開発担当の駒路氏に聞く! 新型マツダ『ロードスターRF』の最大の魅力とは?
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◆発想の転換で一気に構造を決定
----:まずファストバックになる、ということにはどう思われましたか?
駒路知博氏(以下敬称略):色々な所で語られていますが、ND型のディメンションはNC型から大きく変わっています。つまりこれまでと同じやり方では通用しない。ファストバックスタイルにするということはデザイン部門から来たので開発としてはそれをどのように形にするかを考えました。
----:RFはルーフを3分割にする構造ですが、これが決まるまではかなり苦労もあったと思います。
駒路:ルーフの分割数や構造も含めて実は7種類候補を作り検討しました。ただパーツが増えればコストや精度、さらに耐久性の問題なども多くなります。ディメンション自体は決まっていたわけですし、ある意味“発想の転換”になるのですが、リアルーフを残しながらファストバックスタイルを実現するならこの3分割案しかない、ということで決定しました。
----:この3分割ルーフはどのような素材で構成されていますか?
駒路:フロントルーフがアルミ、ミドルルーフが鉄(鋼鉄)、リアルーフが樹脂になります。
----:素材の決め方についてはどのような流れがあったのでしょうか。
駒路:重量バランスやオープンでもクローズでも高いハンドリング性能を実現するために軽量化は重要です。面積の広いフロントルーフにはカーボンを使えばいいんじゃないか、という質問も受けましたが、コストはもちろん強度的にも厳しいですし最初からアルミに決めていました。
----:ミドルルーフが鉄ですが、ここもアルミにするという考えは無かったのでしょうか。
駒路:まず重要なのはトータルでの剛性や強度です。これをアルミにすると補強材なども必要なので結局、鉄を使うのと重量的にも変わりません。もちろんここにはハイテン(高張力鋼)材を採用しています。
----:リアルーフを樹脂にした理由は?
駒路:もうこれは樹脂しか考えられません。このデザインを実現するためには成型の自由度の高さが必要だからです。精度的な部分も含め、アルミや鉄もここまで作り込むのは難しいですね。
----:それぞれ異なる素材になりましたが、これが理想のチョイスだということでしょうか?
駒路:理想、というのは技術屋的には答えづらいのですが(笑)、軽量化のために「ただ軽くすればいい」ということで高価な素材を使ってしまっては車両価格も上がってしまいます。この価格帯の中で最高の性能を出すために素材の部分も吟味して作り込んだ結果です。
◆芸術とも思えるルーフの動きに隠された技術とは
----:RFのルーフの動きは非常に滑らか、言い換えればとても美しいとも感じますが、RHTとはそもそも何が異なるのでしょうか。
駒路:元々RHTは個々のルーフの動きを止めてシーケンシャル(連続的)に動かしていました。しかしRFの場合はリアルーフの動きに対し、フロント&ミドルルーフをオーバーラップさせて動かすことで流れるような開閉を実現しています。
----:動き自体も非常に複雑になると、精度の点でも難しさが出てくると思いますが。
駒路:RFはRHT以上に精度を高めています。最初に言ったようにファストバックスタイルを実現するためにボディやリアルーフ、トランクの部分に一体感を持たせたパーティングライン(見切り線)を通すために上下左右の合沿い精度を高めました。これに関しては開発、生産技術、サプライヤーが組み付けなども含め今までにないくらい、高い公差で行いました。
----:開閉にかかる時間は約13秒。RHTが12秒だったのに対し1秒増えています。
駒路:これはよく質問を受けるのですが、確かに社内で「何で1秒多いのか」という声もありました。しかRHTが開閉時に上部にあるロックを手動で外すのに対し、RFはすべて電動、ドアガラスの昇降も含めフルオートで行えます。
----:トータルではRFのほうが早い、ということですね。
駒路:それもありますが、我々が目指したのは開閉時の動きにも“上質感”を見せることです。13秒はその結果ということです。
----:滑らかな動きには何か工夫があるのでしょうか。
駒路:ルーフの開閉完了前にルーフの動作を減速させています。これはモーターの出力をどれだけ出すか、ということなので電流の量でコントロールしています。
◆難題をクリアした“特別”なクルマに宿る開発者の心
----:複雑な機構ゆえに耐久性が気になります。
駒路:まず動作させるモーターは5個。これはRHTと同じ物を使っていますが、このモーターは耐久性も含めベースの能力が高かったのであえて新しい物を採用しなくても十分以上の性能が出せます。耐久性に関しては回数というより10年間乗り続けていただくことを想定して作っています。
----:駒路さんはソフトトップの開発にも携わっていたそうですね。
駒路:はい、実はソフトトップも耐久性に関しては同様のレベルで仕上げてあります。ここで得た知見などもRFには生かされています。
----:エアロボードの形状はソフトトップとは大きく異なりますが。
駒路:ソフトトップが比較的小型でメッシュ構造だったのに対し、RFではオープン時の車内外の圧力バランスを最適化するために大型化してあります。クリア樹脂なので視界も良いのが特徴です。
----:RFに乗って何を感じとって欲しいでしょうか。
駒路:とにかくオープンにして、我々が作り込んだ走りや風の流れなどを感じて欲しいです。もちろんクローズにすれば静粛性の高さも感じ取ってもらえるはずです。伝えたいのはロードスターは“特別”なクルマということ。開発には無理難題もありましたが、それをクリアして作り上げたからこその自信もあります。進化はまだ続きますが、ぜひこの世界を堪能してもらえると嬉しく思います。
【インタビュー】マツダ ロードスター RF、動きひとつや素材にまで徹底的にこだわったルーフ
《高山 正寛》
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