救急車の搬送時間を短縮したい… ITSコネクトの車々間通信が普及段階に | CAR CARE PLUS

救急車の搬送時間を短縮したい… ITSコネクトの車々間通信が普及段階に

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ITSコネクトの通信利用型レーダークルーズコントロールを試す
ITSコネクトの通信利用型レーダークルーズコントロールを試す 全 9 枚 拡大写真

救急車の急患搬送時間が長くなっているという。今年1月の総務省の発表によると、「救急自動車による現場到着所要時間(入電から現場に到着するまでに要した時間)は、全国平均で約9.4 分(前年約8.9 分)、病院収容所要時間(入電から医師引継ぎまでに要した時間)は、全国平均で約42.8 分(前年約40.6 分)となっている。現場到着所要時間と病院収容所要時間の推移をみると、どちらも延伸傾向にある」(2021年のデータ集計値*)。

ドライバーの我々としては、いまさら言うまでもないことだが、救急車に気付き次第速やかに道を譲ることが重要だ。しかしこのデータには、その反対の結果が現れている。

この状況は現場の実感としてもあるようで、昨年には救急車の運転手のツイートが話題になった。心肺停止の小児を搬送する際に、道を譲ってくれないクルマが増えたという内容のものだ。

心肺停止の場合、処置が1分遅れるごとに生存率が7~10%ずつ低下していくという。救急車は、まさに一分一秒を争って病院に向かっているのだ。

もちろんほとんどのドライバーは、救急車の存在に気付いたらすぐに道を譲る心構えでいるだろう。しかしながら筆者自身、救急車がどこから近づいてくるのかが分からず、道を譲るのが遅れてしまったと反省したこともある。サイレンの音だけでは、後ろから来るのか前から来るのか、あるいは左右方向から来るのかをすぐに判断するのは意外と難しいものだ。

◆救急車にいち早く道を譲る一台になるには

救急車がどこにいるのか、どれくらい近づいているのかを、音と共にメーターパネルに表示するサービスがある。車載通信サービスの「ITSコネクト(ITS Connect)」だ。

ITS Connect推進協議会運営委員会の本多輝彦委員長によると、「最初に2万7500円(税込)で専用車載機を搭載すると、その後は通信料不要で使えます」とのことで、通信サービスではあるがランニングコストを気にせず使用できるという。最近は新車を買う時のオプションに設定されていることも多く、検討した人もいるだろう。

それでは、救急車の接近がどのように通知されるのか、実際の画面を見てみよう。

このように、救急車の進行方向が三角形のマークで示され、自車との距離が表示される。後ろから来るのか、左右方向から来るのか、いま何メートル離れているのか、救急車との位置関係が図示されるので、これならばうまく道を譲りやすい。

そうやって自分が率先して道を譲ることができれば、周りのドライバーもそれに倣ってすぐに道を空けてくれるだろう。もちろん、すべてのクルマがITSコネクトを装着しているわけではないが、早く気付いて動ける一台になることで、周りのクルマの動きを先導でき、そのことが救急車の到着を少しでも早めてくれるのならそれに越したことはない。

◆通信料無料で様々な「安心」が得られる

このITSコネクトは、クルマ同士の通信や、信号機や路側のデバイスと専用周波数帯(760MHz)で通信するもので、セルラー網を使った通信料金が必要なサービスなどとは別の仕組みとなっている。通信の安定性が高いため、セルラーでは現状難しいクリティカルな用途にも使うことができるのが特徴だ。

例えば、先行する車両とクルマ同士で通信し、加減速情報に素早く反応して車間距離や速度を調整しながらスムーズな追従走行ができる「通信利用型レーダークルーズコントロール」や、交差点を右折する際に死角になって見えない歩行者や対向車を、路側の装置で検知して注意喚起を行う「右折時注意喚起」、赤信号で停車した際の待ち時間をバーで表示し、青信号になるタイミングを直観的に伝える「信号待ち発信準備案内」などがある。詳細は公式サイトで公開されている。

ITS Connect推進協議会協議会事務局の西川美津江氏によると、「ITSコネクトを搭載した一般車両は2021年度に30万台を超え、順調にその数を増やしています。またITSコネクトに対応した交差点や信号機も、全国の主要都市をカバーしています」とのことだ。また救急車についてもトヨタの救急車両『ハイメディック』に搭載車両が増えつつある。

またこれはマニアックな動機かもしれないが、このようなV2V / V2Iサービスを商用化したのはこのITSコネクトが世界初である。本多氏によると、「2015年にトヨタ『プリウス』、『クラウン』、『マジェスタ』に最初に搭載され、世界初の商用化となりました。その後V2Vは、キャデラックやフォルクスワーゲン、中国などでも商用化されましたが、V2Iについては現在も実験段階のものが多く、商用サービスとしては世界でも先行事例と言えるのではないか」とのことだ。このようなサービスを、今後の発展を楽しみながら使うという動機もあるのではないだろうか。

◆ITSコネクトの可能性

ITSコネクトのサービスの発展について、具体的な事例を紹介しよう。

ひとつめは、救急車の接近を通知する大型の表示板を路側に設置する実証実験だ。愛知県豊田市の交差点に入る手前に設置された表示板で、救急車の接近を表示し、ドライバーに注意を促すというもの。ITSコネクト車載機を搭載していなくても、救急車の接近を通知することができるというものだ。

次に紹介するのは、自動運転車両と連携した「塩尻MaaSプロジェクト」。路側に設置したITSスマートポールで、歩行者や車両の接近を検知し、自動運転車両はそれを考慮した自動走行を行う。見通しの悪い交差点での走行をサポートするものだ。

そして、路線バスの安全運航をサポートする現実的な実証実験もある。電柱にセンサーを設置し、歩行者や車両の接近をバスの運転手に知らせるもので、運転手には骨伝導のイヤホンを通じてアラートを伝えるというものだ。兵庫県姫路市で実施された。

◆さらなる安心安全に向けて

世界に先駆けてV2V / V2Iの商用化を実現したITSコネクトは、社会への普及が進むにつれて、各地で実証実験が実施されるなど、さらなる安全安心の拡大が図られている。

そしてなにより、救急車の到着時間はこれ以上伸びてほしくない。ITSコネクトがすべてを解決するわけではないが、その一助となる可能性があるサービスであることは繰り返し述べておきたいポイントだ。

* 総務省:「令和4年版 救急・救助の現況」の公表(https://www.soumu.go.jp/main_content/000856261.pdf)

《佐藤耕一》

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