エンジン冷却水を循環させているウォーターポンプ。エンジン水温を上げることも下げることもできる重要なパーツ。それでいて意外と軽視されがち。改めてウォーターポンプについて見直したい。
ウォーターポンプはエンジン冷却水を循環させているポンプ。エンジンのクランクシャフトに付けられたプーリーでベルトを回し、ウォーターポンプやオルタネーターなどを駆動している。
◆エンジン内部に冷却水を送る
エンジンの回転数に合わせてウォーターポンプは回転してエンジン内部に冷却水を送る役割を持っている。水冷エンジンはウォーターポンプが回り続けているからこそ壊れずに走れる。
ファンベルトと呼ばれるベルトがウォーターポンプやオルタネーターを駆動しているが、このファンベルトが切れてしまうことがある。そうなると大変。エンジン内部の冷却水が循環しなくなることで一瞬にして燃焼室近くの冷却水が沸騰。すぐにエンジンはオーバーヒートして壊れてしまう。
筆者も日産『180SX』でファンベルトが切れたときにはわずか数十秒のうちに水温計は120度を軽く振り切っていた。エンジンを壊さないためにウォーターポンプは重要な存在なのだ。
◆問題となるのはエンジン回転数
サーキット走行などスポーツ走行で問題となるのはそのエンジン回転数。サーキットでは常に高回転を多用する。それだけ素早く冷却水を循環させることで熱交換を促すのは良いのだが、過度にウォーターポンプが速く回ると冷却水が泡立つキャビテーションが起きてしまう。
冷却水は泡立ってしまうと空気を含んでエンジン内部を冷やせなくなってしまう。それによってエンジンがダメージを受けてしまうのだ。
アイドリングでも十分に冷却水を循環させているが、その10倍を超えるような高回転まで回るとウォーターポンプが速く回りすぎてしまってキャビテーションを起こしかねないのだ。
とはいえ、その回転数はクランクシャフトの回転数に比例しているのでどうにもならないのである。
そこで生まれたのが大径プーリーだ。これはウォーターポンプにつけられるプーリーを大きなものにすることで回転数を落とし、高回転でのキャビテーションを防ごうという狙いのもの。しかし、低回転でも回転数が落ちる。なので、街乗りで使うと渋滞時などにオーバーヒートを招くこともある。一長一短のパーツなのだ。余程サーキットだけしか走らないという車両以外にはおすすめできないパーツ。
◆近年増えてきている電動ウォーターポンプ
そこで近年増えてきているのが電動ウォーターポンプだ。これはウォーターポンプをベルト駆動ではなく、モーターで駆動する。実はトヨタ『プリウス』では純正で使われている仕組み。モーターで任意の回転数で冷却水を循環できるのでキャビテーションが起きにくい。常に一定の速さで回すことができる。また、クランクシャフトへの抵抗も減るので加速性能が良くなり、燃費の向上にも効果があるという。
アフターパーツでも近年ウォーターポンプの電動化が増えてきている。メリットはやはり抵抗の軽減もあるが、一定速度で冷却水を循環させられるので水温が上がりにくい。これまでサーキットで水温の高さに悩まされていた車両が嘘のように水温が下がったという話もある。それでいて大径プーリーのように街乗りでの弊害もないのだ。
不安があるとすれば、モーターを追加して駆動しているのでその電源が不安定になるとか、ヒューズが切れた場合にウォーターポンプが止まってしまうことがあること。そうなったときには水温でしかその情報を知りえないので、水温計の追加は必須。もし、トラブルでウォーターポンプが止まってしまった場合にはすみやかにエンジンを止められるような仕組みが必要になることだ。
◆10万kmで交換
ウォーターポンプの羽は徐々に摩耗していく。純正品でも10万kmも使うと羽が薄くなり、水を送り出す能力が落ちてくる。また、その羽根の軸から水漏れしたり、軸が折れたりすることもある。通常はタイミングベルトと同時に10万kmごとには交換が必須と言われる。
タイミングベルトがなくチェーンの車種もあるが、ウォーターポンプの交換は必須なので、ある程度距離を走ったり時間が経過したら交換しておきたい。
交換には冷却水の入れ替えが必須で工賃やクーラント代は掛かるが、ウォーターポンプ自体は1万円以下のことが多い。エンジンを壊さないためのかなめとなる部品なので忘れずに交換しておきたい。