愛車を長く大切に乗るユーザーが確実に増えている現在、愛車を綺麗に保つ様々なサービスの価値も上がっている。その1つが自動車の表面にフィルム加工を施し、既存の塗装とはまったく異なる色やデザインで車体を彩ることが可能なほか、飛び石や軽い接触などから塗装面を保護することができ、愛車の資産価値を落とさず、自由かつ気軽に自己表現ができる「カーラッピング」だ。
そこで、カーラッピングの日本における先駆者である株式会社ワイエムジーワン(以下、YMG1/東京都墨田区横川1-1-10すみだパークプレイスII)の山家一繁社長協力の下、編集部ではカーラッピングについての新連載コラムを始動させる。
初回のテーマは「カーラッピングとは?」。山家社長にカーラッピングのこれまでの歴史や現在の状況などについてお話し頂いた。
カーラッピングとは何か?
皆さん、こんにちは。YMG1の山家です。今回から数回に渡って、カーラッピングについてお話させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。
初回はまず「カーラッピング」という言葉は知っていても、何だかよく分からない方も多いと思いますので、その歴史や現在の市場環境などについてお話ししたいと思います。
初めに「カーラッピング」の起源ですが、クルマにおけるラッピングの始まりは「バスラッピング」からでした。1996年のアトランタ五輪を契機に、アトランタに本拠があるコカ・コーラ社が、全世界の人たちを集める五輪で、バスに人を乗せる際にオンデマンド印刷機で印刷したフィルムを、バスにそっくりラッピングしたのがそもそもの始まりです。
当時の印刷は同じ色・大きさ・形でなければできませんでしたが、アメリカの3Mが開発したオンデマンド印刷機(スコッチプリント)は、いわば“カラーコピー機”です。デザインや大きさがどうであれ、印刷したフィルムをクルマに貼るという概念が無かった中で、クルマに貼るというのは画期的でした。
よって、1996年のコカ・コーラ社のバスラッピングの前は、欧米でもクルマもしくはバスなどに貼るいわゆる“ラッピング”という概念はありませんでしたが、マークを貼るという「マーキング」というものはありました。マーキングの起源は古く、太平洋戦争までさかのぼります。日本の国旗である日の丸は、糸一本で書けますが、アメリカの星条旗の星は書けませんよね?世界で一番初めにセロハンテープを作った会社がアメリカの3Mです。色が付いたフィルムをカットして貼るという文化は、既に戦時中にはあったのです。
その後は「フリートマーキング」という言葉が一般化していきます。フリートとはアメリカの3Mが考えた造語で、同じマークの車がまるで艦隊のように走ることから、艦隊のマーキングシステムとも言われています。例えば、トラック会社が同じロゴマークを貼って会社をPRしますよね?このフリートマーキングシステムがクルマにマークを貼る一番初めで、次第にこのビジネスが発達していきました。
なお日本においてフリートマーキングとして、一番初めにクルマに貼られたのは、NTTのロゴマークと言われています。その数は全国に3万台。NTTのロゴマークの青色をどう保全するか、形をどう担保するかという問いに対して、アメリカの3Mと共に日本に入ってきた住友3Mが印刷で青色を作り、型抜きをして貼ったのです。まさにマークを貼るマーキングそのものですね。
日本において、塗装の代わりに全国で同じロゴマークを付けないといけない需要は、民営化による社名変更(日本電信電話株式会社→NTT、日本交通公社→JTBなど)を契機に出てきました。
このようにマーキングとラッピングは似ているようで、時系列も歴史も全く違うのですが、また一方でマーキングやバスラッピングとは違う流れも、実はヨーロッパにありました。
カーボン調のフィルム(内装などに使うダイノックフィルム)をイタリア人が遊び半分でフェラーリの外装に貼っていたのです。実はこれが、個人のクルマの外装にフィルムを装飾で貼るという一番最初と言われています。つまり、車用の専用フィルムがあったのではなく、内装材をクルマの外装に貼ってしまったところが始まりというのが面白い所です。その後、それが先ほど申し上げたバスラッピングと同じく、全体をそっくり包むことが同じという理由で「カーラッピング」と言う言葉になったと言われています。
カーラッピングにおける2つのビジネスの潮流
では、このカーラッピングが日本に来たのはいつなのか?についてですが、実はカーラッピングを日本に持って来たのはこの私です(笑)それまで欧米で、カーラッピングという言葉があり、クルマの色をフィルムを貼って変えているということは分かっていました。
ちなみに弊社YMG1は、日本で初めてバスラッピング広告をビジネスモデルにするなど、主に企業系の仕事を中心に行っていました。しかし、印刷機1つ取っても、当時のスコッチプリントというオンデマンド印刷機は、8,000万円しましたが、今のインジェットプリンターは250万円で買えます。印刷機はどんどん安くなり、フィルムはより簡単に貼りやすくなる…。
つまり、専門業者に頼まなくても施工ができる時代になっていったのです。そこで私は、2004年頃から個人のクルマにフィルムを貼るというビジネスを何かできないかと模索しました。ここからカーラッピングを日本に持ってくるまでは少し弊社の話になりますが、お付き合い下さい。
2004年頃、日本に出てきたのがアニメのキャラをクルマに貼るいわゆる“痛車”です。これは面白い!と版権の許諾を取り、幕張で施工デモショーをやったら珍しさもあり、黒山の人だかりが出来ました。ECサイトも整えて、いざ販売したところ、さっぱり売れませんでした。痛車を見たい層はいますが、自分のクルマでやろうと思う人は少なかったんですね。
ただ、めげずに次の手として痛車をヨーロッパに輸出しようと思い、ドイツの友人に相談したところ「ドイツはクルマにフィルムを貼っている」と聞かされ、驚きました。カーラッピングのビジネスの中で何が一番多いかと言うと、単色のフィルムで色を変えるというビジネスよりは、商業ベースでグラフィックスのフィルムを貼ることです。クルマにフィルムを貼るというビジネスは昔からありましたが、それはマークを貼るということともう1つ、広告を貼るというビジネスもあります。
ただし、日本で広告で貼るというビジネスは普及しません。なぜなら屋外広告条例があり、規制があることと、日本では2tのトラック、軽のワンボックス、ハイエースと何種類も車種がありますが、それらの車種は世界で日本にしかないからです。世界ではボンネットトラック(デリバリーバン)が主流です。日本の2tトラックにフィルムを貼ってもあまり格好良くありませんが、下の画像をご覧頂けるとお分かりの通り、デリバリーバンにフィルムを貼ると格好良いのです。
欧米のビジネスはこれがすべてです。グラフィックスのフィルムを貼ることができると、仕事が増えます。ただ、割合的にはグラフィックスのフィルムを貼る方が圧倒的に多いのですが、単独でそのビジネスが成り立つため、たまにクルマのカラーを変えるフィルムの仕事もするのです。企業系のビジネスは今のトレンドで成り立ちますが、クルマのカラーを変えるビジネスは、高級車のオーナーが自分のクルマにフィルムを貼りたいというケースが存在します。
ビジネスというものは、大抵古いビジネスを駆逐して新しいビジネスができるものですが、カーラッピングについては少々違います。企業系も個人の仕事も、どちらも単独で現存し、駆逐しないのです。この流れが2000年くらいから欧米を中心に徐々に流行りだしていたのはキャッチアップしていたので、ようやく話の本筋に戻りますが、これを日本に広めようと奔走しました。
長くなりましたが、まとめると、カーラッピングには、グラフィックスを貼る企業系のビジネスと個人で色を変えるという目的でのビジネスの2つが存在しているということを覚えておいて下さい。
カーラッピングの市場環境
そして2023年、紆余曲折はありましたが、弊社で行っているカーラッピングの施工についての講習には、自動車メーカーの施工担当者も受講するようになってきていることから、今の日本においてカーラッピングは、自動車メーカーが今後伸びていく市場だと認識してきているところまでは来たと思います。
今、全世界でフィルムを販売しているメーカーは10社ほどで、規模としては440億円の市場と言われています。ちなみに日本でのラッピング対象顧客は国産車ではなく、ほとんどが輸入車です。日本の新車登録台数300万台のうち、輸入車は30万台で売上規模は8億円と言われています。ドイツは300万台で30億円ですので、比率は日本の方が濃いんですね。
ちなみに弊社YMG1の数字の概算ですが、2016年を100とした時に、2022年までで問い合わせ件数は9倍、カーラッピングの実績数は3倍、フィルムの販売実績数も同様に3倍の伸びを示しています。問い合わせ件数に対して、その実績を増やしていくことは課題ですが、約6年間で施工・販売共に3倍増の実績というのは非常に緩やかではありますが、確実に伸びていると言えます。こういったデータを見るに、カーラッピングは今後もじっくりと伸びていく市場であることは間違いなさそうです。
ただし、まだ日本のカーラッピングは市民権を得ていないというのが私の思いです。ではカーラッピングが市民権を得るために、どうすれば良いのでしょうか?その1つは、この業界の人たちがフィルムの知識をちゃんと付けて、理解してどの価値をユーザーに提供するかを明確に広報活動しないといけません。
そのために今回から数回に分けて、カーラッピングについて様々な角度からお話ししようと思っています。今後をぜひお楽しみにしていて下さい!
<プロフィール>
山家一繁(やまがかずしげ)
株式会社ワイエムジーワン代表取締役。日本で初めてバスラッピングを手掛け、これまでに約4,000台のバスラッピング製作施工実績を持つ、日本におけるカーラッピングのパイオニア。2011年からは高級車の新しい楽しみ方「LAPPS(=Luxury Automobile Progressive plus Style)」 として車両専用ラッピングフィルムで車の外装をすべて包み込み、カラーリングを変えるラッピングサービスを普及させるYMG1のサービスブランドも立ち上げたほか、その施工や集客ノウハウを元にカラーリングチェンジラッピングビジネス講習も実施するなど、カーラッピングの普及に積極的に取り組んでいる。