スプレーガンやコンプレッサーの老舗メーカー・アネスト岩田株式会社の子会社である株式会社ANEST IWATA A.I.R.(A.I.R.)が、メーカー直営として初の自動車アフターサービス専門店「オートテックベース湘南」を神奈川県寒川町にオープン。2025年10月12日に実施された開所式には近隣の鈑金塗装事業者をはじめ協力メーカーやインフルエンサーなど50名以上が訪れ、工場見学や塗装実演などが行われた。
A.I.R.の自動車アフターサービス事業はグローバルで展開。2026年夏を目途に、フィリピンのアンヘレス市でサービス拠点を立ち上げ、現地パートナー企業と連携して鈑金塗装需要に対応しながら人材育成・採用にも注力する計画が明かされた。

自動車アフターサービスをトータルにサポート
「オートテックベース湘南」では、鈑金塗装やオイル交換、タイヤ交換、カー用品交換取り付け、洗車・ボディコーティングまでトータルにサポート。自動車整備資格2級以上を取得するプロが対応する。
A.I.R.の鈴木善之代表取締役社長は、2026年に創業100周年を迎える親会社アネスト岩田の「次の100年に向けた新たな挑戦」として、自動車アフターサービス事業を位置づける。メーカー自らが “ 使う側 ”となり、サービス提供から見えてくる現場視点のニーズや課題を製品開発に反映させ、より実践的で高品質なものづくりに繋げていきたいと新規事業の目的を伝え、鈴木代表自らが工場内の設備を紹介した。
工場設計やレイアウトは地元ディーラーからアドバイスを受けながら、安全性や作業効率化を追求。ADAS(先進安全支援システム)搭載車やEV対応も可能な最新設備を導入し、電子制御装置整備に必要な特定整備認証を申請中で年内に取得予定。将来的には車検を行える指定自動車整備事業の認可も計画している。


鈑金塗装事業者たちが「塗装実演」に注目
開所式では水性塗料(BASF「baslac」)の塗装実演が行われ、来場者たちの注目を集めた。スプレーガン・メーカー直営として塗装にはより強いこだわりがあり、塗装前に噴霧形状パターンの確認・調整は必須。水性塗料用ブロワーを活用した素早い乾燥など、最適かつ効率良く高品質に仕上げるデモンストレーションが披露された。その様子を見学していた鈑金塗装事業者たちは手際の良さや仕上がり品質を真剣に見定めていた。




「オートテックベース湘南」では、鈑金塗装における “ 磨き ” のスキルを活かしたボディコーティング施工の下地処理や、ボディ塗装面の見極めも得意とする。塗装の構造を理解してコーティング剤の膜厚や磨きすぎない施工が可能で、塗装面の状態によってはコーティング施工よりもクリヤー塗料での全塗装がリーズナブルな場合もあるなど、柔軟な提案と施工を行える技術と塗装環境が強みだと、A.I.R.チーフエンジニアの加藤力也氏は強調した。

同業他社との連携
一般カーオーナーからの問い合わせをWebや電話で受け付けると同時に、「オートテックベース湘南」では、地域の同業他社からの相談や依頼にも対応。プロ向けの研修会場としても活用する考えがある。このほか、工具メーカーの京都機械工具株式会社(KTC)とタッグを組み女性塗装スタッフでも作業しやすいツールの共同開発プロジェクトがすでに始まっているという。

自動車が進化し、整備や修理がますます高度化する中で、人手不足や賃上げ、労働安全対策など多くの課題を抱える自動車アフターマーケット業界では、様々な事情により自動車整備業者の倒産・廃業が増加傾向にあるといえる。また2023年7月に発覚した旧ビッグモーターの不正請求問題をきっかけに、カーオーナーは自身の責任と考えのもと自ら情報収集して自動車整備・修理工場を選ぶ必要性に迫られている。
そのような背景の中、プライム市場にも上場する老舗メーカー・アネスト岩田グループのA.I.R.が、新規ビジネスとして鈑金塗装やボディコーティング施工といったアフターサービス事業を国内外で展開する動きが始まったことは注目トピックといえるだろう。透明性やコンプライアンス対応の強化が求められる中でA.I.R.の新規事業が、地域の鈑金塗装やカーディテイリング事業者などの同業他社やカーオーナーにどのような影響をもたらすのか今後に期待したい。