車内に医療機器?クルマの「ニューノーマル」を考える【岩貞るみこの人道車医】
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新型コロナウイルスで観光需要が激減し、観光バスの利用も減っている。そのせいで、バスの事故の発生も報道も減っているけれど、事故原因が解決しているわけじゃない。
バスメーカーでは、緊急車両停止ボタンなどを実用化したけれど、ドライバーの体調不良をいち早く知ることができればもっと早い時点で対応できるという思いは変わらず、研究は続けられている。もちろん、バスだけじゃない。タクシーもトラックも乗用車も、ドライバーの体調不良は大問題だ。
ドライバーの目の動きや顔の向きなど、カメラで確認する方法が今の主流だが、今後はもっとドライバーの健康状態、つまり、心電図などの生体情報をつかめればもっと高い精度で、さらに発症前にも対応ができるのではないか。そんな視点でも取り組みが進んでいる。ドライバーがいつも触れる、ハンドルやシートに仕込んでおけば、常時、管理ができるというわけだ。
今回の新型コロナウイルスでは、レンタカーの需要も落ち込んだ。特に春先は、未知のウイルスにどう対処すればいいかわからず情報が錯綜したけれど、今は、アルコールや中性洗剤で拭けばよいとわかり、レンタカー会社では、貸出後の徹底的な消毒作業がおこなわれている。
◆標準装備すべきか、否か
私が個人的に利用しているのは、オゾン発生器である。自分のクルマは自分しか運転しないので拭きとり消毒は不要だけれど、誰かを乗せて狭い車内にいることが多く、車内の空気をどうするかという問題があるからだ。
「窓を開けて換気すればよい」
そのとおりだ。私だって、「換気!」と言って、定期的に窓を全開にしているものの、豪雨だったり、今後、冬になれば酷寒の地では窓もそうそう開けていられないのではと思う。なので、オゾン発生器で、新型コロナウイルスを不活性化させようとしている。
オゾンが、新型コロナウイルスに効くことは、2020年5月に奈良県立医科大学から発表されているけれど、さらに8月には藤田医科大学の研究チームが、「人体に安全な低濃度オゾンガスでも不活性化する」という報告を出している。
藤田医科大学といえば、開業前に豪華客船ダイアモンドプリンセス号の患者を受け入れた岡崎医療センターを擁するところだ。あれだけの患者数を受け入れたにもかかわらず、院内感染者を出していない。
心電図計やオゾン発生器。車内にいる人を安全に保つための機器が、クルマに標準装備されたら安心である。これこそ、クルマのニューノーマルなのでは?
◆車載コネクテッド機能は便利だけど
そう思ったけれど、いや、ちょっと待った。
いま、乗用車は10年間くらい当たり前のように使われている。一方、医療機器の進化は日進月歩でどんどん改良されている。パソコンやスマホだって数年で買い替えるのに、命に係わるものを10年間、使い続けるのはどうなんだろう。
しかも、車内環境は過酷だ。炎天下で車内は高温になるわ、冬は氷点下になるわ。しかも振動だってある。揺れまくりだ。温度も湿度も一定に保たれた病院の建物内とはまったく違うのである。機器を車両に標準装備することになれば、こうした対策はとらなければならない。当然、高額になるだろう。
さらに、機器が壊れたときも、クルマごと修理に出すことになる。医療機器が壊れたら、クルマも工場入りで利用できないなんて面倒きわまりない。私なら、まあいいかと放置するに違いない。いや、そもそも壊れたことがわかるのだろうか。ドラレコだって、車検や12か月点検の対象じゃないため、自分で管理しなくちゃいけないのに、医療機器やオゾン発生器の点検等までなんて正直、自信ないぞ。
やはり、心電図計もオゾン発生器も、ウェアラブルや携帯型にして、クルマとは別に考えた方がいい。私の携帯用オゾン発生器は、クルマをおりれば会議室や美容室などで私のそばで活躍し、家にもどれば靴箱やタンスの中で防カビ防臭してくれている。
医療機器やさまざまな機能の搭載。コネクテッドでつながる機能は便利だけど、人体系は別に考えたほうがよさそうだ。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
《岩貞るみこ》
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