衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)をはじめとする「先進運転支援システム(ADAS)」の搭載率は年々上昇しており、自動ブレーキの搭載義務化は国産新型車を対象に2021年11月から始まっている。輸入車の新型車は2024年7月からで、モデルチェンジされていない既存車(継続生産車)は、国産車だと2025年12月から、輸入車は2026年7月に適用予定となっている。軽トラックは2027年9月からで、要するにあと数年の間に多くの新車が自動ブレーキ搭載車になるということだ。
自動ブレーキ搭載車が当たり前になる流れがある中で、ADASに関わる新しいトラブル事例がではじめているという。それは、フロントガラスの内側の “汚れ” によるADASエラーだ。
ADAS搭載車のフロントガラスの内側のクリーニングは、車種によってADAS用カメラの脱着が必要となる。電子制御装置対象車種の場合は、特定整備(電子)認証の取得が必須で、未取得では作業できない。
特定整備認証とは、ADASの作動に関わるカメラやセンサーなどの電子制御装置が装備された先進安全自動車や最新型のEV整備・修理にも必要なものだが、自動車整備工場でもその取得率はまだまだ低調と言われている。その状況下で、フロントガラスの油膜取りなどを有料サービスとして行う自動車ガラス専門店やカーディテイリングショップは正しく対応できるのだろうか?
北海道札幌市「宮田自動車商会テクニカルセンター」での事例
北海道札幌市の老舗・自動車部品商として知られる株式会社宮田自動車商会では、特定整備(電子)認証を取得し、地域の自動車整備工場では困難な電子制御装置整備などを行う「宮田自動車商会テクニカルセンター」を展開。同センターのFacebookページでは、フロントガラスの内側の汚れによるADASエラー事例情報が投稿されている。その内容について同センター長の滝澤忠利氏に話を聞いた。
「ルーフ交換とカメラ脱着が行われた、スバルのインプレッサ GT7(アイサイト3搭載)がエーミング作業で入庫しました。この車種は電子制御装置整備対象車種です。静的エーミングを実施したところ、設置距離は間違いないはずなのに “ターゲット距離検査NG” となりました。この車両は当センター入庫前にカメラを脱着したと聞いていたので、カメラの取付け状態を確認しようと思いカメラまわりを良く見ると、カメラ前のフロントガラスの内側が静電気のホコリのようなもので白く汚れていたのです。
アイサイト3は、フロントガラスに密着していないタイプのADAS用ステレオカメラのため、白い汚れを当センターで拭き取ってキレイにすることができました。その後、静的エーミングを実施したら問題なく無事に完了できました。走行時にアイサイトを通常使用している際、霧や逆光で作動停止になるしきい値よりも、エーミング作業のしきい値の方が高いため、ホコリのような白ボケでエラーになったということです。カメラ前のフロントガラスの内側の汚れが原因でエーミング作業がエラーになるケースは、今回の事例を含めて3件発生しています」と滝澤氏は教えてくれた。
千葉県浦安市「車検・鈑金デポ」が “新メニュー” を開発
以前から、ARC研修センターとして情報共有を行っている宮田自動車商会テクニカルセンターの事例を知り、千葉県浦安市の株式会社車検・鈑金デポでは “新メニュー” を開発したという。
同社は、株式会社オートバックスセブンのグループ会社であり、一般ユーザー向けに車検整備や鈑金塗装のサービス提供を行うと同時に、オートバックスグループ内で最先端の設備・技術を導入して人材育成を行う研修施設でもある。特定整備(電子)認証を取得し、最新のエーミング関連ツールを取り揃え、徹底的な検証テストも行い、幅広い自動車アフターマーケット事業者に向けて積極的な情報発信を行っている。その車検・鈑金デポが開発した新メニューについて、同社の上松禎知社長に話を聞いた。
「宮田自動車商会テクニカルセンター様のFacebook投稿で、アイサイト搭載車のカメラ前ガラスの汚れの情報を拝見し、とても重要な情報だと思いました。弊社ではエーミング作業の検証車両で、カメラ前のフロントガラスの内側にあったホコリや毛羽、指紋の付着などが原因でエーミング作業がエラーになることを確認しています。
宮田自動車商会テクニカルセンター様の事例にあったようなアイサイト搭載車は、フロントガラス面とカメラの間にある程度隙間があるので、ガラス面の汚れを拭き取ることが可能ですが、フロントガラスにカメラユニットが密着している車種も多くあります。密着していると隙間がほぼないため、フロントガラスからカメラユニットを脱着しないと、クリーニングできないのです。
弊社には、カメラユニットを取り外してクリーニングしたあと、フロントガラスにカメラユニットを装着する専用ツール類が揃っております。知識のあるスタッフがカメラユニットの脱着を行い、油膜にならない材料を使用してフロントガラスの内側をクリーニングしたのち、お車の状態に適したエーミング作業を実施して、購入時と同等の性能を取り戻す新メニューを提供できます」と上松社長は話していた。なお、エーミング作業費にクリーニング費用(1,000円)をセットにして提供するという。
レーザーレーダーやカメラが装着された自動ブレーキ搭載車は2015年ごろから増え、2023年時点で8年経過しており、フロントガラスの内側にも汚れが蓄積している車種は多くあるだろう。自動車アフターマーケット事業者の多くは、事故やフロントガラス交換時にのみエーミング作業が発生する、との考えが強いと思うが、フロントガラスの内側の汚れ除去時に必要な作業として、エーミング作業需要が増えていく可能性は十分にあると思われる。フロントガラスの油膜取りなどを行う自動車ガラス専門店やカーディテイリングショップにおいては、フロントガラスの内側の汚れでADASエラーが発生することを知り、特定整備(電子)認証を取得するか、または取得する事業者と連携し、コンプライアンス遵守の施工作業を行ってほしい。