いまのクルマはセンサーの塊! 本当に信頼できるプロショップを選ばないと危険…車体整備のプロに整備の現状を聞く!
特集記事
インタビュー
整備の現状は、どうなっているのだろう。自動運転技術の普及とともに高度化する整備について、業界全体に警鐘を鳴らしているBSサミット事業協同組合の磯部君男理事長に話を伺った。
「衝突被害軽減ブレーキのセンサーは、取り付けの角度がわずか1.5度違っていれば、目標とする前方80m先の対象物検知範囲は2mずれます」
聞いた瞬間、私の頭のなかに浮かんだのは、小学生時代に使った分度器だ。直角で90度。1.5度なんて誤差の範囲ではないか(ずぼらな性格ですいません)。でも、そのわずか1.5度違えば2mもずれるという。正確な性能は期待できないどころか、制動すべきところで止まらないこともあり得るだろう。
◆センサーやカメラの『装着角度』を誰がどう確保するのか
国土交通省では車検の項目のなかに、こうした衝突被害軽減ブレーキなども盛り込むことを決めたけれど、車検と車検のあいだはどうなる? 車両をぶつければバンパー修理が発生する。ステレオカメラがついているフロントウィンドーだって飛び石でヒビが入れば交換だ。装着されているセンサーやカメラの『装着角度』、つまり正確に作動するかどうかは、誰がどう確保するのだろう?
磯部理事長によると、スキャンツールと呼ばれる装置を使って目標とする範囲を正しく狙えているかを計測するのだが、そのとき、きちんとした手順をふむ必要があるという。
(1)床が水平であること(そりゃそうだよね、ナナメっていたらダメだもの)
(2)タイヤの空気圧が指定通りに入っていること(片輪だけが抜けていたら、それこそ車体がナナメになるわけだし)
(3)トランクの荷物を出すこと(クルマの中には乗車人数に応じてヘッドライトの角度を調整する機能がついているほど、後ろが重いとヘッドライトの照射範囲は変わる。それはつまり、センサーも同じこと)
(4)スペースを確保すること(広い場所でないと、スキャンツールが正しく使えない)
全国に9万件以上ある整備工場のすべてが、果たして(1)~(4)の手順をちゃんと踏めるのだろうか。特に、(1)と(4)に関しては、物理的な問題だってあるだろう。そもそもスキャンツール自体が数千万円という高額な機械だ。整備工場の全部が購入できるわけではない。それでも整備工場の人に、「大丈夫、ちゃんとやっといたから!」と言われれば、ユーザーは『どうやったか=スキャンツールを使ったか。さらに正しく使ったかどうか』まではわからない。じゃあ、ディーラーに出せばいいと言われても、地方都市に行けばディーラーがないところだってある。地域に密着した整備工場に頼らざるを得ないのだ。
◆整備業界が自動運転技術の性能を保つ
ここまで聞いて不安でいっぱいの顔をしていたら、磯部理事長はもっと怖い話をしてきた。
「最近のクルマは、一か所で受けた衝撃をフレーム全体で吸収する作りになっています。つまり、前面衝突であっても車両の後方にゆがみが出ます。ブラインドスポットモニター(車線変更しようとしたとき、となりに車両がいないかチェックしてくれる)のモニターは、リアバンパーの中に装着されているのですが、前面衝突=前方だけ修理、では、モニター角度がずれたままになってしまいます」
なんと! 車線変更は、今後、自動運転が実用化するための大切なポイントではないか。政府は高速道路上で無人の隊列トラックを走らせることにやっきになっているけれど(私はいろんな意味で、実用化は無理だと思っているが)隊列トラックのブラインドスポットモニターの角度がずれていて、いきなり隊列が車線変更してきたら、めっちゃ怖いやーん! いや、隊列トラックじゃなくたって、自動運転じゃなくたって、隣のクルマがいきなり車線変更してきたらすごく怖いんですけれど。
自動運転技術が普及して、衝突被害軽減ブレーキ、ブラインドスポットモニター、レーンキープアシスト……と、どんどん採用されているけれど、それら性能を保つのは整備業界である。整備業界の質の確立を期待するとともに、我々ユーザーは、金額の安さだけに惑わされるのではなく、信頼できる腕のある整備会社を選んでいく知恵をつける必要がある。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、最近は ノンフィクション作家として子供たちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。9月よりコラム『岩貞るみこの人道車医』を連載。
今や自動車はセンサーの塊…ちょっとぶつけて修理、それって大丈夫?【岩貞るみこの人道車医】
《岩貞るみこ》
この記事の写真
/