◆冷やせば冷やすだけ速くなる部分と
適温を保ったほうが良い部分の2種類がある。
エンジンに入る空気を冷やすほど出力が出せる。レーシングカーやチューニングカーではボンネットやフェンダーにダクトを追加している事があって、これはエンジンを冷やすのと同時にエンジンに吸い込む空気の温度を下げたいから。
昔のクルマも現代のクルマも基本は同じだが、冷たい空気をエンジンに吸い込むほどパワーが出しやすい。理屈としてはエンジンの力は排気量で決まる。少しでも排気量が大きいほうが有利。エンジンに吸い込む空気の量は一定だが、温度によってその密度が変わる。あらゆるものがそうであるように温度が上がれば膨張し、下がれば縮小する。なので、エンジン吸い込まれる空気の温度=吸気温度が高いほど同じ排気量でもそこに含まれる酸素の量が減るのでパワーが出なくなってしまう。キャブレターの時代ならそういった温度に対する自動補正はないので、「今日はエンジンが吹けないな」「エンジンが重い。もっとガソリンを絞ろう」のように現場でセッティングをしていたわけだ。
インジェクションになるとそういった補正を自動的に行ってくれる。吸気温度によってガソリンの噴射量を調整しているので、いつも同じようにエンジンは軽やかに回ってくれるようになった。しかし、いつも同じパワーが出ているわけではない。物理的に排気量は変わらないので、空気の温度が上がった分だけ入る酸素の量が減り、その分だけガソリンの噴射量も減る。つまりはパワーは落ちているのだ。なのでそういったことを少しでも防ぐために自動車メーカーでは、冷えた外気をエンジンに吸い込めるようにエアクリーナーを設計している。
このエアクリーナーがひと昔前ではびっくりするほど熱を持ったエンジンルーム内の空気を吸い込むようになっていた。そこでアフターパーツでダクトを引いたり、エアクリーナーボックスごと変えることで、吸気温度を下げて本来のパワーを引き出すチューニングが流行したのだ。それが最近では純正エアクリーナーボックスが相当よくできている。しっかりと冷えた空気を送り込む設計になっているので、簡単にアフター品に交換しても効果が出にくい。そこでアフターパーツメーカーもエアクリーナーの面積を増やすことで、少しでも吸気抵抗を減らしてパワー向上を狙っている。なので、アフターパーツメーカーのエアクリーナーは街乗り領域ではそれほど変わらないが、全開の高回転域では明確に伸びが良くなったりとやはり一定の効果は持っているのだ。そして、そういった効果を伸ばすにはまずエンジンルーム内部の温度を少しでも下げたい。そこでダクトを設けているのだ。
最近のレーシングカーではフェンダーにダクトが多いのもこの理由。ボンネットの真ん中あたりは実は意外と空気が抜けにくい。そこでストラットタワーからフェンダー方面に穴をあけると、ラジエーターから取り込まれた空気がエンジンルームを通って、両サイドにスムーズに流れて排出されるので、効率よくエンジンルーム内の空気を入れ替えることができるのだ。
なので、レース系のメーカーのカーボンボンネットでも、両側のストラットタワー上辺りに空気抜きダクトがあるのも、空気を抜く効率の良さからその位置になっているのだ。そういった理由から、インタークーラーはターボ車の吸入する空気を冷やしているわけである。過給器では空気を圧縮することで急激に熱を持つ。その温度は200度近くなることもあり、インタークーラーで少しでも冷やすことでエンジンに押し込む酸素の量が増え、パワーを引き出せるわけである。
◆だからこそタイムアタックは冬場がシーズン!!
レースは夏場に行っているが、ベストタイムをチューニングカーが競う「タイムアタック」は冬場がメインシーズン。これはそもそもの空気の温度が低いからパワーが出るのでタイムが出しやすいから。具体的には1周2kmの筑波サーキットで真夏と冬場だとターボ車で1秒近い差がある。NA車の方が差は出にくいが、それでも0.5秒は軽く差が出てしまう。
これはコースの長さにも基本的に比例するので、1kmあたりの真夏と冬場の差が0.5秒だとすると、富士スピードウェイなら2秒以上。鈴鹿サーキットなら3秒近い差になる。ハイパワーターボ車でもっと吸気温度に対する感度が高いクルマが鈴鹿サーキットを走ると夏と冬で5秒くらいの差が出ることさえある。それほどまでに温度はタイムに関わるのだ。
外気温は我々にはどうにもできないが、カスタムによって吸気温度を上げないようにしたり、下げることもできる。パフォーマンスアップに直結するカスタムなのである。