中国ではEVの普及に伴い、充電やバッテリースワップのインフラが急速に整備されている。同時にEVが社会インフラの一部として定着するにあたっては、EVを整備する整備士の育成も極めて重要である。
そんな中、今回編集部では急速に普及が進む新エネルギー車(NEV)の最前線である中国・北京の自動車整備学校およびその卒業生が工場長を務める自動車整備工場を取材。
今回の取材を通して、急速に普及が進む新エネルギー車(NEV)の最前線である中国・北京では、単なる技術適応ではなく、整備事業者が「部品の交換屋」から、精密な故障診断と高度な修理技術を提供する「技術サービス事業者」へと自らを再定義する戦略的な転換が行われていることが分かった。取材の様子をレポートしたい。
「三電」を制するものがEV整備を制す…北京の自動車整備学校の教育とは
北京の自動車整備学校「北京北方国際教育技術有限公司(以下、北京北方国際)」では、従来のガソリン車の整備とは全く異なる、次世代自動車技術の核心となる「三電(駆動用バッテリー、駆動モーター、コントローラー)」に特化した高度な教育カリキュラムが組まれている。編集部が取材に伺った際には、韓国からの団体50名が授業を受講しており、その関心の高さが伺えた。



授業では、中国国内における車両識別やナンバープレート分類、市場動向およびシェアなどの概略が述べられた後「三電」のコア技術となる主要部品の特徴などが説明されていた。具体的にはマイナス20℃の極寒環境下でも12分で97%まで充電可能なBYD第2世代ブレードバッテリーなど、最先端のバッテリー技術事例が教材となっていたのが興味深い。
また、電力伝送経路の追跡においては、 高圧ジャンクションボックスを起点に、オレンジ色の高圧ケーブルがどのように各コンポーネントへ電力を分配しているか、実車や壁掛け教材を用いて目視で確認・検証する実習なども展開されており、車両の単なる構造理解に留まらず、実務に直結する知識が叩き込まれている様子が印象的だった。



整備工場の収益構造が「交換」から「精密修理・調整」へと激変
編集部が次に訪れたのは、NEV普及に伴う収益モデルのパラダイムシフトが鮮明となっている北京北方国際の卒業生が工場長を務める北京の自動車整備工場だ。従来のガソリン車では「部品交換(アッセンブリー交換)」が売上の柱だったが、高価な主要コンポーネントを持つNEVでは「部品単位での修理・調整」という高付加価値サービスが収益の核となっている。

例えば、 バッテリー全交換は中古でも約80万円と高額なため、顧客は故障したセルユニット(数千円~)のみの交換を求める。この際、新旧ユニット間の電圧バランスを充放電により調整する作業に約2日間を要すが、これが「高度な技術サービス」として収益源となるという。


また、エアコンプレッサーの内部修理においては、 丸ごと交換するのではなく、専用診断機で内部の故障箇所を特定し、特定の部品のみを交換することで修理コストを抑制し、技術料を確保している。

車両重量が増加するNEVでは、タイヤの内側が摩耗しやすい傾向にあり、アライメント調整の重要性もこれまで以上に高まっており、付加価値サービスの事例の1つとなっている。


生き残りの鍵は高額な設備投資の可否とBtoBネットワーク
中国において、独立系の整備工場がディーラーと渡り合い、生き残るための戦略は明確である。「高額な計測・診断・ADASエーミング設備への先行投資」だ。 一般的な整備工場では投資が困難な、約30万元(日本円で約800万円相当)規模のADASエーミング設備を持つことが、決定的な差別化要因となる。事故や接触後のセンサー再キャリブレーション案件が、設備を持たない近隣の整備工場から「外注」として集中的に流入するため、非常に粗利が高くなるからだ。
また、BYDなどのメーカー純正スキャンツールの入手には特定のルートなどが必要な場合もあるが、汎用スキャンツールや車種別データ搭載のパソコンを使い分け、技術情報の非開示を禁じる中国政府の制度を背景に、独立系でも「修理する権利」は担保されている。ただし、情報アクセスの法的開放は「参入の可能性」を作ったに過ぎず、収益化のためには資本装備→外注集約→高単価業務(ADAS)への選択と集中が不可欠で、装備とネットワークを持つ少数のハブ工場に市場が再編・集約されているのが現状だ。

資本を投じて設備を整え、近隣整備工場からの外注を受ける「ハブ工場」として機能するのか、それとも伝統的なメニューに留まるのか…。北京の整備工場の姿は、近い将来の日本のアフターマーケットが直面する課題を先取りしているように見えた。

