その中で、整備工場の作業に付加価値を与える機器を2つ紹介したい。スキャンツール「MTG5000」とサーマルイメージャー「EETHJP300」だ。紹介してくれたのはスナップオン・ツールズ ダイアグノスティック部 マネージャー 並木健彦氏。
高級輸入車にも対応するスキャンツール
MTG5000は、2018年3月に発売された新製品。ハンディタイプのスキャンツールで、OBDコネクタに接続するだけで、クルマの状態確認だけでなく、各システムの診断にも対応する。ここまでは他社のスキャンツールでもある機能だ。
「例えばADAS車両のエーミング(校正)にも対応するなど、当然最近の車両整備にも使えますが、特徴として輸入車を含めた対応車種の多さがあります。対応するのは、国産23メーカー、欧州7メーカー、スーパーカーで4メーカー、トラックも4メーカー。欧州車の場合、ディーラーでも設定項目によっては対応が難しかったり、外国製のツールを入手する必要があったりしますが、日本語メニューで欧州輸入車の各種カスタマイズが可能です」(並木氏:以下同)。
BMWなど設定が特殊で対応できないツールがある中、MTG5000はオーナーのニーズに合わせてカスタマイズができるという。カスタマイズできる項目は、7インチのディスプレイに表示される。デイライト点灯時の明るさを調整したいという要望があれば、このツールで設定可能だ。他にもナビのオープニンググラフィック(アニメーション)を切り替えるなど、ディーラーではなかなか対応してくれないようなカスタマイズに応じることができる。
すべての操作がPC接続不要でできる
MTG5000は、ハンディタイプのツールだが、本体にはWi-Fiが内蔵されていて、ファームウェアのアップデートもWi-Fi経由で簡単にできる。また、顧客ごとの愛車診断管理機能(ソフトウェア)も搭載されている。
「本体はスタンドアローンで使えます。以前にタブレットやスマホで使えるアプリ形式の製品を出したのですが、PCとの接続が面倒だったのか現場ではあまり評価されませんでした。すべての操作が本体だけでできるのも本機の特徴ですね。キヤノンやエプソンのプリンターもPCを使わず接続できます。診断結果はユーザーごとに本体だけで管理・保存可能。なので、整備記録も手元で確認できたり、愛車診断の結果を専用シートに印刷してオーナーにレポートとして渡したりすることもできます。シートには自分の工場の名前なども入れられます」。
PCやスマホなど別の機器が不要というのはうれしい。価格が約35万円と安くないが、MTG5000は発売から半年ほどで、すでに1000台ほど販売実績があるそうだ。現場での評価をうかがわせる。
診断結果を車両ごとに保存できるということは、顧客管理にも使える。PC用の顧客管理ソフトウェア(CRMなど)を用意するコストを考えれば、小規模の整備工場でも高い買い物ではない。国や自治体には、個人事業者や中小企業向けの最新測定器やIT機器の補助金制度もあるはずだ。適用できる制度を探してみるのもいいだろう。(国のスキャンツール補助金は終了)
応用範囲は実は広い温度による故障診断
サーマルイメージャーは、国内の整備工場ではあまりなじみがないかもしれない。空港の検疫所にあるようなサーモグラフィーはテレビなどでよく見るが、自動車整備専用として作られているサーマルイメージャーはスナップオンのみとなり、他メーカーのサーモグラフィーは主に建築関連や電気工事用に作られている。
「アメリカなどでは、割と普通にサーモグラフィーやサーマルイメージャーを使って、整備の時間短縮、不良箇所発見の効率化を行っています。マフラー、エンジン、アクスル、ブレーキ、ラジエータの配管など、温度を見ることで問題個所がすぐにわかることがあります。サーモスタットが動いているか、ラジエータコアで詰まっている領域はどこか、パンクの箇所、配線不良、ヒーターや熱線の断線などもイメージャーをかざすだけですぐに発見できます」。
ハブやデフから異音がするが、場所がピンポイントでわからないとき、べアリングに異常があればそこが発熱する。パンクも空気が抜けているところは温度が低くなる。ブレーキの引きずり、電気抵抗の多いところ、摩擦が多いところなど異常が熱に現れることは意外と多い。
スナップオンならではのトラブル事例集
EETHJP300の特徴は他にもある。測定した画像のスナップショットが撮れることだ。画像は4000枚ほど保存が可能。整備記録として利用したり、オーナーへの説明に活用したりできる。さらに、イメージャーの中には、70ほどのトラブル事例の画像と解説情報も保存されている。部品ごとに検索すると、正常な場合の画像と異常があるときの画像が表示され、考えられる原因や対処方法に関する情報が調べられる。
「サーマルイメージャーの画像による分析や診断は、建築業界などでも広がっています。海外の整備士は、個人でもこのようなツールを所有する人が少なくありません。同じ時間で多くの修理をこなせば、それだけ評価も収入も上がるからで、効率をよくするために購入しているようです。日本は雇用形態や評価システムも異なりますから、一概には言えませんが、日本の整備工場も積極的に温度による故障診断を導入してみてはどうか、と思います」。
この機能は「スナップオンのサーマルイメージャーならではのもの」(並木氏)だ。サーマルイメージャーの画像で温度の高いところ、低いところはわかるが、それがどういうトラブルなのか、なにが原因かわからないこともある。事例画像の検索がトラブルシューティングになり、故障診断と修理の時短につながるのだ。
高品質な工具と精度が高く機能的な測定器で、整備に付加価値を加え、作業の効率化を考えてみてはどうだろうか。
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