デントリペア業界に黒船襲来!PDRは職人技からAI精度へ | CAR CARE PLUS

デントリペア業界に黒船襲来!PDRは職人技からAI精度へ

ニュース ビジネス
デントリペア業界に黒船襲来!PDRは職人技からAI精度へ
デントリペア業界に黒船襲来!PDRは職人技からAI精度へ 全 7 枚 拡大写真

近年、自動車業界で急速に進む技術革新と、業界の信頼を揺るがす問題を受け、車の整備・修理における「エビデンス」の重要性が飛躍的に高まっている。単なる記録としてではなく、愛車の「安全の保証」と修理業界への「信頼の証明」という、極めて重要な役割を担うようになったエビデンスが、様々な領域に波及している現実がある。また、最新のAI技術が修理の常識をどう変えようとしているのかを深掘りする。

「エビデンス」が求められる二つの理由

1. ASVの普及と「安全の保証」
衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全技術(ADAS)を搭載した先進安全自動車(ASV)の普及は、車の整備の難易度を格段に引き上げた。わずかな車体の歪みやセンサーのズレが、これらの高度な安全機能の誤作動につながる可能性があるためである。

すでに車体整備の現場では、四輪アライメントテスターや三次元計測器、故障診断機といった専門機材の導入が進み、修理作業が正確に行われたことを客観的なデータで証明することが必須となった。車体整備におけるエビデンスは、ASVの安全性を保証するための不可欠な要素となっている。

2. 業界の信頼回復と「透明性の証明」
また、2023年に明らかになった大手中古車販売店による不適切な保険金請求問題は、修理作業の透明性の欠如が不正や過剰請求を招く温床となることを示し、自動車修理業界全体の信頼を大きく揺るがした。

これを受け、国土交通省は「車体整備の消費者に対する透明性確保に向けたガイドライン」をまとめ、作業の適正性を客観的に証明するよう強く推進している。エビデンスは、修理工場が適正な作業を行ったことを証明し、ユーザーに安心と信頼を提供する基盤となっている。


AIがもたらすデントリペアの進化

エビデンスの重要性が増す中、これまで職人の「勘と技」に頼ってきた修理分野にも革新の波が押し寄せている。その一つがペイントレスデントリペア(PDR)である。

PDRは、塗装を剥がさず、パテも使わずに特殊工具で車の小さな凹みを直す高度な技術である。しかし、その仕上がりを職人の技術レベルに依存するため、品質にばらつきが生じやすく、大規模な産業としての普及が難しいという課題があった。

ドイツ発AIスキャナーが変えるPDRの常識

この課題を解決するため、ドイツに本社を置くデントリペア専門会社のDRS Automotive Solutions Japan(DRSジャパン)が、AIを駆使したサービスで日本市場に参入した。

DRSが導入したAIスキャナーは、以下のようにPDRの常識を変えている。

  • 損傷の客観的な記録: 人の目では見逃しがちな凹みも正確に記録し、損傷マッピングを迅速に行う。

  • 修理品質の数値化: 修理完了後、再びスキャンを行い、凹みが完全に修正されたことを証明する。これにより、職人による品質のばらつきが解消される。

  • 透明性の向上と時間短縮: スキャンデータは修理状況と合わせて保険会社とリアルタイムで共有され、保険協定(修理費用の合意)にかかる期間を大幅に短縮し、ユーザーの待ち時間を減らす。

この「損傷がなくなった」という電子的なエビデンスこそが、自動車メーカーや保険会社がPDRを導入しやすくする最大の要因であり、業界全体で均一な高品質サービスを提供するための鍵となる。

雹害増加への対応と今後の展望

DRSジャパンが日本市場に本格参入した背景には、雹害(ひょうがい)の増加がある。一度に大量の車が被害を受ける雹害修理では、仕上がりの均一性とスピードが必須であり、AI技術はその最も効率的な解決策として期待されている。2025年には、全国で4,000台以上の雹害車両を復旧し、環境負荷の軽減やコスト・納期の短縮、車両価値の維持に貢献している。DRSジャパンは今後、ドイツやドバイで展開しているスマートリペア(小傷直し)の分野にも視野を広げると言い、来年2月の国際オートアフターマーケットEXPOにはスマートリペア用のスキャナーの展示を検討していると話す。自動車のアフターマーケット業界は、AIとエビデンスを駆使した革新によって、より透明性が高く、高品質なサービスへと進化していくことが予想される。

自動車ユーザーにとっても、整備工場が提供する「エビデンス」は、愛車の安全と適正な修理価格を保証する「安心の証明書」となるであろう。

《カーケアプラス編集部@市川直哉》

この記事の写真

/

特集