友人のスバル「レオーネ」 “月に到達”するほどの走行距離!…嶽宮三郎【平成企画】
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筆者の友人は未(いま)だにスバル『レオーネ』に乗っている。1989年式、つまり平成元年式である。グレードはFFの「マイア」。1600のOHVで馬力はわずか76馬力。現在の走行距離は38万8000kmになる。
聞けば、あちこちから異音が出ているものの、基幹部には大きな故障がなく、エンジンのかかりは良いし、加速もスムーズだという。パーツには困るが、簡単なものなら自作。だめな時はネットで探すか、自動車屋さんに相談する。でも、やっぱり全体的にヤレていてボロい(失礼!)。
それなりの会社に長年勤め、それなりの地位もあるのに何で乗るのか(奥さん用にホンダ『フィット』はある)。「今もまあまあの調子で、毎日の通勤に不具合がないから」とひょうひょうとしている。最高で19km/リットルは走ったことがあるという燃費には驚いた。平均でも15km/リットル前後だとか。当時のカタログスペック(13.8km/リットル)を優に超えている……。
◆意欲作が一斉にデビューした平成元年
平成元年といえば、バブル経済の絶頂期。R32型の日産『スカイラインGT-R』や、ユーノス(当時)『ロードスター』などといった、後に名車となる意欲作が一斉にデビューした年だ。各メーカーはイケイケだった。翌年には日本車初のスーパーカー、ホンダ『NSX』も登場している。
筆者も仕事でそれらを含めいろんな車に乗った。同じく元年にデビューしたスバル『レガシィ』にも熱くなったものだ。それまでの野暮(やぼ)ったかったレオーネを一新、ボクサーエンジンはツインカム(正確には4カム)化し、最強バージョンの「RS」などはターボを搭載して220馬力をたたき出した。胸のすくような加速と、よく曲がるようになったハンドリング。一方ぼろくそ悪い燃費なんて、そのころは余り考えたこともなかった。そんな刺激的な車が多く、各車それぞれに個性を競い合っていた。
それから間もなくのバブル崩壊、近年のリーマンショックなど、平成の世は自動車業界も例外なく荒波にもまれてきた。そして今や世界的な電動化シフトや自動運転の実用化へと急進中だ。
◆クラシックカーや旧車のイベントが増えた
一方でここ数年、クラシックカーや旧車のイベントが多くなってきた。月1で行うような定例のイベントもあるし、SNSなどでつながりあって同好の士たちが「ミーティング」を盛んに行っている。最近では先に挙げた平成初期の車たちの集まりも増えている。定義ははっきりしないが、もう20~30年も前の車なら“旧車”でよいというわけだ。
イベントに参加する“平成車”のオーナーは、加齢により旧車を降りる人があるものの、20代や30代の若手が多くなった印象。父親が乗っていたのと同じ車に乗りたかった、子供のころにあこがれていた車が手ごろな値段で出ていた、当時の車は個性があって面白い、今の車はつまらない……。現場で取材しているとそんな意見をよく聞く。要約すれば、ハイブリッドだ(もう古いか)、EVだ、自動運転だといっても、はっきり言ってつまらないということである。まあ旧車のイベントに来てる人たちだからそんな意見が多いのは分かるのだが。
振り返って、自分の30年は……。やれターボだ、ツインカムだ、4WDだ、FRだ、などと振り回されて峠に出かけたり、ジムカーナをかじったりしながらの、若気の至りが少々あった。ボンネットを開け、ジャッキアップし、とにかく車をイジっていた。それが楽しかった。
そしてオジサンの熟成化が進み、平成の終盤は愛車をイジる回数が減ってきた。ショックやブレーキパッド、マフラーの交換くらい平気でやっていたものだが、寄る年波で面倒くさくなってきたのだ。幸運にも近くに自動車工場の腕利きのオヤジさんと巡り合い、主治医となってもらっている。実は、今の筆者の車は平成4年式のレオーネ。友人にあげた後、4駆の中古を手に入れたのだ。パートタイムだから、うっかり4駆のまま大きくハンドルを切って車庫入れなどすると、ググっと車が震えて止まってしまうアレ。
でも、そんなヘマはもうしない。非力でも軽いから結構よく走ってくれる。最近、主治医にやっと探した社外(純正なんてもうない)のマフラーを交換してもらった。その気持ち良いこと。後付けのタコメーター読み2000回転でもポロポロと軽快なボクサー音が聞こえてくる。この車で十分、というかこれが良い。登山口までの林道やスキー場へは得意中の得意。中央道の談合坂の長い登りなどはきついけど、それで構わない。
◆目標は月まで到達すること
車趣味は、こんな風に1周して戻ってきた感じだ。告白すると、すごい造形をした現代の車は苦手。「今の車は怒ってるみたい」と旧知の元自動車雑誌編集長が最近の車のフロントデザインのことをつぶやいたことがあるが、確かにうなずける。そして電動化へ舵(かじ)が切られる中、あえて「夢の内燃機関」を実用化するマツダよ頑張れ! とも言いたい。
確かに旧車乗りはきついことがある。特に一定年度数を経過した車は税金重課の対象というのにはハラが立つ。いくら燃費が良くても重課となるのは勘弁してほしい。旧車の一部が中古車市場で高騰していることも気になる。
さて、自分で勝手に決めた、今後のとりあえずの目標は月まで到達することだ。地球からの距離は約38万kmだという。現在の走行距離は23万6000kmだから、あと15万km弱。主治医は「大丈夫。全然平気で行けますよ」と言ってくれている。先日長距離移動した時に約17km/リットルの燃費を記録した。これもカタログスペックを余裕で上回り、ひとりほくそ笑んだ。ちなみに実家の平成6年式日産『サニー』は、最近約20km/リットルを記録し、こちらも驚いた。軽くてきびきび走り燃費も良い。故障は少ない。買い替える必要などないのだ。税金が高くなってきたけど。
友人のレオーネは既に月に到達し、折り返しを始めている。筆者はこの30年、自動車に関していえば最初はあちこち手を出したものの、結局元に戻った。これからは自分も彼のようにひょうひょうと乗っていきたい。そして今年もせっせと旧車イベントの取材に出かけることになりそうだ。
一周して戻って来た30年、“月に到達”したスバル レオーネ…嶽宮三郎【平成企画】
《嶽宮 三郎》
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