【インタビュー】世界最古の公道レースにかける男…山中正之
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山中がTTを初めて目の当たりにしたのは、観客として訪れた2014年、46歳の時だ。「レースを見たこともないのに、願うだけで実現すると思ってるのか」と仲間に一喝され、それならばとレンタカーに寝泊まりしながらチャンスを待ち、主催者にエントリーを直談判した。
山中は店頭に「自転車のパンク直します」という看板を掲げるバイクショップを北区で経営する。ショップはけして派手ではないが、国内レース歴は長い。今年の鈴鹿8時間耐久ロードレースでも「QCT明和レーシング」から出場。他の若手レーサーを引っ張り、201周29位という結果を残した。8耐参戦は1994年から。
しかし、8耐出場通算20回を超えるベテラン・ライダーに対するTT主催者からの返答はそっけなかった。「出場経験のない選手はエントリーできない。まずはマンクスGPを走れ。その結果で判断する」。
マンクスは、同じマン島のマウンテン・コースを走る公道レースだが、コース未経験者やアマチュア・ライダーを対象とする色合いが濃い。開催は毎年8月末で、日本で8耐を7月末に走り終えると、すぐに現地に向かうことになる。
「2015年のマンクスGPに出場し、ニューカマーズ(初参戦)クラスで2位になった。で、オーガナイザーのところに行ってみると『よくがんばった。ただ、まだ1回しか出場していないし、TTに出場したいなら、TTと同じマシンでもう1回出てみろ』と言われて、2016年、もう1度、出場した」
山中はホンダ「CBR600」で、750cc未満のジュニア、1000cc未満のセニアの2クラスに参戦。26位で完走を果たした。それでも、TTへの扉は簡単には開かなかった。
「気持ちは分かったが、即答できない」。帰国後に送られてきた待望のメールの内容は「出場確約はできないが申請を許可する。ただし、エントリー多数の場合は出場が見送られるかもしれない」。2年かけて獲得した出場資格は留保付き。
さらに、エントリー決定通知が送られてくる3月を待つと、レース開催までにバイクが現地に届かないという無理難題が待ち受けていた。TTは毎年5月最終週から2週間。バイクは遅くとも2月末には、積み込みを終えていなければならなかった。
ここで驚くべきは、山中の前向き志向だ。「それまではエントリーできないということだったので、大きな前進だった。出られると信じてたから、出るつもりで準備した」。
そして、2017年、念願のTT出場。周りはほとんど日本製のバイクだったが、日本人のライダーはただ1人、山中だけだった。そして、スーパースポーツクラス参戦。出走台数81台中49位、ベストラップ19分40秒94、平均スピード115.016mph(185.100kmh)の記録を打ち立てた。
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