ゆっくりじっくり温め過ぎはむしろエンジンに良くない。冬場も正しいエンジンの暖機運転でクルマに優しく過ごしたい。
◆今どきのクルマでも暖機運転は必要なのか?
クルマを傷めないために気をつけたいのが暖機運転。エンジンを温めてから走ることだ。しかし、この暖機運転が逆効果をもたらすこともある。そもそもエンジン内部はクランクシャフトやカムシャフトなどがオイルの油圧によって浮いている。絶妙なクリアランスのメタル軸受けにオイルが入り、そこのオイルの中にクランクシャフトなどが浮いている。フローティングメタルと呼ばれる方式だ。オイルによって微妙に浮いているので、ほとんど摩耗しない。だからこそ10万kmや20万kmも走ることができる。
しかし、このフローティングメタルのポイントはオイルに浮いているということで、油圧が低下すると浮いていられなくなり、クランクシャフトとメタルが金属接触して摩耗してしまう。これが「メタルが流れる」と言われる、エンジンブローを引き起こすもっとも多い原因だ。このメタルトラブルは劣悪なオイルが原因か、油圧低下が原因になる。となると、ちゃんとしたオイルを定期的に交換していても、油圧低下が起きればメタルトラブルに繋がる可能性があるのだ。そして、この油圧が一番低いのがアイドリング時である。油圧は基本的にエンジン回転によってオイルポンプを回して発生させている。一定以上になるとリリーフして油圧が上がりすぎないようになっているが、アイドリング時に油圧を上げる機能はない。
エンジン始動直後はオイルが冷えていて硬いので油圧も高くなる。オイルが温まってくるとどんどんオイルはサラサラになり、流動性も良くなるがオイルを圧送する量が少ないのは変わらない。油圧も低く、圧送する油量も少ないのでフローティングメタルでクランクシャフトなどが浮きにくくなり、金属接触からの摩耗が起きやすくなるのだ。つまり暖機運転をやりすぎるとエンジンを傷める可能性があるのだ。
◆オススメの暖機運転方法はこれだ
そこでオススメはほんの1分くらいはエンジンを温めて、そこから走り出してしまうこと。まだエンジン内部は冷えていて各部のクリアランスも適正ではないので、強い加速はしないほうがいいが、スルスルとゆっくり走り始めてしまう。そこから5分ほどはペースを抑えて走りながらエンジンを温めるのだ。
こうすればエンジン以外のミッションやデファレンシャルなど駆動系の部位も徐々に温めることができる。これらのパーツも内部にはオイルがあり、ある程度温めてから負荷を掛けたほうが良い。レースでは決まった時間しかコース内を走れないので、走行前にはジャッキアップしてタイヤを浮かせたままエンジンを掛けてギアも繋いでタイヤをクルクルと空転させて、駆動系まで温めていく。負荷は掛からないので走っているほどの温度にはならないが、全体にオイルを回しながら温めるという意味では効果があるのだ。
◆長時間のアイドリング暖気は危険なのか?
アイドリングは意外とリスクが高い行為。それは暖気時もだが、例えばエンジンを掛けたまま昼寝するというシチュエーションでも同じ。長時間のアイドリングは油圧低下からの潤滑不足で、エンジンにダメージを与える可能性があるのだ。もちろん、環境保護の観点などから長時間のアイドリングは推奨されていないが、機械としても好ましい行為ではないのだ。
高速道路走行後のアフターアイドルも同様。以前は高速道路などを走っていて、とくにターボ車はタービンが熱を持っているので、いきなりエンジンを止めるとタービンの軸受けが焼き付きやすいと言われていた。たしかに全開走行直後にいきなりエンジンを止めると焼き付くリスクはある。多少温度が下がるまでアイドリングするのは有効だが、高速道路を法定速度で走っていてサービスエリアでアフターアイドルが必要かというとまったく必要ない。むしろ、アフターアイドルの間もエンジン回転数が低く、油圧が低く油量も少ないので、その間にエンジンにダメージが及ばないかのほうが心配になる。
サーキットでもし全開走行からピットインしたなら、できればエンジンを止める前に数分アイドリングするか、パドック内などを低速で走って、ブレーキまで冷ましてから止まるほうがクルマ全体への負荷が少ない。それくらいの配慮でよく、アフターアイドリングのしすぎもダメージを与える可能性があるのだ。
冬場の朝はとくにエンジンオイルも硬くもっさりとしていて、マニュアル車ではミッションオイルが硬いのでギアが入りにくいこともある。そうしたなか、ペースを抑えて暖機運転をする人もいるわけで、朝ゆっくりと走っている人がいたら、暖機運転中かな? と思っていただければ幸いだ。