クルマの楽しみ方はじつに多彩だ。そのなかのひとつで、とても大切な移動ということに注目し、東京から往復300kmのちょっとした旅行に出かけた。
◆気が向いたとき一緒に動ける相棒として
使い方が限定されないカングーの魅力
いろいろなクルマの楽しみがあるなかで、ドライブそのものを楽しむということは、クルマの楽しみのなかでも根底にあるもの。そして、ふらっとどこかに行くということこそ、クルマならではの楽しみ方だ。もちろん駅に行って、適当な切符を手に入れて出かけることもできるが、時間をあまり気にせずに「やっぱり、こっちの道に行くか」という自由奔放な旅はクルマならでは。そんな風来坊のような旅の相棒に選んだのは、今年フルモデルチェンジしたルノーの『カングー』である。
まずは関越自動車道の練馬インターを目指す。ここまでの道のり、幹線道路を通ればワイドボディのカングーでも楽々なのだが、この幹線道路がくせ者。平日昼間でもけっこうな混み具合なのだ。意を決してちょっと裏道を使ったのだが、大きさの割に意外とボディサイズが気にならない。全幅そのものは 1860mmと広いのだが、見切りがいいので都内西部の狭い道も行けてしまう。
練馬インターから関越自動車道に乗り、川越インターを目指す。最初の目的地は小江戸と呼ばれる埼玉県の川越である。平安時代にはすでに荘園や寺院があり、江戸時代になると江戸の北の守りを担ったという歴史ある街と、カングーの優しいスタイルとはマッチングがいい。クルマのデザインは建物などと一緒で、街の風景を形成する一つの要素だ。川越のような歴史ある街並みには、いかつい顔のミニバンは似合わない。赤いカングーなんて、あまりに目立つ存在なのだが、小江戸の風景に溶け込んでいる。
カングーの生まれ故郷であるフランスを訪ねるとわかるのだが、パリはもちろんあらゆる街が歴史的な建物や街並みにあふれている。カングーはそうした環境のなかで生まれている。そしてカングーは郵便局をはじめ多くの配送業者が使うクルマだ。街中に多くのカングーがいても、風景を壊すようなことがないように考えられているのだろう。いや、考えられるというよりも、そうした気持ちが自然にデザインに表れているのだろう。
小江戸川越も古い街並みなので、脇道に入るととたんに道幅が狭くなるが、こうした場所でも取り回しに困ることはない。カングーはサイドラインがまっすぐなので、道のぎりぎりまで寄せるときも不安感がない。一般道の走りでは低速域のトルクがしっかりとしているので、力強い発進がいい。荷物が多くなり、車重が増えても安心なタイプのトルクフルなエンジンである。
小江戸川越を楽しんだあとは、北関東道経由で東北自動車道に入り宇都宮を目指す。このコースは最高速度が120km/hに緩和されている部分がある。ACCを使って80km/hから120km/hを10km/h刻みで試した。どの速度でも正確に速度を維持し、走り続ける。もちろん先行車がいるときは先行車の追従を行う。レーンセンタリングアシストをオンにすれば、車線中央を走ってくれるので高速道路ではとくに楽だ。
レーンセンタリングは非常に難しい制御で、反応がよすぎるとクルマがピョコピョコと過敏な動きで走りに落ち着きがなくなる。一方、反応が悪いと車線からはみ出してしまう。カングーのレーンセンタリングアシストは、ちょうどいいレベルの反応具合で、安心してドライブできるものとなっている。先行車に追いついて、追い越しをするべくウインカーレバーを操作すると、レーンセンタリングアシストが解除されると同時に加速が開始される。ウインカーが3秒点滅してから右にステアリングを切って車線変更をすると、すでに加速されているだけに、スムーズな追い越しが可能だ。
高速道路を走っていると、その安定性の高さにも感心させられる。カングーを正面から、そして真横から見ると、けっして空力性能が優れたようなフォルムには見えない。でありながら、高速安定性は高いのである。これは欧州車らしい性能。高速道路でのペースが日本よりも速い欧州車は、前面投影面積が広いようなクルマであっても高い高速安定性を誇るモデルは多い。
高速走行時の動力性能も気持ちがいい。ディーゼルエンジンは1回1回の燃焼で得られるトルクが大きいため、エンジンを高回転まで回さずとも力強い走りができる。また、エンジン回転数の上下によるトルク変動も小さいので、一定速で走るのが得意なのだ。カングーはこのディーゼルエンジンの性格が上手に現れている印象である。
もともとが商用モデルではあるが、乗り心地も十分に確保されている。中低速では段差を超えた際に、揺り返しが残ることがあるが、やはり速度が上がると快適性はアップ。落ち着いた走りとなる。以前の試乗では後席にも乗っているが、後席の乗り心地も十分に確保されていた。
カングーのラゲッジルームは定員乗車時で775リットル、2名乗車時は2800リットルという大容量。キャンプ道具からウォーターアクティビティグッズ、ウインタースポーツアイテムまで、なんでも来い! の超絶ビッグスペースを誇るラゲッジルームなので小旅行程度の荷物であれば何も考えずに積み込むことが出来るのだ。
都内~川越~宇都宮と往復300kmを超えるドライブはじつに快適に過ごせた。300kmではまだまだ足りたいほどの余裕のドライブで、もっと足を伸ばしたロングドライブを楽しみたいという気持ちに駆られた。ちなみに今回の総合燃費は燃費計によれば5.7L/100km。これを日本でよく使われる単位に直すと17.9km/Lとなる。燃費走行ではなくペースは速め、エアコンは全開という状況では十分に立派な燃費。この数値は、今の時代おもてなしの気持ちにあふれている。