【初めての愛車】女の5年ローンでポルシェ 928 S4…岩貞るみこ
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928 S4は、中古です。が、1年ちょい落ちで900万円。当時の私、29歳でありました。いまなら信じられません。なにやっちゃってんだ、私。もっと真剣に人生設計しろよ!と、こうして原稿を書いていても、ぶんなぐってやりたい気分です。ただ、当時はバブルの残り香期。バブルははじけつつあったものの、まだ泡は残っており、日本全国阿波踊り状態です。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らなくっちゃだよねと、購入を決めてしまいました。
もちろん、即金払いができるはずもなく、組みましたよ、5年ローン。当時は「男の5年ローン」といわれ、漢気を見せる証明のように言われていましたが、ええ、女の5年ローンですよ。月々17万7000円ですよ。なにやってんだよ、過去の私! と、もう一度、ぶんなぐってやりたい気分です。ただですね、先ほども書きましたように、みんな阿波踊りです。ついでにそのころの私、実家住まいをしておりまして、家はあるわ、食事は出てくるわ、もちろん駐車場はあるわで(食事を母に作らせて、毎月、家に入れるのは、わずか2万円という体たらくな娘です。いまは猛省して、親孝行させていただいています)、ま、いっかと契約書に判子をついたものです。
ボディカラーはピンク。内装はワインレッド。左ハンドル、燃費はリッター5km。おそろしくバブリーなクルマです。でも、当時29歳のかけだしジャーナリストゆえ、運転の技術も人格も信用されていない時代に左ハンドルの大きな輸入車の広報車両をお借りするにあたり「928に乗っているなら安心ですね」と言われたこともありまして、少なからず信用を得るための材料にはなっていたのかなとは思っています。
さてリッター5kmしか走らない928S。これをばっかみたいに乗り回しました。二日とあかず満タンにしていたので、そのたびに万札がどんどん飛んでいき(たしかタンクは86L)、ガソリンスタンドにとっては上客であったろうと推測されます。しかし、当時の私、バブルを象徴するかのようなロングのソバージュヘアに、まだめずらしかった携帯電話をふりかざし(ショルダーフォンではありません)、まわりからは「だれだ、このくそ女」と、さげすまされていたのではと思われます。というか、私がいま、このテの女性を見かけたら、まちがいなくそう思うと思うので。いや、本当にいけすかない自然人(法律用語で人間のことをこう呼ぶのだと、自動運転システムを語る弁護士先生に教えていただきました)だったと思います。
清水の舞台から飛び降りてローンを組んだ928 S4。しかしながら、このクルマを買ったことで、私の人生観は大きく変わりました。「できそうなことは、できる」。そう思えるようになったからです。できるかな、できないかなと迷うなら、やってみると、あら不思議、できちゃうもんだなと、このクルマを買って、本当に思いました。なので、「んじゃ、イタリアにも住めちゃうかも?」と、ふっと思いつき、そこから2年間のイタリア生活に至ったわけです。もちろん資金は928 S4を売ってつくりました。
私の人生において、クルマの存在はとてつもなく大きいのですが、そのなかでも928 S4に出会えたことは勲章のように輝いています。でも、もう、月々17万7000円のローンは組めないですね。若いってすばらしいなー。
【初めてのマイカー】女の5年ローンでポルシェ 928 S4…岩貞るみこ
《岩貞るみこ》
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