第4回 丹波ヘリテージ研修会…クラシックカー整備の手仕事とプロの絆を繋ぐ | CAR CARE PLUS

第4回 丹波ヘリテージ研修会…クラシックカー整備の手仕事とプロの絆を繋ぐ

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第4回 丹波ヘリテージ研修会…クラシックカー整備の手仕事とプロの絆を繋ぐ
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現代の自動車が電子化・EV化へと急速に進化するなか、整備技術は診断機(テスター)中心へと移行している。一方で、趣味性の高い旧車・クラシックカーの維持には、テスターでは読み解けない、伝統的で高度な「手仕事」の技術が不可欠である。

去る11月9日(日)、「英国車、欧州車を中心にクルマを愛する方をサポートするスペシャルショップ」として知られるブリティッシュモータース(兵庫県丹波市:代表 澤田拓治)にて、「第4回 丹波ヘリテージ研修会(Tamba Heritage Training Day)」が開催された。この研修会は、旧車の整備に不可欠な「勘と経験」に基づくアナログな技術の継承に焦点を当てている。今回のテーマは「ウェーバーキャブレーターの構造・セッティング」というニッチな内容にもかかわらず、西日本全域から約30名のメカニックが休日を返上し、熱心に技術を学び、交流を深めるために集結した。この異例の熱気は、旧車のアフターマーケットを支えるプロフェッショナルたちの間で、技術交流の場がいかに求められているかを物語っている。

ウェーバーキャブは、イタリアの部品メーカー「ウェーバー社」が製造したキャブレターの通称。高性能キャブレターとして多くのスポーツカーやレーシングカーに採用
午前中はキャブレターの構造と各部品の働きについて座学が行われ、午後は実車へのセッティングという実践的な内容で終日を過ごした

技術継承とプロ限定の「ホットライン」構築

研修会を主催するブリティッシュモータース代表の澤田拓治氏は、英国高級車ジャガーを専門に販売していた父の背中を見て育ち、自身も長年、新旧の英国車・欧州車を中心に扱うメカニックとして現場に立ってきた。澤田氏がこの「丹波ヘリテージ研修会」を続ける意義は多岐にわたるが、最大の目的は「次世代への技術の継承」と「プロ同士のネットワーク(親睦会)の構築」である。

澤田氏は、新しいものが最善とされる日本の気風に対し、再生技術が産業として根付いているイギリスの現状に注目し、日本でも先輩から後輩へと指導するシステムが必要だと感じている。クラシックカーは「人の手入れに対して応えてくれる」ものであり、一筋縄ではいかないメンテナンスにこそやりがいがあると感じているのだ。

この研修会が単なる技術講習で終わらないのは、メカニック同士がレベルの高い情報交換をするための貴重な機会だからである。研修会後にBBQを行うことで、参加者同士の積極的な情報交流を促し「困ったときに相談できる仲間作り」をサポートする。澤田氏は、特に経験不足により不安を感じる若手メカニックが、自信を持って古い車の整備を引き受けるためのホットラインとして機能することを見越している。

参加者はベテランから若手まで、幅広い層のメカニックが集い親交を深める

技術継承プラットフォームの創出

澤田氏は、研修会の継続的な開催に意欲を見せており、参加者のアンケート結果に基づき、「3~4ヶ月に1回」程度のペースで開催することが望ましいと考えている。第1回はSUキャブレター、第2回はトラブルシューティング、第3回はオートマミッションと、毎回テーマを変えて開催されており、今回のウェーバーキャブレターに続き、今後は再びアンケート結果を基にテーマを決めていく方針である。

この研修会の最終的な展望は、ブリティッシュモータース一社による技術継承に留まらない。澤田氏は、参加したベテラン整備士たちに対し、「それぞれの地域で自らも研修会を開いてほしい」と呼びかけている。参加者が得た知識や構築したネットワークを各地に持ち帰り、教える立場になることで、結果として「一つの技術継承プラットフォームができあがればいい」と大きな目標を掲げているのだ。毎回新しい参加者が増えており、旧車整備への関心は着実に広がりを見せている。

エンジンアナライザーを使用してセッティングをする方法を実演

アフターマーケットを支えるアナログな絆

丹波の地で生まれたこの研修会は、単なる知識の伝達の場ではなく、全国のプロフェッショナルたちが技術的な課題、経営的な課題、そして何よりも「困った時の助け合い」を共有するための、血の通ったコミュニティとして機能し始めている。互いに情報や部品の調達方法を共有し合うことで、日本の旧車整備業界全体の安心感と品質を支えていると言えるだろう。澤田氏の描く「技術継承ブーム」が実現すれば、自動車オーナーにとって、愛するクラシックカーを安心して乗り続けられる環境が、さらに確固たるものになるに違いない。

実車を使用した研修に参加者は食い入るように見入っていた

《カーケアプラス編集部@市川直哉》

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