車両のキズ・ヘコミ修理を専門とする「鈑金塗装(車体整備)」業界は今、大きな転換期にある。物価高騰に伴う材料費の上昇、熟練の鈑金塗装職人の高齢化と深刻な人材不足、さらには自動車の電子制御化(ASV)による修理難易度の向上など、課題が山積している。
そのような逆風をものともせず、格安・短納期を武器に驚異的なスピードで勢力を拡大しているのが、“ あ、キズ直そ ” をブランドスローガンに掲げる鈑金塗装専門店「池内自動車」を展開する株式会社イケウチ(東京都千代田区麹町/池内美友代表取締役社長)だ。
2025年1月から12月の間に、直営16店舗を新規オープンし、北海道から九州まで全国30店舗へと拡大。同年の年間実績は30,496台(全店舗合計)に達したことを2026年1月に発表した。この躍進の背景には、どのような戦略があるのか。取締役CFOで公認会計士の瓦井剛氏に、同社の事業戦略や今後の展望などを聞いた。
家業の「事業再建」が始まり
池内代表の経歴や鈑金塗装事業に参入したきっかけは、株式会社イケウチのコーポレートサイトで確認できる。大学卒業後に入社した損害保険会社で実績を上げていたが、家業の危機を救うために有限会社池内自動車へ入社。翌1997年2月に同社の代表取締役に就任したのち、組織を刷新して2014年に新会社・株式会社イケウチを設立し、2021年6月から代表取締役社長となる。この転換が、現在の快進撃の土台となっている。

Web戦略で「ターゲットを絞り込む」
池内代表は、多額の負債を抱えた状態からのスタートだったが、Webマーケティングの徹底活用に可能性を見出す。
全国にある直営30店舗は、電子制御装置整備対象車のバンパー脱着などを行えない工場である一方、強力なWebマーケティングで依頼を受け、自社で対応可能な作業だけを受注していく体制も特徴だ。
試行錯誤を重ねながら自社Webサイトを作り込み、Web広告による認知拡大と集客に注力。短納期・低価格の小キズ・ヘコミ修理を希望する一般のカーオーナーに向けて、耳に残るキャッチコピーを用いたWeb展開に加え、ラジオやテレビCMといったマス媒体も戦略的に組み合わせることで「格安鈑金=池内自動車」というブランドイメージを確立。
埼玉・東京・千葉・神奈川といった関東エリアを中心に認知拡大が図られ、徹底したブランディングと強力なWeb戦略を継続的に展開したことが、圧倒的な集客に結びついていることが伺える。緻密に考え抜かれたブランド構築とWeb施策の実行が、絶大的な集客効果を生むことを証明している事例と言えるだろう。

部品交換せず「鈑金塗装」で仕上げる
近年の車両はセンサーやカメラの搭載により、修理には最新の技術情報と、高度な設備や最適な塗料、電子制御装置整備を行える特定整備認証の取得も必要となるため、必然的に鈑金塗装のサービス価格は高額になる。
一方、イケウチでは、スピーディかつ低価格な鈑金塗装を実現するために、可能な限り部品交換をせず、鈑金塗装でボディの見た目をキレイに仕上げる小キズ・ヘコミ修理に特化する戦略をとっている。必要最小限の設備で鈑金塗装を行い、スピードアップと低価格化を実現。Web広告でターゲット層を絞り込んでいるからこそ効率的で最適な集客を行えると、瓦井CFOは述べた。

鈑金塗装職人の稼働を最大化する「シフト制」と「分業制」
2025年に直営16店舗を新規オープンし、北海道から九州まで全国30店舗展開となったイケウチには、日々多くの鈑金塗装依頼がある。どのような体制で作業を行なっているのか尋ねたら、池内代表の考えで創業当時から鈑金塗装職人の稼働を最大化させる「シフト制」を導入しているという。
「一般的な鈑金塗装工場は1拠点完結型ですが、当社には全国30店舗のネットワークがあります。例えばA店が多忙でB店に余裕があれば、B店の鈑金塗装職人がA店へ助けに行く。1ヶ月前に組んだシフトを現場の状況に合わせて柔軟に変更し、鈑金塗装職人の “ 手持ち無沙汰 ” な時間をなくして常にフル稼働できる体制を整えています。これこそが年間3万台を達成できた原動力です」と瓦井CFOは語った。
また、技術者の生産性を高めるために「分業制」を導入していると、瓦井CFOは話す。
「業務全体の中で、鈑金塗装職人にしかできない高度な作業は3割程度というのが弊社代表の考えです。フロント受付や洗車、納車・引取りといった作業を鈑金塗装職人の業務から切り離し、“ コアな仕事 ”に集中できる環境を作っています。
これにより、残業なしでも高い生産性を維持できています。現在120名いる鈑金塗装職人のうち、40名を占めるベトナム人スタッフも、この分業制によって早期に技術を習得し、目覚ましい成長を見せています」と、瓦井CFOは分業制の導入理由や、その効果についてわかりやすく説明してくれた。
2年後に国内「100店舗」展開を目指す
瓦井CFOは、池内代表の根底には「鈑金塗装職人の給料を上げ、安心して家族を持てる業界にしたい」という強い想いがあることを強調する。
「他社より高い給与水準と、残業のない環境。これらを整えることでベテランから若手、外国籍の方までが鈑金塗装という仕事に誇りを持って働ける場所に変えていきたいというのが、弊社代表の想いです。2026年1月時点では直営30店舗ですが、2028年には全国100店舗を目指し、海外進出も見据えています。私たちはこの鈑金塗装業界を、より明るい場所に変えていきます」と、瓦井CFOは力強く語った。
今回の取材で、“ 早く・安く・見た目がキレイに直っている ”ことを求める一般カーオーナーをターゲットに、戦略的なWebマーケティングと限定的な鈑金塗装に特化することで、イケウチが急拡大した背景が見えてきた。属人的になりがちな鈑金塗装業界において、集客のデジタル化とシフト制や分業制を持ち込んだ同社の手法は、実に興味深く注目事例と言える。全国100店舗体制や海外進出というビジョンがどのように具現化されていくのか、今後の動きも注目したい。


