1台のクルマに長く乗り続ける長期保有化が進み、乗用車の平均車齢が9年を超えるまで伸びている昨今。愛車のキズ防止を目的とした「ペイントプロテクションフィルム(PPF)」施工は注目度が高い。
PPFとは、主にポリウレタン素材からなる柔らかく伸縮性がある特殊なフィルムで、貼るタイプと塗るタイプがある。0.15mm~0.20mmほどの厚みがあり、ボディだけでなくフロントガラスの飛び石被害防止や、洗車時のスクラッチ傷防止、ヘッドライト、ドアカップ、ステップ、トランク周辺などキズが付きやすい部分をピンポイントで保護できる。
世界各国で開発された様々なブランドがあり、平滑性や防汚、自己修復などフィルム商品ごとに機能性はさまざま。カラーは無色透明から白や黒、赤、黄色、カーボン調もありドレスアップ用途でもニーズがある。フィルムが傷んだり、色を変えたいときに施工店に依頼してフィルムを剥がせる点が大きな特長だ。
主流となっている貼るタイプの場合、キズが付きやすい部分にピンポイントで施工できるのが強みだが、どうしてもフィルムの継ぎ目が発生してしまう。一方、スプレーで吹き付ける塗るタイプは、複雑な形状のパーツでも継ぎ目がないキレイな仕上がりを実現できる。しかしながら、塗装ブース内でスプレー塗装や焼き付け乾燥が必要なため、貼るタイプと比較すると施工の難易度が高いといえる。
今年3月に東京ビッグサイトで開催された、自動車アフターマーケット事業者向けの国際展示会『第20回 国際オートアフターマーケットEXPO 2023(IAAE2023)』では、PPFをアピールしていた事業者が数社出展していたのでピックアップして紹介したい。
Fenix Scratch Guard
株式会社Fenix Japanは、スプレー塗装で施工する塗るタイプのPPF「Fenix Scratch Guard(フェニックス・スクラッチガード)」を出展し、塗装ブース内で塗装実演も行っていた。スプレー塗装で3層構造の強力なPPFを形成でき、施工したPPFに小キズが入った場合は70~80℃の熱を加えると独自の自己修復(セルフヒーリング)機能で小キズが目立たなくなるという。クリアとマットタイプの2種類があり、トップ層とベース層の間にカラー塗装層を加えることで好みのカラーで施工できる。また、従来のPPFとは違いポリッシャーで磨けるため、クリアタイプの場合は研磨でPPF塗膜の光沢を復元させることもできるなど、高機能な最高級PPFとして展開されている。
STEK「DYNO」シリーズ
世界80カ国で販売展開されているPPFブランド「STEK(エステック)」の日本販売代理店であるSTEK-JAPAN株式会社も出展。貼るタイプのPPFで、ファッション性だけなく、疎水性や防汚性もあるカラー・柄付きの「DYNO(ダイノ)」シリーズ最新フィルムを訴求。ブースでは、ピラーやリアフェンダーなどに施工した実車が展示されていた。また、フロントガラス保護に特化したウィンドウプロテクションフィルム(WPF)として販売中の「Windshield DYNOflex (ウィンドシールド・ダイノフレックス)」もアピールされていた。
国産のWPF「P-Shield」
株式会社ソフト99オートサービスの出展ブースでは、株式会社エスアンドカンパニーが国産ブランドとして展開するWPF「P-Shield」が注目を集めていた。水や氷が付着しにくい高い撥水性と高い耐スクラッチ性能に加え、長期耐候性をあわせ持つWPFで、飛び石ブロック機能や優れた屋外耐候性能が特長とのこと。施工方法としては、透明度の高いポリエステルフィルムをフロントガラスに沿わせながらヒートガン(高温ドライヤー)を使って熱成型して密着させる。ブースでは施工事業者向けの講習についても案内が行われていた。
紫外線で色が変わるPPF
特にユニークだったのは、中国企業 Guangdong AEP Technology Co., Ltd.がアピールしていた貼るタイプのPPF。フィルムが紫外線を吸収し、紫外線の強さに応じて自動的に色が変わるPPFが出展されていた。透明な状態から黒または紫に変わる2タイプがあり、夜間や雨天、紫外線が少ない環境だと自動的に透明になるという。ボディ保護とドレスアップ目的で、中国をはじめアメリカやロシアでも販売展開中とのこと。ユニークなPPFのひとつとして、今後、日本のマーケットにも登場してくる可能性があるかもしれない。
総括として、昨年3月に開催された「IAAE2022」と比較すると、今年の「IAAE2023」でPPFをアピールしていた事業者は減少傾向だった。理由として、PPFを訴求したい事業者の期待に対して市場がそれほど盛り上がっていないことが考えられる。特に塗るタイプのPPFは、継ぎ目がない高品質な仕上がりを実現できるものの、塗装ブースでの吹き付けや乾燥時間もかかり、なおかつ施工価格が高額なため、スーパーカーや高級車を所有する特定の富裕層向けとなっている。
だが、貼るタイプのPPFであれば、キズが付きやすい部分にのみ施工可能なため、幅広いカーオーナーを対象に需要拡大を見込める可能性があるように思われる。最近の傾向として、国産自動車メーカーもPPF需要に注目している動きがある。日産自動車株式会社が新型セレナ用ディーラーオプション品として、住江織物株式会社が開発した貼るタイプのプロテクションフィルム「ラゲッジプロテクションPHフィルム」を採用し、内装用PPFとして今年4月末から販売を開始。同フィルムが好評となれば、他の自動車メーカーでも内装用PPFが展開されるかもしれない。ボディ外装やフロントガラスだけでなく、内装のキズ防止目的として貼るタイプのPPFが盛り上がっていくのかどうか、今後の動きに目が離せない。