小学校でEVを学ぶ時代、企業と共同授業の狙い…地元ジオラマに発電型ミニ四駆を配置せよ[なかの電動化スクール] | CAR CARE PLUS

小学校でEVを学ぶ時代、企業と共同授業の狙い…地元ジオラマに発電型ミニ四駆を配置せよ[なかの電動化スクール]

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制作された特製ミニ四駆
制作された特製ミニ四駆 全 28 枚 拡大写真

日産自動車タミヤ新渡戸文化学園の共同で「EVの可能性と未来のまちづくりを考える」というテーマのワークショップが3月11日、12日に開催された。

対象となったのは新渡戸文化学園(東京都中野区)に通う小学4年生。未来の自動車ユーザーへ向けて、EVの技術と生活の在り方を学んだ。また、12日には特別ゲストとして中野区の酒井直人区長が参加した。

◆業界横断の授業で、メーカーが果たす役割とは

11日のワークは、日産自動車講師によるEVの仕組みや未来の可能性のレクチャー、タミヤ講師による特性の手回し発電型『ミニ四駆』制作、走行の体験。12日は、児童が前日のワークをもとに「EVでわたしたちの街や暮らしがどうかわるのか?」を大テーマに中野区のジオラマを使って「安心な街:停電の街を照らす」、「楽しい街:遊び場を作る」という二つの課題に取り組んだ。

プロジェクトのポイントの一つは、二つの企業と学校が共同で企画していることだ。これまでも企業が主催のいわゆる「出前授業」が行われてきたが、子供が主体的に活動することに注目し、学校、教員と連携して計画を練る取り組みは新しい。企業がゲスト的に企画、プレゼンをするというよりも、日産が用意したジオラマ、タミヤのミニ四駆を使って、実践的に学習する場であるという印象を受けた。

この三者の組み合わせは、よく見ると面白い。日産、児童の関係は、換言すれば、オトナの世界と子供の世界ともいえるだろう。日産は、EVの魅力や可能性を、近い未来にユーザーとなってゆく子供たちに知ってもらいたい。しかし、自動車産業は、EVは、子供にとって直接、手の届く世界ではない。そこで「タミヤ・ミニ四駆」が活きてくる。

今回、児童がジオラマの中で用いる特製ミニ四駆は、手回し式発電と、蓄電、豆電球への電力供給の機能を持ったもの。これは、小さいながら、まさしくEVだ。自らの手で作った、文字通り身近なEVだからこそ、その仕組みへの理解は深まる。日産、児童との架け橋的な役割をタミヤは果たしていた。

◆「人を助ける」ことから街とEVを見つめ直す

12日のワークの目玉は、体育館に置かれた中野区のジオラマだ。実在する建物が、大小様々なボックスで再現されている。建物の上部には地図記号が付されているが、これが一つ目のワーク「安心な街:停電の街を照らす」のポイントとなった。

児童にはシナリオ「中野区が停電し、電気で動くものは全て止まっている。あなたは満タンに充電されたEVがある。どこに、誰に電気を届けるか」が与えられる。街の人がどうして、どこで困っているか想像し、事前に学んだEVの蓄電機能を使って、どうやって人々を助けられるかと考えるワークだ。

そこでヒントになるのが地図記号。ジオラマを歩いて、EVを置く位置を模索する。どこに病院があって、どこにスーパーマーケットがあって……、と慣れ親しんだ街を俯瞰して、手にした「EV」を配置していく。病院などの要所を選ぶ者もいれば、各施設の中間的な位置に配置する者もいる。

「EVを動かして自在に電気を届けられる」というアイデアに、なるほどと思いながら、EVは単なるエコカーではなく、ライフラインを支える存在にもなり得ることを改めて考えさせられた。

◆EVで街を「楽しく」できるということを考える

もう一つのワークは「楽しい街:遊び場を作る」だ。中野の街に、EVを用いた新しい遊び場を作ろうの主題をもとに、グループになって何を作りたいか考え、実際にジオラマを使用して遊び場を作るワークだ。3人1組となり、ホワイトボードを使ってアイデアを話し合う。

プランが固まると、色ペンや折り紙、その他カラフルな工作グッズを選び、ジオラマに各々が構想した遊び場を作る。電気で動く複合施設・自動車を作り上げた児童もおり、発表によるとゲームセンターやバーなどが入っており、電力を駆使して楽しめる施設になっているという。

事前にEVの蓄電、電気利用を学んだ児童は、公園や屋外にできる遊び場や、アーケード内などクルマがこれまで入れない所を模索するなど、EVでできることの可能性を体験した。ワークの終わりには、白一色だったジオラマがカラフルでにぎやかなものとなり、子供たちの描く未来の楽しい中野の街が出来上がっていた。

◆3者の狙いと「EV授業」普及の可能性

ジオラマとミニ四駆の手回し発電機構を提供した、日産自動車のEV戦略マネージャーである寺西章氏は「未来のEVオーナーを担ってもらおうとEVの魅力を幅広く楽しく伝えることに注力した。一番の思い出となってもらうことを意識し、将来クルマ好きになる原体験を作りたかった。」とその思いを語った。

また、実際に多くの技術者がタミヤのミニ四駆や、模型を原点としていたということも語っており、クルマと未来を繋ぐということがキーとなっているようだ。

タミヤの満園紀尚氏は「イチから組み立てやカスタムをしてもらい、その工程を実際に楽しんでもらった。地元の静岡では、小学生の7割が模型に触れたことがないとのデータがあり、今回、タミヤのミニ四駆に触れてもらうことで興味を持ってもらうきっかけとなったことがよかった。」と語る。

実は、満園氏は日産から授業のプロジェクトを持ち掛けられたときは「ウチにどんなことができるか」と困惑したとのこと。しかし「手回し発電したものがモーターで動く。これってEVですよね」と話が進む中で納得し、ものづくりを得意とするメーカーだからできることに取り組んだという。

授業を担当した栢之間倫太郎教諭は、「EVのなんとなく環境にやさしいといった漠然としたイメージを、子供たちが楽しみながら学ぶ機会を得られたことで、実体験を持って具体的な知識にすることができた。一方的ではなく、多方向的な学習方法を取り入れることができ、教育と企業の関わり合いの価値を認識できた。総合的な学習の時間として、理科・社会・図工・算数といったような要素を複合的に学習することができた」と述べる。

EVを媒介とすることで、ものづくりの技術や自分たちの暮らす社会を実感する、有機的な学習ができることがここではポイントとなっている。また、企画を作りあげていく中で各企業の存在する意味を再考し、異なる業種、企業が目的をすり合わせて協力していくというプロセスにも大きな意味があったと話している。

新渡戸文化学園は、こうした活動をモデルに、調整を加えながら他の学校にも応用できる授業を考えていきたいと結んだ。また、ゲストで参加した酒井区長は、新渡戸文化学園の視察を過去にも行っており、公立校授業の参考にしているという。

《大矢根洋》

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