エンジンやミッション、サスペンションなどで聞くオーバーホールとはどういった作業のことを指すのか。新品になるのとはどう違うのだろうか。
◆オーバーホールとは分解して整備することだが…
エンジンのオーバーホールが必要になったとか、整備で聞かれるオーバーホールという単語。部品単位まで分解して整備するという意味で、エンジンを分解して整備するということ。だが、このオーバーホールにも実はいくつかの種類があるのだ。
エンジンのオーバーホールの場合、細かくバラしていくが最終的に摩耗している部品を変えるのか変えないのかという選択肢が出てくる。たとえばシリンダー。ピストンとピストンリングが往復することで徐々にシリンダーのボアは広がってきてしまう。そこで同じピストンを戻しては、抜け気味だった圧縮をもとに戻すことは難しい。通常ピストンリングを新品にすることで、張力が回復し圧縮も多少改善するが、本来ならオーバーサイズピストンを入れたいところ。
このオーバーサイズピストンとは、純正サイズよりもわずかに大きなサイズのピストン。こういった摩耗したエンジンの場合、改めてボアを大きなサイズで掘り直し、そこにオーバーサイズピストンを入れて、ノーマルエンジンと同じピストンとシリンダー間のクリアランスで組み上げる。こうすることで本来の圧縮比を取り戻すことができるのだ。過去にはこの純正オーバーサイズピストンを利用して、わずかながらボアアップしてパワーアップしようというチューニングが流行ったこともあったのだ。
だが、ここまでやるとかなり大掛かり。シリンダーブロックを内燃機屋さんに加工に出すなど、手間も時間も掛かるオーバーホールとなる。逆にそこまで厳密にやらないなら、ピストンリングだけを新品にしてサクッと組んでしまうのもオーバーホールといえば言えなくもない。オーバーホールしたといっても、様々な種類があるわけなのだ。
クランクシャフトを支えるメタルブッシュなどもオーバーホール時に変えるなら、再度あたりが付き直すため慣らし運転をするのが望ましい。しかし、あまりメタルブッシュにダメージがないので再使用するのであれば、慣らし運転は不要。このように交換パーツによって、その後の組み直したあとの使い方もやや変わってくるのである。
◆サスペンションの場合は、仕様変更もセットが多い
サスペンションもオーバーホールが必要とされるパーツ。ダンパー内部ではピストンとシリンダーが常に擦れていて、徐々に摩耗していく。減衰力もだんだん落ちていくのでオーバーホールで性能を取り戻す作業が必要となる。
サスペンションの場合、エンジンと違って内部を再研磨するというよりはケース(シリンダー)ごと交換してしまうことも多い。内部が減ってきてクリアランスが保てない場合に、オーバーサイズピストンなどがないし、コスト的にも数万円なのでケースごと交換になるのだ。また、このケースの材質による違いもある。一般的にはスチール製で摩耗しにくい。そして内部は多少使い込んだほうが表面が研磨されて徐々にフリクションロスが少なくなり、しなやかな乗り味になってくるのだという。つまり徐々にサスペンションが育ってくるので、ケース交換をしないほうが乗り心地に有利なのだ。アルミ製ケースもあるが、比較的摩耗しやすいので育てるというよりは交換になりやすく、サスペンションを何年か掛けて育てることはスチール製よりは向かないのだという。
そして、サスペンションの場合は組み直しのオーバーホールもあるが、同時に内部パーツの構成を変える仕様変更と言われる作業をすることが多い。仕様変更は内部のピストンを変えたり、そのピストンの穴に蓋をして減衰力特性を変えている金属製シムを異なる構成にすることで、減衰力の出方を変えようというもの。一度組み上げてしまうとダイヤルクリックによる調整しかできず、根本的な減衰力のプロフィールは変えられないので、バラしたときにもっと良くしようと合わせこんでいくのだ。サスペンションの場合はこういった仕様を変えていくオーバーホールが多い。
◆ブレーキもオーバーホールする事で性能が復活
ブレーキキャリパーはそういった味付け的なオーバーホールではなく、きっちりと新品状態に戻すのが重要。ピストンを抜き、シールを外して徹底的に洗浄。こびりついた汚れを落とし、再び新品のシールとピストンを組み込んで新品状態に戻していく。これがブレーキパーツでのオーバーホールなのだ。
このようにオーバーホールといって、新品になるわけではない。どのパーツをどこまで交換するのか、洗浄するのかでその後の仕上がりが変わってくる。依頼するときはどんなオーバーホールをするのかをよく確認しておきたい。