クルマの「水害」…リスクを把握して早めに避難を | CAR CARE PLUS

クルマの「水害」…リスクを把握して早めに避難を

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水害を受けたクルマ
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日本はこれからが台風の本格的シーズンとなり、水害も増加する。今回はクルマに話を絞った水害対策とその後の対処方法について話を進めていく。

◆リスクを把握して早めに避難

気象庁の統計によると、全国の1時間降水量50mm以上の年間発生回数は増加傾向にあり、計測を行っている1300地点での2012年~2021年の平均年間発生回数は約327回に上る。これは、統計を開始した当初の1976年~1985年の10年間の平均年間発生回数である約226回と比べて、約1.4倍に増加していることになる。また、2022年は1月から7月までで1300地点あたりの発生回数が168回と多く、水害は身近な災害と考えるべきだろう。

地震と異なり、水害は事前に対処しやすい災害だ。まず最初に行ってほしいのが、自分がクルマを止めている場所がどれくらいのリスクがある場所かを知ること。各自治体が発行しているハザードマップをチェックして、洪水の際にどれくらいの水深に及ぶのかをチェックしておきたい。もし自分のクルマが止めてある場所にあふれた水がやってくる可能性があるときは、前もって安全な場所に避難させておくことが必須だ。ハザードマップで洪水時の水深が低くても、地下駐車場などでは水没の危険性があるので、ある程度の雨量が予測される際はやはりクルマを避難させるべきだろう。

雨が本格的な状況での一時的な避難であれば、近くの高台へということも考えられるが、路上駐車は違反になるほか、災害時の緊急自動車の通行の妨げにもなるので、できればショッピングセンターのビル式立体駐車場などに駐車しておくのがいいだろう。機械式駐車場は地下にクルマを運ぶものもあるだけでなく、停電時にはクルマを出すことができなくなる可能性もあるのでできれば避けたいところ。同じ理由で機械式駐車場を利用している人は、別の駐車場に避難したほうがいいこともある。

◆低い土地に行かない、アンダーパスに注意

一方、走行中に大雨となった際に気を付けたいのは、低い土地に行かないことだ。といってもなかなか判断は難しい。少なくとも川や海に近づかないことが大切。どれくらい水位が上がっているか? どれくらい波が荒れているか? を確認するために近づいて被害を受けるのはよくある話である。

またアンダーパスなども冠水しやすい。冠水の危険性があるときはアンダーパスを避けるようなルートを選びたい。もし、アンダーパスに近づいて冠水している際は、Uターンしたりバックしたりして、冠水している場所に入らないことが大切。クルマはタイヤが路面に接地して走ることができるが、冠水している場所にクルマで入っていくと、浮力でクルマが浮き上がってしまうことがある。浮いてしまったらもうアウト。クルマはコントロールを失い、プカプカと水面を漂う状態になってしまう。

冠水している場所に突っ込んでしまったり、停車しているときに水がやってきて、身動きが取れなくなったときにまずやるべきなのが、ドアを開けることだ。水位が上がってくると水圧によってドアを開けることが困難になる。条件が悪いとドア部分が10cm浸かっただけでも開かないことがあるという。内側から開けられないのはもちろんだが、外側から開けるのも困難になり、救助に手間取ることもある。水深が深くなる前にドアを開けてしまうことが肝心だ。車内に水が入れば水圧で押されることはないのでドアは開けることができる。

もし、ドアが開かなくても電気系統が生きていたら、パワーウインドウを作動させてすべてのウインドウガラスを全開にする。水が入ってくればドアは開けられるし、ドアが開かなくてもウインドウから逃げることも可能だ。災害時や事故時などのこと考えるとドアロックはしないことが基本だが、犯罪に巻き込まれることを防ぐためにはドアロックは有効だ。もし、ドアロックをしているのであれば、ドアロックも早めに解除したい。

◆脱出ハンマーを用意、エンジンは始動しない

最悪の事態も考えたい。もしドアもウインドウガラスも開かない状態で水没したらどうすればいいか? もっとも有効的なのはウインドウガラスガラスを割って、水を進入させドアを開けるか、ガラスがなくなったウインドウから逃げるかという選択になる。クルマのフロントウインドウは合わせガラスといって割ることが困難だが、サイドウインドウやリヤウインドウは強化ガラスといって条件が揃えば割ることができる。そのために必要なのが「脱出ハンマー」と呼ばれる道具だ。

「脱出ハンマー」はいわゆるトンカチとは異なり、先端が鋭利になっているハンマー。この先端が強化ガラスの厚みの3分の1まで達すると、引張応力のバランスが崩れてガラス粉々になる。ガラスのどの位置でも傷が付けばいいので、できるだけ窓枠に近い周囲をねらって叩く。真ん中を叩くとガラスがたわんで力が逃げてしまうのである。叩き方は手首のスナップを効かせて太鼓を叩くような感じで行う。大きく腕を振って叩くと、割れたガラスのなかに腕を突っ込むことになるのでケガをする可能性があるからだ。脱出ハンマーで割られたガラスは粉々になって飛び散るが、少し残っている部分があれば、素手ではなく、脱出ハンマーや上着などで外に押し出してやればいい。

脱出ハンマーにはさまざな製品があるが、シートベルトを切るためのカッターとセットになったものがおすすめだ。シートベルトはロック部分が潰れて外すことができなくなったりする可能性があるので、カッターが必要になる。大切なのは先端部分の鋭利さと硬度、カッターの切れ味。一部の外国製品はハンマー先端の硬度不足などがあり、性能が低いものもある。ジーエムが代理店となっている「ライフハンマーエボリューション」と「ライフハンマープラス」はテュフ・ラインランド(ドイツの製品の安全試験・認証を行う機関)のGSマーク(テュフ・ラインランドの試験に合格した証)を取得している製品。ジーエムは以前取り扱っていた脱出ハンマーに粗悪なコピー商品が出回ったために、現在のものに変更していることからも、信頼していいだろう。

脱出ハンマーは車内のフロアに固定すること。ドアポケットやグローブボックスに入れておくと、クルマが転倒した際などには、どこかにいってしまうからだ。そしてすべての乗員から手が届く位置に配置するといい。運転席と助手席の間に1つ、リヤフロアの中央に1つ、ミニバンならばサードシート部分にも欲しい。ここまでするのは、フル乗員で乗っているときに事故が発生し、1人でも意識があればほかの乗員を助けることができる可能性があるから。ミニバンで1列目、2列目の乗員は全員意識不明。3列目の乗員に意識はあるが、シートベルトが外れないといったときに水が浸入してきたり、火災が発生したりした状況を考えればすべての席から手が届く位置に配置される必要性が理解できるだろう。

水害を受けたクルマはエンジンを始動しないことが大切。適切な処置をする前にエンジンを始動したことによって、取り返しのつかない故障に見舞われることもある。水害車は12Vバッテリーのマイナス端子(カバーの掛かっていない黒い端子)を外して、レッカー車でディーラーや整備工場に運ぶことが基本的な処置だと思ってほしい。

◆水害車は「とにかく臭いが強烈」

さて、万が一水没してしまった場合はどうすればいいだろう。水害車の買い取りを積極的に進めているタウの奥本賢典 自動車営業部長に話を聞いた。

事故車をなども含めた買い取りを行っていたタウは、2018年の広島水害をきっかけに水害車の買い取りを強化。現在は水害が起きた際に自治体と協力して臨時モータープールを設置するなどして、被災車両の迅速な引き取りと現金化に力を入れている。同社の直近での水害車の取扱件数は、2019年の九州北部豪雨・台風19号の際には1万4000台もの水害車を買い取っている。

奥本氏によると、「現実問題として、車内に水が入ってきた場合は、早めに買い取りに出すのが正解です」とのこと。「水害車を扱ったことがない方はわからないかもしれませんが、車内に水が入ったクルマはカビなども発生しますし、とにかく臭いが強烈です。そして水分や湿気はジワジワとクルマをむしばんでいくので、そうなる前に早めに売ってしまったほうがいいのです」とも言う。

しかし、そんなクルマを買い取ってタウはどうしてビジネスが成り立つのだろう。その点も聞いた。

「当社では当社では買い取り車両を自社オークションで売却します。オークションで買い取った会社は、国内で販売するために修理することもありますが、輸出も盛んです。賃金が安い国に輸出してから修理すれば手間が掛かっても安いクルマになり利益がでるというわけです。日本で修理に100万円かかるからとあきらめたクルマでも、海外で安く修理できればそこには利益が生まれます」とのこと。なるほどである。また、クルマとして修理するには費用が見合わない場合は、解体して部品となって流通することもあるという。

タウは、インターネット上で水害車の買い取り価格シミュレーターも展開しているので、万が一のときは利用してみるのもいいだろう。

そして「例え、車内に水が入ってきていなくてもフロアギリギリ程度が水に浸かった場合は、ディーラーや整備工場で点検してもらうことが大切です」とも付け加えた。「現代のクルマは電子化が進んでいることもあり、水の被害は受けやすいのです」とのこと。駐車中のクルマは水位の分しか影響を受けないが、走っているクルマは、波立った水面が水位よりも高くなるため想定外の高さまで水が入り込んでいることがある。

また、注意したいのは海水だ。海水が流れ込んできたときは、塩分を含んでいるため錆の発生が早いスピードで起きる。海水を含んだ水での水害を受けた際は、たとえ水位が低かったとしても、下まわりやエンジンルームを含めて、できるだけ早く洗浄し防錆処理を行いたい。


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(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)

クルマの水害、「事前」の対策と「水没」してしまったときの対処方法

《諸星陽一》

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