『MaaS』って、そもそも何?…誰が言い出したの? 何をやってるの? | CAR CARE PLUS

『MaaS』って、そもそも何?…誰が言い出したの? 何をやってるの?

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近年、各種報道や国の政策、企業のプレスリリース等で「MaaS(マース)」という言葉を耳にすることが増えてきました。Googleトレンドを見ると2018年以降「MaaS」というキーワードでの検索数が指数関数的に増加しており、2019年末にピークを記録しています。その後今日に至るまでの検索数はピーク時を下回っていますが、依然として各種メディアや講演会、ビジネスセミナー等では「MaaS」という言葉が多く登場しており、引き続き世間の関心は高いと言えます。

◆そもそもMaaSって何?

そもそも、「MaaS」とは何でしょうか。「MaaS」とは「Mobility as a Service(サービスとしてのモビリティ)」の略称であり、マイカーと同等もしくはそれ以上の利便性を持つ移動手段を提供し、持続可能な社会を構築していこうと、全く新しい価値観やライフスタイルを創出していく概念です。

「MaaS」と表記が似た言葉として「SaaS」や「PaaS」などがありますが、いずれも“aaS(アズ・ア・サービス)”と、モノの提供からサービスの提供へとビジネスモデルを転換していることが共通点です。「SaaS」ではソフトウェアを、「PaaS」ではシステムプラットフォームを、そして「MaaS」ではモビリティ(移動)を、これまで買いきりだったビジネスモデルから継続課金モデル(サブスクリプション方式)に転換していることがポイントです。

「MaaS」の解釈は、「幅広い種類の交通サービスを一つのサービスとして統合し、ユーザーが必要な時に自由にアクセスし選択できるようにするもの」や「移動したい人と移動させたい人の関係性を最適化するサービス」など、その解釈は様々ありますが、平たく言うと「行きたいときに、行きたいところへ、自由に行ける」ためのサービスと言うことができるでしょう。

具体的には「MaaS」によって、モビリティ(移動)サービスが単一の交通モードではなく、鉄道・バス・タクシー・レンタカーといった従来の交通サービスや、カーシェアリング・自転車シェアリング・配車サービスといった新しい交通手段を全て統合し、ルート検索・予約・決済機能がユーザーにワンストップで提供され、利用者は移動のニーズに応じて最適な交通サービスの組み合わせを選択し、Door-to-Door(ドア・ツー・ドア)でシームレスかつリーズナブルに移動することが可能となります。

◆MaaS誕生の歴史

「MaaS」という言葉が世界中で使用されるようになったのは2014年頃からだと言われています。

「MaaS」のコンセプトは2014年にフィンランドの大学生、Sonja Heikkilä(ソンジャ・ヘイッキラ)氏が執筆した論文「Mobility as a Service - A Proposal for Action for the Public Administration(モビリティ・アズ・ア・サービス - 行政への行動提案)」がITSヨーロッパ世界会議で発表され、これが最初に「MaaS」のコンセプトを世界に広めることになるきっかけとなりました。自動車産業が強くない国では、マイカー利用による正の側面よりも、CO2排出増加や慢性的な渋滞、交通事故、騒音、限られた都市空間の多くを道路や駐車場に割かなければならない等の負の側面が大きく、市民のマイカー依存脱却を課題として抱えていました。そうした背景もあり、「MaaS」のコンセプトはまずフィンランドをはじめとする西欧諸国を中心に受け入れられることとなります。

当時弱冠24歳だったソンジャ・ヘイッキラ氏は、執筆したMaaSの論文により米『Foreign Policy(フォーリン・ポリシー)』誌の『100 leading global thinkers(世界をリードする100人の思想家たち)』にも選ばれ、一躍時の人となりますが、彼女自身、「『MaaS』の元々のコンセプトはSanpo Hietanen(サンポ・ヒータネン)氏にある」と言っています。

ソンジャ・ヘイッキラ氏はアールト大学の修士課程でMaaSに関する論文を執筆した後、2014年からMaaS論文執筆の依頼主でもあったヘルシンキ市都市計画局で交通エンジニアとしてMaaSのコンセプト開発・実証に関与。その後2015年からフィンランド技術庁(Tekes)のイノベーション資金調達機関でシニアアドバイザーとしてモビリティオペレーター事業の開発・試験運用を資金調達の側面からサポートするなどのキャリアを経て、2019年からはVWグループ傘下のシュコダにてMaaSの開発に従事しています。直近では2020年から北欧諸国の国有企業(宅配・物流事業者)であるPostNord(ポストノード)で、物流デジタル化・スマート物流といった側面からMaaSの発展に尽力しています。(なお蛇足ですが、厳密には同氏の名前は現在、結婚に伴いSonja Venho/ソンジャ・ベンホに変わっています)

サンポ・ヒータネン氏とは、MaaSスタートアップであるMaaS Global(マース・グローバル)社の創業者兼CEOで、MaaSのコンセプトを作った「MaaSの父」と呼ばれています。ヒータネン氏は大学卒業後、交通輸送関係のエンジニアとしてキャリアをスタートさせており、その中で「交通輸送エンジニアは数学的に考えがちだが、人間は完璧ではないので合理性だけでなく、使いやすさ・使い心地・快適性を重視した、人々のライフスタイルに合わせたモビリティサービスの提供が必要だ」と考えるようになり、これが元となり「モビリティの自由(いつでもどこでも自由に移動ができる)」というコンセプトを思いついたといいます。

そして2016年には「元祖MaaS」とも呼ばれるマルチモーダル型MaaSの「Whim(ウィム)」がフィンランドで登場します。「Whim」は、電車やバスなどの公共交通に加え、タクシーやレンタカー、カーシェアリング、シェアサイクル、電動キックボードのシェアリングなど市内にある複数の移動サービスに対し、1つのスマートフォン用アプリケーションから予約~乗車~決済までが済ませられるサービスです。現在はフィンランドをはじめ、ベルギー、オーストリア、シンガポール、日本でサービス展開されており、今後欧州のいくつかの都市でサービス開始予定だとしています。

◆日本ではいつ頃から始まった?

日本でMaaSの取り組みが始まったのは2018年からだと言えるでしょう。国の政策に「MaaS」という言葉が初めて登場したのは、2018年6月に閣議決定された政府の成長戦略である「未来投資戦略2018」です。ここでは「自動運転のみならず様々なモビリティ手段を在り方及びこれらを最適に統合するサービス(MaaS)について検討を進める」と記載されています。

その他にもMaaSに関する解説本『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(2018年、日経BP発行)がベストセラーとなり、トヨタとソフトバンクによってMaaSなどのモビリティソリューションの実現に向けて「MONETコンソーシアム(モネ・コンソーシアム)」(2019年)が設立され、三菱商事や三井物産などの日系企業がMaaS Global社に出資するなど、MaaSに関する社会的な関心・取り組みがこの時期から活発になっています。

◆MaaSを導入することで何が変わる?

MaaSの目的は、現在のモビリティ(移動)サービスが抱える負の側面を解消し、人がより自由に、様々な場所に行くことができるようになることです。言い換えると、社会全体の「移動」に関する非合理性が解消され、最適化されることであり、さらにその先には持続可能な社会(サステナビリティ)の実現も含まれていると言えるでしょう。

また前述の政府の成長戦略である「未来投資戦略2018」の中では、MaaSは「1. 地域の交通・物流に関する課題の解決」「2. 都市の競争力向上」「3. 新しいまちづくり」「4. 公共交通のスマート化」という4つの目標を達成する“手段”として書かれています。

◆具体的にはどんなMaaSがあるのか

MaaSでは既存モビリティの最適化だけではなく、最適化された移動と既存サービスを組み合わせた新たなサービス、すなわちMaaSの先に新たなサービスが生まれ始めています。これらはその名の通り「Beyond MaaS(ビヨンド・マース)」と呼ばれ、具体的には以下に挙げるようなサービスが登場しています。

不動産×MaaS:商業施設・ホテル・マンションを利用するユーザー向けのモビリティサービス提供を指します。日本では三井不動産が同社不動産ユーザー向けに「&MOVE」を展開するなど、不動産とMaaSを掛け合わせた様々な事例があります。

観光×MaaS:これまで観光はツアーパッケージや、単一モビリティの「フリー切符」のような乗り放題パッケージが存在していました。これをMaaSにより、移動の自由度と経済性を両立し、観光交通や観光サービスとセットで提供されるものを指します。日本では東急電鉄が伊豆地域で展開する「Izuko(イズコ)」などが有名です。

地方創生×MaaS:高度経済成長期のモータリゼーション移行、地方の移動は自動車に依存してきました。それが都市部への人口集中や少子高齢化によって、鉄道駅前のシャッター街増加やそれによるにぎわいの消滅、移動難民になる高齢者の増加など、様々な社会問題が起きています。これらの問題をMaaSによって解決しようとする取り組みが地方創生型MaaSです。

このように一例ではありますが、MaaSによって様々な産業においても新たなビジネスチャンスがもたらされることから、旧来のモビリティ業界からだけではなく、多くの業界から注目を集めています。


今回はMaaSについてポイントとなる部分を取り上げて解説しましたが、MaaSは現状、世界のみならず日本各地で実証実験が進められており、そうした取り組みの中から様々な成功事例や課題が確認されています。次回は、そうした各種動向や実証実験から得られた教訓などについて解説します。

《原西修三》

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