【岩貞るみこの人道車医】「電子連結トラック」は本当に現実的な手段なのか?
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2017年10月16日に、福山通運が車両長が25mにもなる連結トラックの実験走行を開始した。物流業界の人手不足、年間1億個の勢いで増え続ける荷物取扱量の増加への対応策のひとつとして行われているものだ。
すでに昨年から、日本梱包、ヤマト運輸により、国交省が定める特車許可基準の上限である車両長21mの連結トラックでは行われてきたけれど、今回は25mまで緩和できるかを含めての実験走行である。実験場所は新東名高速道路。長い直線が続く、走りやすい道である。とはいえ、2車線区間も多く、「連結トラックを追い越すために、ほかのトラックが追い越し車線をじわじわと走ったら、大変な迷惑になるのでは!」という声が多く寄せられている。
全長25m。新幹線N700系の中間車両(先頭車両は27mちょいあるらしい)ほどの長さ。私的には25mプールのほうが具体的なイメージがしやすいけれど、ともあれ、そうとうな長さである。
しかし、さらにこの倍以上ある連結トラックが実証実験を始めようとしている。「電子連結」トラックだ。
その名のとおり、通信で連結された全長10mのトラックを4台、4mの車間でつなぎ合わせる。電卓をたたくと、全車両長は52mだ。50mプールより長い。ちなみに私は50mの距離を泳ぐことができない。関係ないけれど(本当に関係ないな)。でも、それを思うと、50mはとんでもなく長く息苦しい長さであることは想像できる。
自動運転の流れに乗り、開発が進められてきた電子連結トラック。日本の技術力はすばらしく、現在、しっかりと車間を保ったまま走行&車線変更をすることはもちろん、先頭車両が急制動した場合も間髪おかずに通信で後続の3台に情報が伝えられ、それぞれのトラックが急制動を開始する。見事なまでに車間をほぼ保ったまま停止することができ、映像を見せてもらったときは、「うおお!」と声が出たほどだ。
技術はできた。すばらしい。しかし問題は、これを交通社会のなかで走らせることができるかどうかだ。自動運転を語る上でもっとも大切で、高いハードルの部分である。
◆そもそも電子連結する必要はあるのか?
冒頭に書いた25mの機械的な連結バスでさえ「トラック同士の追い越し渋滞」が懸念されているというのに、52mの長さになったらどんなことになってしまうのか。これが走行車線(一番左車線)を走っていたら、まわりのクルマはうっかりしていると、ICやSAで本線から出ようと思っても出られない。というか、逆にICやSAから入るときに連結トラックの先頭とお見合い状態になったら、合流車線上で一時停止は免れない。
いや、それよりも、こちらが本線走行中に、52mのものが本線上にぞろぞろと入ってきたら、パニックになるだろう。正直いって、周囲は大迷惑である。自動運転の目的は、事故の削減と二酸化炭素排出量の削減だ。電子連結されたトラックは、車間距離4mでスリップストリームに入った状態ゆえに燃費はいいだろうけれど、まわりで事故&渋滞&燃費悪化が起きると思われる。いや、このままだと絶対に起きるってば。
さらに、電子連結トラックそのものにも課題がある。
現在、電子連結トラックは、2~4台めのトラックにドライバーが乗るか乗らないかの議論が続いている。人手不足を解消するなら無人だけれど、この場合、連結をどこで行い、高速道路上にどうやって入るかを考えたとき、さまざまな課題が噴出する。では、すべてのトラックにドライバーが乗れば、高速道路までは簡単に入ってくることができ、SAなどで連結することが可能だけれど、その後、ドライバーは車間距離4mで連結されることになる。このまま80km/hで走られたら、ものすごく怖いはずだ。急制動かけたときなんて、胃がめくれあがるだろうし、もしもそのタイミングで通信が途絶したら、キャビン、つぶれるし。通信の途絶は在りうる話で、これを念頭に考えれば、後続の各トラックにACCと被害軽減ブレーキの装着が必須だ。被害軽減ブレーキで制動できる車間距離となると、4mはあり得ない。でもそれでは、燃費はよくならないのだ。
最後尾で接触事故があったときに、先頭車両のドライバーは気づけるのか、ドライバーの教育はどうするのか、そもそも、10mトラック×4台で急制動テストをしたのは空荷状態であり、それぞれ荷物の重さも、タイヤの残り溝も違う状態で雨など降れば、4mの車間距離で止まりきるのは無理だと思う。
私はやらないうちに「無理」というのは好きじゃない。でも、電子連結トラックを考えれば考えるほど、無理なんじゃないのという気持ちが強くなる。電子連結する必要あるの? 機械式の連結でいいんじゃないの? というか、がっちり「レベル2」の安全支援システムをつけて、ドライバーをサポートするほうが現実的じゃないの? 電子連結の推進派が今後、どういう解決策を提示してくれるか楽しみである。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。
《岩貞るみこ》
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