「自動車保険」が使えず待たされてサビが発生…進化するクルマの修理見積は、損害調査のプロでも間違えるほど難しい | CAR CARE PLUS

「自動車保険」が使えず待たされてサビが発生…進化するクルマの修理見積は、損害調査のプロでも間違えるほど難しい

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「自動車保険」が使えず待たされてサビが発生…進化するクルマの修理見積は、損害調査のプロでも間違えるほど難しい
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千葉県浦安市に住むAさんは、リスクヘッジのために加入した「自動車保険」がすぐに使えず、希望通りの補償を受けられるかどうか分かるまで4ヶ月も待たされた間に、損傷箇所がサビてしまったという。

なぜ、そのような状況になってしまったのか。Aさんに詳しい話を聞いた。

最新の「予防安全システム」を気に入って購入

Aさんは、運転のしやすさや見た目のデザイン、そして、走行中に障害物などが接近したらブザーがなったり、衝突被害軽減ブレーキといった予防安全システムが搭載されている点も気に入って、スズキの「スペーシアカスタムHYBRID XS TURBO」の新車を、地元・千葉県浦安市でスズキの販売店の看板をかかげる株式会社車検・鈑金デポ(株式会社オートバックスセブンのグループ会社)で購入することに。同社では、車両販売だけでなく、車両購入後に重要となる整備や車検、自動車保険の加入手続きのほか、事故時の対応や修理に至るまで幅広く対応しており、保険に関しては専属のプロスタッフが在籍していた。

Aさんは、保険専属のプロスタッフから、自身のライフスタイルに合う自動車保険の提案を受けた。その結果、東京海上日動火災保険株式会社の自動車保険に加入することを決めて「車両保険」を付けた。この際、新車で購入した保険契約車両(スペーシアカスタムHYBRID XS TURBO)が全損になった場合、または修理費用が新車価格相当額の50%以上となった場合に、車両の再取得費用または修理費用について新車価格相当額を限度に補償を受けられる「車両新価保険特約(新価特約)」を、保険専属のプロスタッフに勧められたAさんは、万が一の備えとして新価特約も付けることにした。

それから2年7ヶ月後の2023年1月上旬。Aさんは駐車中にハンドル操作を誤り、立体駐車場の柱に車体をぶつけてしまう。その衝撃で、運転席側のドアやサイドステップ周辺を損傷してしまった。

こういった場合、カーオーナーが加入している自動車保険の事故受付センターに電話連絡するのが一般的だが、Aさんが車両を購入し、自動車保険加入も任せた店舗(車検・鈑金デポ)では、事故時の対応や修理も行える事業者だったため、Aさんは同店舗に電話で状況を伝え、自走できる状態だったためAさん自ら運転して同店舗に車両を持ち込んだという。

その後、車検・鈑金デポの修理見積担当者が、Aさんの車両の損傷状況を確認のうえ、スペーシアカスタムの製造元であるスズキが発行するボデー修理書(ボディの修理方法、各部寸法、修理時の接合個所などが掲載)に記載されている内容を確認したところ、今回の損傷箇所は、衝突安全性と軽量化を両立させる素材である980Mpaの超高張力鋼板を採用したロッカーパネル部分だった。

ボデー修理書には高張力鋼板使用部位作業上の注意事項として、引張り強度が590Mpa以上の高張力鋼板使用部位は、鋼板の切り継ぎ及び加熱処理を行うと強度が低下し、本来の性能に達しない可能性がある。必ず補給部品単位での交換をすること、との記載があったため、車検・鈑金デポの修理見積担当者はその通りの内容で見積書を作成。その結果、見積額がAさんが自動車保険加入時に付けた「新価特約」の対象となる金額になった。車検・鈑金デポの修理見積担当者は、修理方法をAさんに説明し、Aさんはその内容で自動車保険を使用した修理を希望した。

修理工場の見積書の整合性・妥当性判断に「損害調査」が必要

Aさんのように自損事故を起こして自動車保険を使いたい場合、修理工場が作成した修理見積書の整合性や妥当性を判断するために、保険会社は損害調査業務(自動車の損害額や事故の原因・状況などの調査)のプロである調査員(アジャスター)による事故調査を行い、調査員が修理見積書を作成する。Aさんの場合、東京海上日動火災保険が外部パートナーとして提携している調査事務所(株式会社八車 越川調査事務所)の調査員が事故現場や車両の損傷状態をチェック。その上で、修理方法および見積書が2月上旬に作成された。

この修理方法が、車検・鈑金デポが作成した修理見積と異なっていた。車検・鈑金デポの修理見積担当者が作成した修理内容は、スズキが発行するボデー修理書に従ったものだったが、調査会社のアジャスターから提示された修理見積は、補給部品単位での交換ではなく、ボデー修理書の注意事項でNGとされていた“鋼板の切り継ぎ及び加熱処理”にあたる鈑金塗装での修理を想定した内容になっていた。

車検・鈑金デポの修理見積担当者は調査事務所に、今回の損傷部分は、右サイドシルフロントレングス 980Mpaの超高張力鋼板使用部位のため、鈑金塗装を行うと強度が低下し、本来の性能に達成しない可能性があると、ボデー修理書に記載があることを伝えたところ、調査事務所からは修理見積内容への意見や再調査については東京海上日動調査サービス株式会社に依頼してほしい、との回答だった。このため、車検・鈑金デポの修理見積担当者は、カーオーナーのAさんにその状況を伝え、Aさんの合意を得て、東京海上日動調査サービス株式会社に再調査を依頼した。

再調査を依頼するために、Aさんの損傷車両は修理をスタートできない状況になった。この再調査が行われたのは4月中旬。最初の調査が行われた2月上旬から再調査が行われるまでの約2ヶ月。Aさんは損傷したクルマに乗り続けるしかなく、その間に損傷箇所がだんだんとサビていった。

実はAさんは、自動車保険に加入した際、故障や事故で車両が使えなくなった時のレンタカー費用を補償する「レンタカー費用等補償特約」をオプションで付けていたのだが、この補償は30日間の期間限定。修理する前に使ってしまうと修理中はレンタカーを有料で借りなければならなくなる。修理方法および見積額が確定していない状況でレンタカー補償を使うことにAさんはためらいがあり、レンタカー補償は使わず、損傷したクルマに乗り続けるしかなかったのだ。

ずいぶんと待たされて、東京海上日動調査サービスの再調査が行われた結果…。またしても、最初の調査会社と同じような修理方法(補助部品単位での交換ではなく、鈑金塗装による修理)での見積書となっていた。

車検・鈑金デポの修理見積担当者は、東京海上日動調査サービスの担当者に対して、自動車メーカーのスズキが発行するボデー修理書の記載通りの修理方法が最善であり、それ以外のやり方はできないとキッパリ主張。東京海上日動調査サービスの担当者は、一旦、見積内容を持ち帰ることに。それからしばらく経ってから東京海上日動調査サービスの担当者は、車検・鈑金デポの修理見積担当者が作成した見積内容に合意。最初の調査会社や自社が再調査して作成した修理方法および見積書の内容に間違いがあったことを認めたという。

この結論に至ったのは、5月上旬。Aさんが事故にあった今年1月上旬から実に約4ヶ月もの時間が経過し、この期間中Aさんは、愛車の修理ができないまま待たされ続けたわけだ。ようやくAさんは、車検・鈑金デポの修理見積担当社が作成した修理方法および見積書の内容で損害補償額が決定して「車両新価保険特約」を使えるようになり、修理せず、新車を購入することができるようになったという。

最近のクルマは修理方法が難しくなっている

Aさんが直面した出来事は、他人事ではない。修理工場と保険会社が提示した修理方法および見積書に違いがあった理由は、最近のクルマの修理方法が難しくなっている点にある。事故車調査のプロであるアジャスターでも、修理方法を間違えてしまうほど、最近のクルマは進化しているのだ。

今回、車検・鈑金デポの修理見積担当者は、自動車メーカーのボデー修理書をしっかり確認し、最新の修理方法での見積書を作成していたが、全国各地に数多くあるすべての自動車修理工場が、自動車メーカーのボデー修理書をきちんと確認し、最新のクルマの修理方法を把握して見積書を作成しているのだろうか。保険会社の損害調査のプロでも間違っていたことを考えると、正直不安が募ってしまう。

今回の事例を踏まえると、カーオーナーは、自動車保険に加入していれば問題なく安心と考えるのは早計と言わざるをえない。最近のクルマは衝突安全性と軽量化を両立させるために採用されている部材(高張力鋼板)や、衝突被害軽減ブレーキをはじめとする高度な先進運転支援システム(ADAS)が搭載されていることで、損傷前の状態に修理・復元するのは簡単ではなく、より複雑な修理や整備(電子制御装置整備)が必要になり、それにともなって修理や復元には時間を要し、修理費も高額になることを知っておく必要がある。また自動車保険を使う際には、保険会社と修理工場の両社が、進化しているクルマの修理方法をきちんと理解し、正しい修理方法での見積書を作成して、正しく修理してくれる体制が整っていることが、とても重要であることを覚えていてほしい。

《カーケアプラス編集部@金武あずみ》

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