クルマの中では、助手席が最も危険だった!? 自動運転時代はどうなる【岩貞るみこの人道車医】 | CAR CARE PLUS

クルマの中では、助手席が最も危険だった!? 自動運転時代はどうなる【岩貞るみこの人道車医】

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死亡重傷率は助手席が2.7%で最も高いというデータがあるという(写真はイメージ)
死亡重傷率は助手席が2.7%で最も高いというデータがあるという(写真はイメージ) 全 2 枚 拡大写真
「クルマの中では、助手席が一番危ない」

私が運転免許を取得したころ(30年以上前!)、とある調査でそういう結果が出た。しかしその後、後席にだれもいないクルマの数も含まれたデータであることが判明して(そりゃ怪我はするまい)その後、訂正されたと記憶している(うろ覚え)。

今、助手席は、運転席に比べて安全だと言われている。運転席にはハンドルがあり、そのぶん、空間が狭い。頼みのエアバッグも、開ききる前に人があたるとカウンターパンチ状態になり、逆に怪我をさせかねない。しかし、助手席にハンドルはない。エアバッグはダッシュボードから出てくるため、乗員との距離が長くとれ設計もしやすい。よって、助手席は、運転席よりも安全な席だと私は認識していた。

ところが、それを覆すデータが出てきた。2021年5月の自動車技術会春季大会で、日本大学工学部教授の西本哲也氏のチームが発表した「車両クラス別傷害予測アルゴリズムVersion 2021の構築」のなかに、その記述がある。

◆死亡重傷率は助手席が2.7%で最も高い

今回の西本氏の研究は、「D-Call Net」のアルゴリズム精度を高めるために行われている。D-Call Netとは、クルマが衝突したときにヘルプネット等に連絡がいくシステムを使い、同時に消防やドクターヘリの基地病院にも通報を行う。ドクターヘリ(医師)や消防隊がいち早く負傷者と接触できれば救命率を上げられるのだ。このとき重要なのは、車両にどのくらいの衝撃が加わったら中にいる人はドクターヘリを向かわせるべき重症になるかということだ。西本氏のチームは、事故の形態や死傷者のデータを分析して、現在使われているアルゴリズムを作ってきたのである。

ただ、現在のデータは、車両はぜんぶ同じ扱いで、軽自動車もメルセデスベンツ『Sクラス』も同じ判定が下される。そこで今回、車両の大きさに応じた重傷率をクリアにすべく(ただし、軽自動車は小型車グループ)、ITARDA(交通事故総合分析センター)の交通事故統合データベースのマクロデータのうち、2009年から2018年に発生した211万3959人のすべての四輪車事故で負傷した乗員(運転席、助手席、後席)を解析したという。

この結果が、D-Call Netのさらなる向上につながることは言うまでもないが、私が注目したのはその中の、「死亡重傷率は助手席(2.7%)が最も高く、運転席(1.7%)と比較して約1.6倍高い」という部分である。

え? 助手席は、運転席よりも安全な位置のはずではなかったのか!

西本氏によると現時点では、助手席の乗員がどういう年齢や体型などまで解析していないという。つまり、運転席よりも助手席の方が高齢者率が高いかもしれないし、シートベルトの装着率が低い、なんてことも考えられる。

◆助手席に座る人の着座姿勢は

そしてもうひとつ、西本氏はある可能性を示唆してくれた。

「助手席に座る人は、着座姿勢が正しくとられていなかったかもしれません」

たしかに、私たちメディアなどが伝えるのは、ブレーキペダルを踏んでシート前後を合わせ、ハンドルの上端を片手で握り……と、運転席のドラポジの整え方だ。助手席はこう座りましょうという指導は私自身、やったことも聞いたこともない。

さらに助手席に座ると気が緩むことが多い。寝たり、しゃべったり、スマホを見たりとやりたい放題だ。シートの背もたれに隙間のないよう座り、ベルトは腰骨と鎖骨の骨の上にきちんとはわせ……とはいかない。試乗会ではスタッフがイラつくほど、試乗前にドラポジを合わせる私ですら、助手席はいい加減に座ることがほとんどだ。

西本氏の言葉を聞いて、ある論文を思い出した。それは、2008年の日本救急医学会で発表された日本医科大学千葉北総病院の齋藤伸行医師のもので(タイトルは忘れて申し訳ない)、「衝突時に意識消失していたドライバーは、意識があったドライバーに比べて重傷率が高い」というものだった。発表後に齋藤氏に尋ねたところ、「可能性として考えられるのは、意識があればある程度、身構えられるからではないか」ということだった。

◆自動運転が進んだとき、乗員の怪我は変化する

完全自動運転化の前に訪れる混合社会。事故での怪我はどう変わるのか。写真はGMの自動運転車「クルーズ・オリジン」
さて。

このふたつの論文を読んで思ったことは、今後、自動運転が進んだとき、乗員、特にドライバーの怪我は変化するのではないかということだ。自動運転のシステムを使えば、ドライバーも事故の直前まで気づかないケースが出てくるだろう(システムの警告すら間に合わないケース)。となると、衝突安全性のテストは、このままでよいのか? クルマの作り方はどうなるのだろう? 

もちろん、完全自動運転の世界になれば、事故は減ると技術者は言うけれど、その前に混合社会がくる。事故は起こるのだ。そして、現在、理由はともあれ、「運転せずに座っている」助手席の死亡重傷率が高いことは事実なのだ。この現実を見て、いくら自動運転の時代が近づいてきても、衝突安全は大切で、もしかしたらもっと高度な対応が求められるようになると思っている。


岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。

《岩貞るみこ》

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