【土井正己のMove the World】ドイツ車はディーゼルを捨てるのか
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もちろん、これで規制が決定するわけではなく、今後いくつもの決議を経て、最終的にはEUとしての決議が必要となる。ドイツの自動車産業及び内燃機関産業の占める経済ウェート、雇用規模などを考えるとインパクトが大きく、「現実的な話ではない」というのが、同国運輸大臣などの意見である。
◆政府もメーカーも電気自動車へ
しかし、こうした政治の動きは、ドイツだけでなくオランダやノルウェーでも見られ、全く非現実的と言えない状況にある。また、先般のパリ・モーターショーでは、VWが電気自動車コンセプトカー『I.D.』を発表した。一回の充電で400kmから600km の走行が可能なコンパクト・モデルで、2020年に発売されるという。
VWは、ディーゼルでの不祥事から、一挙に電気自動車にシフトしており、2025年までに30モデルの電気自動車(含むPHV)を投入することも発表している。自動車メーカーと政府が同期して動くというのは、いかにもドイツらしい。しかし、つい最近まで総合力でハイブリッドや電気自動車より勝るとしていたディーゼルをドイツは捨て、本当に電気自動車に行ってしまうのだろうか。
◆自動車のオール電化は困難
全ての車を電気自動車にすることに、どこまでの意味があるのかとの疑問もある。確かに、電気自動車は排ガスを出さず空気はクリーンになるが、ハイブリッドカーが多い東京の空気も十分クリーンだ。地球温暖化ガス(CO2など)の低減になるというが、電気はどこで作るのであろうか。
ドイツは東日本大震災以来、原発は2022年までに廃止としており、全ての車が電気となった場合は、大量の発電所が必要となる。火力発電であれば、結局ガソリン車なみ、もしくはそれ以上のCO2を排出することになる(送電・蓄電ロスが発生するため)。太陽光発電などを使う手があるが、それで賄える量ではないだろう。
◆新興国にはディーゼルも必要
もう一つの問題は、新興国である。世界でモータリゼーションを経験した地域は、人口で言えば20億人程度であり、残りの50億人程度は、これから自動車の時代を迎える。これらの地域において電気自動車というのは、インフラの問題もあり、ありえないだろう。「エネルギー効率が良く、環境に優しく、低コスト」の車が望まれるのである。
そう考えるとディーゼルは、「エネルギー効率が良く、環境に優しく、低コスト」をほぼ満たしており、必要な技術と言えると思う。ここまで時間をかけて進化させてきたディーゼルの技術を本当に捨てていいのだろうか。残り50億人のマーケットも考え、冷静な判断が望まれる。
<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。
《土井 正己》
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