【岩貞るみこの人道車医】あおり運転とパワハラ被害者の3つの共通点…「若い、弱い、弱者」
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自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第2条第4号「人、又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」
道路交通法に、あおり運転を規定するものはないけれど、これが「近いもの」なんだそうだ。
2017年6月5日に神奈川県内の東名高速道路で発生し、注目されたあおり運転。それから一年半後の2018年12月、初公判で、あおった運転手に懲役18年が言い渡されている(原稿執筆時の情報はここまで)。
◆あおり運転の事例から見えるもの
あおり運転って、強い人から弱い人へのフラストレーションの捌け口のようで、パワハラや児童虐待と構図が似ているなあとぼんやり思っていたら、警察庁交通局交通指導課の矢武陽子氏が国際交通安全学会(IATSS)に発表した「日本におけるあおり運転の事例調査」という投稿を見つけた。
それによるとまず、あおり運転自体は最近始まったことではなく、今から50年以上前の1968年にイギリスで研究されている。50年も前の、紳士の国イギリスでもそんな状態だったのかと、イギリスに親近感がわくようなわかないような不思議な思いである。
矢武氏は、2016-2017年に国内で発生した、上記の法律に適用されて送致された交通事故38件を調査した。調査対象数が少なく、もっと検証する余地はあるものの、興味深いデータが示されている。
◆あおり運転の加害者は「男性」
まず加害者は、38件のうち、全員が男性!
そうなんだ。男性なんだ。男性と女性、戸籍上の2種類で分けて私があーだこーだ言うのはちょっと抵抗があるけれど、全員男性というのは、これまで報道で伝わる加害者像と一致している。
そして被害者はというと、82%が男性、18%が女性とのこと。クルマを運転している人数に違いがあるため、ここは一概に女性が被害に遭いにくいとは言えない。
加害者の年齢はというと、30代が多い。しかし、これを年齢別運転免許保有者数で割ると、10代が多く、年齢が上がるにつれて減る傾向にあるらしい。若い方があおりやすい傾向ということか。大人になると、分別がつくの? 背負うものが大きくなるから? このあたりは、私が想定していたパワハラや児童虐待の構図とはちょっと異なる。
◆被害者は「若い、弱い、弱者」
では、被害者はというと、40代が多いものの、やはり同様に計算すると若い世代が被害に遭いやすいとのこと。ほほう。若い、弱い、弱者。このあたりは、パワハラや児童虐待の構図に当てはまりそうだ。
そして、社会的地位。これは、車両の価格帯から推測している。車両を、500万円超、200~499万円、200万円未満、トラックと分けたところ、加害者のトップの40%を占めるのは、500万円超のクルマ。続いて、200~499万円、200万円未満、とのこと。
逆に四輪車の被害者は、40%が200~499万円、35%が200万円未満、15%がトラック。500万円超は10%である。
私も仕事柄、さまざまなクルマに試乗させていただくけれど、軽自動車やコンパクトカーに乗ると、周囲のクルマから圧がかかるのがよくわかる。高級輸入車に乗らせていただくと、まわりがよけてくれるというか。
◆金持ち喧嘩せず…
ところで、被害者のところに「四輪車の」と書いたのは、もちろん理由がある。被害者全体の37%は、二輪車なのだ。
大きな高級車に乗っている人が、小さくて安価なクルマやバイクに乗っている人をあおる。そんな構図が見えてくる。高級車が購入できる社会的地位の高い人が、相手を見下し、その怒りを小さくて弱い人に向ける……あおり運転はそのパターンだけではないけれど、そういう傾向にあることは感じられる。
金持ち喧嘩せず。
私はこの言葉が好きだ。私の知っている社会的地位のある人は、実った稲穂のように頭を下げ、腰が低く、心配りのできる人が何人もいる。せっかちで気の短い私も、金持ちにはほど遠いけれど、クルマの中でも外でも喧嘩しない余裕をもった人間でありたいと、データを見つめながらしみじみと思うのである。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。
あおり運転とパワハラの相関性…被害者は「若い、弱い、弱者」である【岩貞るみこの人道車医】
《岩貞るみこ》
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