ダイハツの認証不正で報告書:短期開発の副作用、責められるべきは経営幹部 | CAR CARE PLUS

ダイハツの認証不正で報告書:短期開発の副作用、責められるべきは経営幹部

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ダイハツ工業は、2023年4月28日に公表した認証申請における不正行為を踏まえ、公正で独立した第三者委員会を5月15日付で設置し、事案の全容解明および原因分析に加え、当社の組織の在り方や開発プロセスにまで踏み込んだ再発防止策の提言を依頼した。

ダイハツは12月20日に、第三者委員会による調査報告書を受領したことを発表、同時に内容を公表した。



委員会の報告書によると、ダイハツが組織的に不正行為を実行したことを示唆する事実は認められなかった。不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだ、ごく普通の従業員であるという。問題の発生原因として、短期開発のプレッシャーの中で追い込まれたもので、従業員を非難することはできない。本件問題で責められるべきは、ダイハツの経営幹部であるとする。

報告書(12月20日付け)の概要は以下の通り。

◆調査の概要

4月28日、ダイハツは、海外市場向け車両(4車種)の側面衝突試験の認証申請における不正行為に関する対外公表(以下「第1次公表」)を行なった。

ダイハツは5月15日、第1次公表時に判明した不正行為の重要性に鑑みて、事案の全容解明、真因分析および再発防止策の実施に向け、ダイハツと利害関係のない外部の法律面および技術面での下表の専門家から構成される第三者委員会(以下「委員会」)を設置した。

ダイハツは5月19日、ダイハツ『ロッキーHEV』およびトヨタ『ライズHEV』のポール側面衝突試験の認証手続における、不正行為に関する対外公表(以下「第2次公表」)を行なった。

委員会は、第1次公表および第2次公表の各不正行為の事実関係の確認に加え、これらの不正行為に類似する案件(以下「類似案件」)を把握するための調査も実施して、ダイハツの法規認証業務における不正行為を認定することにより問題の全容を解明することとした。

具体的には、委員会は、認証試験に合格する目的をもって意図的に行われた以下の類型の不正行為を「類似案件」として把握するための調査を実施した。

(1)不正加工・調整類型……試験実施担当者等が、意図的に、車両や実験装置等に不正な加
工・調整等を行なう行為
(2)虚偽記載類型……試験成績書作成者らが、実験報告書から試験成績書への不正確な転記を行なうなどして、意図的に、虚偽の情報が記載された試験成績書を用いて認証申請を行なう行為
(3)元データ不正操作類型……試験実施担当者らが、試験データをねつ造、流用または改ざんするなどして、意図的に、実験報告書等に虚偽の情報を記載する行為

いっぽう委員会は、不正行為の認定とそれに伴う事案の全容解明および真因分析などを目的としており、委員会が認定した不正行為が対象車種の法規適合性に影響するか否かの検討はダイハツが実施した。

◆調査結果の概要

●第1次公表の不正行為

ダイハツが開発した海外市場向け車両(4車種)の側面衝突試験の認証申請における不正行為。試験実施担当者は、認証試験に不合格となった場合に開発、販売の日程を守れず大変なことになるとの思いで、認証試験に確実に合格することを目的として、認証試作車に加工した。衝突時にシャープエッジが生じないような割れ方をするように、樹脂製のフロントドアトリム裏面に切込みを入れるなどして量産車とは異なる手加工を行なった。

●第2次公表の不正行為

ダイハツ・ロッキーHEVおよびトヨタ・ライズHEVのポール側面衝突試験の認証手続における不正行為。認証手続においては左右の試験を実施する必要があり、その試験データの提出が必要だ。2021年7月に助手席側(左)の立会試験を実施したものの、運転者席側(右)での届出試験は実施しなかった。改めて試験を実施する時間も車両もなかったため、試験成績書作成者は、安全性には問題ないとの思いもあって、認証試験に合格するために、社内試験として実施した助手席側(左)の試験結果を運転者席側(右)の試験結果として提出した。

●委員会の調査で判明した類似案件の概要

委員会が類似案件として認定した不正行為は合計174個(不正加工・調整類型28個、虚偽記載類型143個、元データ不正操作類型3個)。一番古いもので1989年の不正行為が認められる。全体の傾向としては、2014年以降に不正行為が増加している。

関与した社員は、現場を担当する主に係長級のグループリーダーまでの関与が認められるにとどまり、一部の例外を除き、部室長級以上の役職者(以下「管理職」)が現場レベルの不正行為を指示し、あるいは黙認したというような、ダイハツが組織的に不正行為を実行・継続したことを示唆する事実は認められなかった。

国内生産車に関して認定した不正行為の例
(1)エアバッグのタイマー着火(不正加工・調整類型)
(2)試験結果の虚偽記載(虚偽記載類型)
(3)試験速度の改ざん(虚偽記載類型)
(4)タイヤ空気圧の虚偽記載(虚偽記載類型)
(5)助手席頭部加速度データの差し替え(元データ不正操作類型)

◆本件問題の発生原因

●不正行為が発生した直接的な原因およびその背景

法規認証業務における多数の不正行為が確認されたが、これらの不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだ、ごく普通の従業員である。

(1)過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー
(2)現場任せで管理職が関与しない態勢
(3)ブラックボックス化した職場環境(チェック体制の不備など)
(4)法規の不十分な理解
(5)現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化、認証試験の軽視

●現場の実情を管理職や経営幹部が把握できなかった原因

(1)現場と管理職の断絶による通常のレポーティングラインの機能不全
(2)補完的なレポーティングラインである内部通報制度の運用の問題
(3)開発・認証プロセスに対するモニタリングの問題

●本件問題の真因

(1)不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題

本件問題は法規認証業務に組み込まれた各種の要因に起因するもので、短期開発の副作用ともいえる。しかしダイハツの経営幹部は、不正行為の発生を想定しておらず、法規認証業務において不正が発生する可能性を想定した未然防止や早期発見のための対策を講ずることなく短期開発を推進した。その結果、短期開発のプレッシャーの中で追い込まれた従業員が不正行為に及んだ。

不正行為に関与した従業員は、経営の犠牲になったといえ、強く非難することはできない。本件問題でまずもって責められるべきは、不正行為を行なった現場の従業員ではなく、ダイハツの経営幹部である。

低コストで良質な自動車を提供するために短期開発を「ダイハツらしさ」と捉え、他社との差別化要因として推進すること自体については、経営方針として問題はない。その反面、そのような経営方針による組織内の歪みや弊害についても、リスクを察知する必要があったところ、この点でダイハツの経営幹部のリスク感度は鈍かったといわざるを得ない。

(2)ダイハツの開発部門の組織風土の問題

「自分や自工程さえよければよく、他人がどうであっても構わない」という自己中心的な組織風土が、認証試験の担当者に対するプレッシャーや部門のブラックボックス化を促進し、リスク情報の経営層への伝達を滞らせる土壌となっていた。こうした問題は開発部門に限られるものではなく、ダイハツの全社的な組織風土、すなわち「社風」として根付いている可能性がある。

◆再発防止策の提言

(1)経営幹部から従業員に対する反省と出直しの決意の表明
(2)硬直的な「短期開発」の開発・認証プロセスの見直し
(3)開発・認証プロセスに対する実効性のある牽制
(4)コンプライアンス及び自動車安全法規に関する教育研修の強化
(5)職場のコミュニケーション促進と人材開発の強化
(6)内部通報制度の信頼性を向上させるための取組み
(7)経営幹部のリスク感度を高めるための取組み
(8)改善への本気度を示す経営幹部のメッセージの継続的な発信
(9)本件問題の再発防止策を立案・監視する特別な機関の設置

《高木啓》

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