ヘリテージカー文化は日本に根づいたか?「オートモビルカウンシル」代表が語る時代の変化と夢 | CAR CARE PLUS

ヘリテージカー文化は日本に根づいたか?「オートモビルカウンシル」代表が語る時代の変化と夢

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ヘリテージカー文化は日本に根づいたか?「オートモビルカウンシル」共同代表 関 雅文氏にインタビュー。写真は2022年の同イベント。
ヘリテージカー文化は日本に根づいたか?「オートモビルカウンシル」共同代表 関 雅文氏にインタビュー。写真は2022年の同イベント。 全 8 枚 拡大写真

インドアのカー・ミーティングといえば年初の東京オートサロンが有名だが、春に同じく幕張メッセで行われる「オートモビルカウンシル」は、ヒストリックカーが主役のイベント。2023年は4月14~16日の3日間が会期となり、前売りチケットは入場前日まで発売となる。

同イベントは、国内外の自動車メーカーが歴史的に価値が高く、中には博物館クラスの名車を参考出品するなど、貴重な旧車(主催者は敢えて“ヘリテージカー”と呼んでいる)コレクションが一同に会する、サロン色の強い集まりでもあった。第8回を迎えた今年は、イベントのメインコンセプトが「クラシック・ミーツ・モダン」から、「クラシック・ミーツ・モダン・アンド・フューチャー」へと変更されている。

この変化が何を意味するか、オートモビルカウンシル実行委員会で共同代表の一人である関 雅文氏に、尋ねてみた。

◆若い人に興味をもってもらえなかったら何の価値もない

関 雅文氏(以下敬称略):今、発売されている車もヘリテージがあって成り立っている事実にスポットライトを当て、来場者に興味もってもらえるように提案していこう、ということです。コロナ禍での3年間の経験が今後の社会に反映されていく中で、現在地から歴史をふり返るだけでなく、これから自動車がどうなっていくか歴史の中から学び、車がどうなるか考えながら歴史を見ましょうよ、と。

これまで7年間は確かに旧い車が中心でしたが、核となる部分、車の楽しさは変えずに、領域を広げて捉えることでお客様により幅広い選択肢を紹介したい。そこで今回は以前だったら対象外だったかもしれない、コンセプトカー出品や、BYDさんという日本ではEV専業のメーカーを新たに迎えました。来場するお客様はクラシックカー好きでも、普段の車の選択肢にEVも入っています。それとて40年後のクラシックカーかもしれません。そういう長いスパンでイベントを見ていく想いで、「クラシック・ミーツ・モダン&フューチャー」とつけました。

----:関さんはオートモビルカウンシルを始めた当初から、ヘリテージ車を並べるだけではなく、文化を見せるイベントにしたいと口にしていました。近づいてきましたか。

:これまではクラシックなスポーツカーの出展が多かったけど、今年からSUVやキャンプ・ギアを立ち上げます。それと4輪だけでなく、2輪と3輪それぞれのメーカーが2社、出展してもらいました。お客さんにとっても、ファッションも絡めば2輪も元々やってきた趣味ですから。他に模範とするイベントがある訳ではないけど、車を中心にした文化フェスのようなものが出来上がるといいな、と。ぼくも66歳ですから、若い人たちにバトンをパスする時が間もなく近づいてくるので、車の文化を様々な領域から捉えて、少し違う視点で見ていきたいですね。

----:これまでは、いわゆる旧車・名車を好事家だけが集まってが古い車を並べて、好事家が集まってくるようなイメージが多少あったかもしれません。すると今後は、若い人に関心をもってもらって、次のカーライフに繋げていくような感じでしょうか。

:若い人の車離れがいわれて久しいですが、自動車はあの世まで乗っていける代物ではないですから、若い人に興味をもってもらえなかったら何の価値もありません。今は預かっているけど、いつかは若い人にバトンとして渡すべきもので、長いスパンで古い文化を継承してもらいたい意識はあります。自動車を文化として、若い人たちがどういう風に楽しめるか、ぼくらも寄り添う、あるいは寄り添わせてもらわないと。そこが他の自動車イベントと異なるところだと思います。

----:では、具体的に若い人たちの注目を集め、足を運んでもらうためのアクションはどのようなものでしょう。

:ひとつはSUVギアのコーナーですね。ヘリテージさんという、「ライトニング」「クラッチ」「セカンド」といった車をファッションとして捉える若い人たち向けの雑誌社さんが、出展します。メーカーや自動車業界の人はハード、スペックに走りがちです。服も素材が昔の方がいいからと、古着が盛り上がっているじゃないですか。そういう人たちが自分たちに似合う車とライフスタイルとは、どのようなものか。排気量が何ccで何馬力じゃなくて、生活の中に旧い車が入って来るのが心地いい、という方々の車との接し方があると思います。

◆音楽も車も、それぞれのきっかけ作り

----:今年の開催で、新機軸といえるテーマ展示はありますか。

:まだすべてのテーマが揃った訳ではないですが、自動車メーカーさんの展示の中では三菱自動車さんが、PHEVの歴史を披露します。これまで規範となる車がどのようなもので、今後のそれがどういうノウハウになっていくのか。もうひとつは、名古屋でレース用エンジンを手がけるエイム社さんが、コンセプトカーを世界に先駆けてここオートモビルカウンシルで発表します。当然、市販を視野に入れている少量生産のモデルと思われます。世界的に見ても、造り手が野心作を初お披露目するのに、敏感度の高い顧客が集まるイベントの場を選ぶといったことは、アメリカのペブルビーチやイタリアのヴィラ・デステでも同様に起きています。オートモビルカウンシルをそうした発信の場に選んでもらったということ。

もうひとつ大きなテーマ展示としては、ポルシェ『911』の60周年が。911は今もすごい人気ですが、基本設計が1964年の初号機から変わらないという、世にも稀な車種。4台のエポックメイキングな車両が展示される予定です。あとこれも大きなテーマ展示ですが、エンツォ・フェラーリの生誕125周年です。歴代のスペチアーレ、1984年の『288GTO』からエンツォが没する直前に発売された『F40』、その10年後の『F50』、それと『エンツォ』。さらに日本にフェラーリが輸入されて50周年を記念した日本専用の限定モデル『J50』と、モンツァ750のオマージュモデル『SP1』という、6台が一同に会します。車の魅力や造形美をマニアには無論、若い人にも感じていただいて、スポーツカーの新たなファンを獲得したいですね。

----:音楽イベントは、少し懐かしめの曲目やアーティストが多い気がします。これはどういったテーマで組まれたのですか。

:自分の趣味も多少、入っていますが(笑)。でも例えば、クラシックは嫌いじゃなくても、今さらイチから知るのは…という感覚、ありますよね? 車を見に来たけど、音楽もあるんだ! という出会いの場にしたい。美しい音楽、アート、車って、カルチャーとして根ざすもの、究極を目指す点は共通。初日の特別内覧日には、P308というグランドピアノの生演奏を催します。ショパン・コンクールでスタンウェイの牙城を切り崩した、ファツィオリ社というイタリア製のピアノです。ブレッド&バターさんは72歳でも現役ですから、リアルタイム世代はもちろん若い人にも共感してもらえるんじゃないかな。またYMOのバックで弾いていた渡辺香津美さんが、フラメンコ・ギターの沖仁さんとスペシャル・ライブ・デュオで演奏します。若いミュージシャンと演じる機会は必見・必聴です。

音楽も車も、それぞれのきっかけ作りなんです。どちらがきっかけでも音楽でも車でも、最高級のものが最初の入り口になると最高の思い出になりますから。面白いと思うか、そうじゃないかは、来場者の感性にお任せします。でも文化を育てる、インスパイアされる場を用意することって、効果や効率だけじゃ測れないんですよ。無駄をしないと幅が出ません。本当にそれ投資効率あるのか?で終わっちゃうのが、逆に経済が委縮するきっかけですよね。このイベントは半分、お客さんにとって遊びですから、効果効率のロジックはお客さんに失礼。何かを感じて帰ってもらうことに価値や意義があるから、それを車と音楽を通じてやっているんです。

◆即売会ではなく「夢の博物館」

----:ところで出展者にはショップも多いですが、実際に並んでいる車を買えるのも他のイベントにない魅力ですが、これだけヘリテージ車両の出展があるということは、かなり売れるということでしょうか。

:まず出展者のショップさんには、私たちの考え方に賛同いただいていると思います。主催側としましては、即売会をやっている訳じゃないんです。「夢の博物館」が元のコンセプトですが、並ぶ車を実際に入手できたら楽しいことじゃないか? 何台がいくらで売れたかについて、主催者側はタッチしていません。出展社も来場者も喜ぶ、ウィンウィンのビジネスです。我々が仲介するのではなく、誰に対してもフェアなビジネス。だから時価や応談ではなくプライスタグは必ず出して下さいとお願いしています。人を見て価格を変えるのはフェアじゃないし、そういう店が一軒あると、中古車を扱うショップ全体が十把ひとからげに悪しく見られてしまいますので。

----:海外の自動車ミーティングで盛んな、競売オークションを入れることは考えていますか。

:ごく限られた方々は実践されていますが、日本の文化に合うかというと、海外の事例を見ながらまだ一般的ではないと思いました。もちろん否定しているわけではなく、今はご縁もありませんが、まだ8回目ですから。世の中がそうなってきたら発展的に進化すべきだと思いますが、まずは着実にコンテンツのひとつひとつをモノにしていくのが優先です。

----:ライフスタイルと車の話に戻りますが、車以外の周辺アイテムの出展で、新たな見どころは?

:タイヤメーカーさんやサプライヤさんが、基本的にB to Cの展示を用意しています。車関連のアパレル、アクセサリーの出展も複数社あります。ガレージのプロデュースや設計を手がけるデイトナハウスさんのような例もあります。あとコーンズさんが計画中の千葉・曲川のクローズドコースについても発表がありますので、車をどう楽しむかという提案もあります。5年前から、オートモビルカウンシルという会員クラブも運営しておりまして、日帰りの規模で一緒に走る、一緒に遊べるようなドライブ企画も行っています。

少し大げさにいいますと、テキサスで行われる「サウス・バイ・サウスウェスト」のような、テクノロジー・ショーだったけど車や音楽が入って来てアーティストらが演じたりして、カルチャーの交差点になった…ああいうイベントを目指したいです。そこに行けば一日遊べて、車も見られる、音楽も聴ける、食事もできる。車と音楽を軸に楽しい時間を過ごせる場、ですね。そういう風に文化の中で自動車を位置づけられたら。それが我々の残せる仕事かなと思っています。

《南陽一浩》

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