された「身体障害者補助犬法(補助犬法)」によって、盲導犬、聴導犬、介助犬は様々な施設に同伴することが認められている。国が管理する公共施設や事業所はもちろん、交通機関、デパート、ホテル、飲食店など不特定多数が利用する民間施設も、やむを得ない理由がある場合を除き補助犬の同伴を拒否することはできない。
この法律に対する認知の低さが同伴拒否の理由の1つだとして、日本盲導犬協会は事業者への周知の必要性を感じているという。一方、東京タクシーセンターは、車いすの取扱いや車いす使用者の乗車・降車時のサポートなどに関する講習を行い、「ユニバーサルドライバー」の育成に取り組んでいる。その一環として、新たに日本盲導犬協会と連携し、盲導犬ユーザーが安心してタクシーを利用できる接客サービスを学ぶプログラムを今回から採り入れた。
◆盲導犬ユーザーの義務も定める補助犬法
約1時間の研修は、座学と実習による2部構成で行われた。前半は、日本盲導犬協会の職員で盲導犬ユーザーでもある押野まゆ氏による、「視覚障害サポート 盲導犬受入れセミナー」と題した講義が行われた。
補助犬法については、事業者に課せられた受け入れ義務だけでなく、補助犬の使用者が遵守すべき事柄も定められていることが説明された。常に犬の体を清潔に保つことのほか、排せつの適切な管理や吠えたり飛びついたりすることの防止といった行動管理などが使用者の義務とされている。ユーザーにも必要な義務を課すことで、補助犬が社会に受け入れられやすい環境を整えようとする同法の狙いが感じられる。
座学ではそのほかに、乗車・降車時におけるサポートの仕方や金銭の授受を行う場合の注意点などが、押野氏の実体験を交えて紹介された。
後半は、実際にトヨタ『ジャパン タクシー(JPN TAXI)』を使用した実習が行われた。押野氏とパートナーの盲導犬を乗客に見立て、視覚障害者への対応をロールプレイで学習した。
タクシー乗り場での声かけや乗車時の誘導、タクシーから降りる際の足元の状態や方向に関する情報提供など、盲導犬ユーザーにとって分かりやすく安心感のある接遇方法のシミュレーションが行われた。
◆乗車拒否ゼロに向けて
東京タクシーセンターによると、これまでも資料を使った座学研修は行っていたという。盲導犬とユーザーを招いたのは初めての取り組みだが、「これまでは映像だけだったので、少し退屈そうな様子が見受られることもありました。今回は、参加者が積極的に実習に取り組んでいたのが非常に印象的でした」と手ごたえを感じているようだ。
「盲導犬ユーザーから直接話を聞くことで、法律に関する理解も深まると思います。研修で学んだことを職場でも共有することで、タクシー業界全体に理解が広がっていくと思います」と担当者は語る。同センターは今後も同様のプログラムを継続し、「乗車拒否ゼロの実現を目指します」とのことだ。
押野氏は、「私たちユーザーも、衛生面や行動の管理など補助犬法に定められた義務をしっかり果たしています。それを前提に、皆さんには社会への受け入れにご理解をいただきたい」という。とはいえ、補助犬の受け入れに不安を感じることもあるだろう。そんな時は、「遠慮なくユーザーに聞いてください。お話すれば、建設的な解決ができると思います」と押野さんはコミュニケーションの大切さを強調していた。
ダイバーシティ(多様性)の尊重が世界的に求められる現代。ハンディキャップをもった人を含め、誰もが安心して快適に暮らせる社会を創る上で、モビリティの果たす役割は大きいだろう。運転の自動化やマイクロモビリティなどのソリューションは、社会のバリアフリー化にも貢献する。そうした新しいテクノロジーに目が行きがちではあるが、日本盲導犬協会と東京タクシーセンターが行うこうした地道な活動も日本社会ではまだまだ必要だと言える。