自動車業界の未来を担う学生たちの“思い”とは? 自作車両で技術力を競い合う…「学生フォーミュラ2022」 | CAR CARE PLUS

自動車業界の未来を担う学生たちの“思い”とは? 自作車両で技術力を競い合う…「学生フォーミュラ2022」

イベント イベントレポート
「学生フォーミュラ2022」は、エコパ(静岡県掛川市)において、計69チームがエントリーして実施された
「学生フォーミュラ2022」は、エコパ(静岡県掛川市)において、計69チームがエントリーして実施された 全 12 枚 拡大写真

学生が小型フォーミュラマシンを持ち寄り、そこから生まれたものづくりのアイデアや技術を競い合う「学生フォーミュラ日本大会2022」(主催:自動車技術会)が9月6日から10日、エコパ(静岡県小笠山総合運動公園)で3年ぶりにリアルで開催された。

このイベントのルーツは1981年にアメリカで開催された「Formula SAE」で、日本では2003年からほぼ同じルールの下で開催されてきた。学生に対してものづくりの機会を与えることが目的で、大学や高専、自動車大学校などの学生チームが自作した車両で参加し、設計審査やコース上のタイムアタック等で競い合う。

大会はコロナ禍の影響を受けて2019年を最後にリアルでの開催が中止となっていたが、今年は3年ぶりのリアル開催となった。3年もの期間が空いてしまったことで参加する学生がほぼ入れ替わってしまい、今大会はほとんどのチームが経験不足の中で参加することとなった。それだけに、フタを開けてみると各チームとも予想外のトラブルに見舞われ、特に車検は一発でクリアできるチームはなかなか現れなかった。

それでも国内69チームがエントリーし、その中から総合優勝を飾ったのは京都工芸繊維大学となった。これまで3回の優勝経験を持ち、事前オンラインで開催された静的審査では暫定トップを獲得。会場での動的審査でも完走してアクセラレーションでこそ2位となったものの、スキッドパッド、オートクロス、エンデュランスはすべて1位という実績を残した。総合2位には京都大学、3位には日本自動車大学校が入った。

一方でEVクラスは、時代背景を受けてエントリー数こそ14校と過去最多となったものの、エンデュランス審査にまで進出できたのは2チームのみ。これまでのエンジンとは違ってノウハウの蓄積が乏しいことや、車検を通すための書類もEVならではの書類を追加する必要があるなど、学生にとってかなり難しい作業となってしまったようだ。

その中でも優勝したのは静岡理工科大学。今回は新たなモーターを搭載して総合13位、EVクラス優賞を果たした。また、EVクラスで2位となったのはトヨタ東京自動車大学校。重量面で不利となる直流モーターを使用しながらも総合17位の結果を残した。

そんな中、競技に挑んだ学生達の声を聞いた。

【茨城大学】<総合9位><日本自動車工業会会長賞><エルゴノミクス賞第2位>

茨城大学の笹原大希さん:「静的審査を含めると今回で18回目の参加となる。自身としては入部する前から学生フォーミュラを知っていて、参加できるのを楽しみにしていたが、入部と同時にコロナ禍でしばらくリアル参加できなかった。競技中はハラハラの連続だったが、現場では得られるものが特別だし、何よりも他校と交流できて自分たちとの違いがたくさんわかったのは大きな収穫だったと思う。獲得した経験は今後にじゃんじゃん反映していきたいと考えている。(世の中はEV化の流れにあるが)機械工学を専攻する自分たちにとって、ものづくりの観点から見たら機械も絶対になくならない。自分たちの役割は数多くあるはず。今後は自動車の分野へ進みたいが、パーツなどを通して貢献していきたいと考えている」

【名古屋工業大学】<総合33位><ベスト車検賞第3位>

名古屋工業大学の美輪麗王さん:「第1回から参加しているが、自分たちは大会への参加は初めての経験。新鮮な気持ちで臨んだが、車両の完成度をうまく引き出せず悔しい結果となってしまった。とはいえ、ここまで車両を持って来られたのはメンバーの力があってこそ。来年は力を合わせ、同じメンバーでチャレンジしたい。来年はEVに移行する予定で、すでにガソリンとと合わせてEVも並行して開発中だ。ただ、EVはリンクの取り扱いが安全に関わる部分なので気を付けないといけないし、バッテリーによる重量増も大きく影響を受ける。軽量/低重心を持ち味としているチームとしてクリアしなければならない課題だ。来年は走行するスケジュールを長めに取るなどして、前倒しのスケジュールで取り組んでいきたい」

【東京農工大学】<総合12位><ベストエアロ賞第3位>

東京農工大学の川端健斗さん:「2003年から出場し、ほぼコンスタントに出場してきた。ただ、自分たちにとっては実質初めての大会となり、それだけに不慣れで苦労が多かった。特に2日目のプラクティス(練習)ではエンジンブローしてしまい、その対応のために東京の大学までマシンをトラックで運び、夜通しでエンジンを載せ替えて昼頃に会場に戻って審査にギリギリ間に合わせた。セカンドドライバーとしてチェカーフラッグを受けた時は、まさに感動ものの経験となった。実は2019年の大会では最後の半周ラップでガス欠となって完走できておらず、その意味でも完走できたのは本当に良かった。1~2年生の部員が少ないこともあって、来年も3年生が関わっていくことになるが、しばらくはガソリンでチャレンジすると思う」

【愛知工業大学】<総合52位>

愛知工業大学の小川敬寛さん:「これまで2019年の大会では19位で完走できた。それ以降もガソリンで静的審査は受けてきたが、コロナ禍で活動制限が強いられる中で、新たなチャレンジをするのに今大会でEVへの変更は良い機会だと考えた。幸い、デンソー様から声をかけていただき、インバータやモーターの供給を受けることとなり、それがEVへの参戦するきっかけともなった。ただ、やってみればEVは一筋縄じゃ行かないこともわかった。EVならではのルールの厳しさや、安全性を担保することの難しさもあり、結果として車検を通すまでに至らずに終わってしまった。模擬車検で受けた指摘を来年に向けて課題とし、特にバッテリーの重量増の影響は大きく、今後はバッテリー容量と重量のバランスを考えて臨んでいきたい」

【静岡理工科大学】<国土交通大臣賞><日本自動車工業会会長賞>

静岡理工科大学の今場大弥さん:「今年で大会出場16年目を数え、2018年まではICVと並行して出場も果たしている。中でもEVは2009年のプレ大会から出場していて、13年からはEV部門で総合3連覇を達成した。今年もEVならではの立ち上がりの良さを活かして、うまく走らせることができており、アクセラレーションで4位を取れているのも自信につながった。バッテリー容量なども余裕を見て設計したのも良かったのではないか。去年、モーターやインバータを新しくして、その時の先輩のアドバイスは大きかった。ただ、コロナ禍での経験不足が響いて、出走までの準備に手間取ってしまうなど、チーム全体としてマネジメントができていなかったことは大きな反省材料。それでも、来年につながる走りは出来たと思っている」

【トヨタ東京自動車大学校】<総合17位><EV部門総合2位><日本自動車工業会会長賞><省エネ賞第2位>

トヨタ東京自動車大学校の中原侑星さん:「これまで全てEVで出場していて、今回で5回目となる。スマートモビリティ科という上級課程におけるカリキュラムの一環として電動車チームを組ませてもらっている。そのため、毎年メンバーが代わってしまうので、不安な部分を抱えつつも、みんなで協力し合ってここまで来ている。これまで完走することを目標にしてきたが、今大会では完走できて本当に良かった。我々は2年間にわたって整備科として自動車の勉強をしてきているので、仕組みをよく知った上で作業できているのが強み。これまでガソリン車で勉強してきた中で、EVという違った分野でチャレンジできたのはとても面白かった。この経験を糧に、社会で活躍したいと思っている」

【東京大学】<総合23位>

東京大学の板原正太朗さん:「発足は2002年で2009年には総合優勝の経験を持つ。エンジンの供給元であるスズキ自動車がスクーターであるスカイウェイブの製造を終えることに伴い、ガソリンでの出場は今季限りとなる可能性もある。このエンジンはドライバーの真横にエンジンを置くユニークなスタイル。これは免許取得者の大半がオートマティック車を運転する状況下においては、電子制御CVTを搭載したスクーターのエンジンが最適なのではないかとの判断になったから。これに伴ってドライバーの体重制限を求めるようなことには至っていない。2019年ではオイル漏れが発生してしまい、今大会で8年ぶりの完走となった。来年はEVでどれだけ面白いことができるか試してみたい」

自作の車両で技術力を競い合う「学生フォーミュラ2022」、自動車業界の未来を担う学生たちに思いを聞いた

《会田肇》

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